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【番外編】義理の弟は、姉の秘密を知りたがる3

番外編です。

3話+番外編の番外 の4話構成になります。

どうぞよろしくお願いいたします。

私、オリビア・グレイには、前世の記憶がある。



その記憶によると、私は前世大好きだった小説のシリーズ2作目の悪役令嬢に転生した。

記憶を取り戻した当初は、小説と同じ運命を辿ると思っていたが、今や小説とは全く別の道を辿っている。


なんせ、物語では憎しみ合っていたはずの義理の弟と、愛を囁く関係になったのだ。


悪役令嬢の役目を放り出し、同じ学園に入学してきた1作目の主人公達をオタク魂で追いかけ回していた結果、なんやかんやでそうなった。


本当、なんでなのか不思議でならない。


私自身、予想外過ぎて実は夢だったのではないかと思う時もある。


けれど、毎日の様にルークが恥ずかしげもなく愛を伝えてくれるので、夢ではないのだと信じることが出来た。

あまりにも甘い言葉や態度は、恥ずかしすぎて対応に困るけれど......。


昨日も執事や侍女の前で、甘い雰囲気を出された時は、腰が砕けるかと思った。

いや、もうほぼ砕けていた。

もう少し手加減して欲しい。


けれど、私を愛しているが故の行動だと思うと単純に嬉しかった。


ルークと愛を育み、順風満帆な日々。


しかも、学園でのオタク活動も順調なのだ。

今のところ、見たい場面は余すことなく見ることが出来ている。

これも朝、昼、放課後と追いかけ続けた賜物である。

ストーカーまがいの行為なので、褒められたことではないけれど。


私生活もオタク活動も、順調すぎて怖いくらいだわ!最高!と、私はかなり油断していた。

昨日ルークが、私の帰りが遅いことを怪しんでいたことも忘れて......。



今日も今日とてオタク活動に勤しむ私は、学園にある庭園で草陰に隠れていた。

視線の先にはアランとメアリーがいる。


メアリーはベンチに腰かけたアラン殿下の肩に頭を乗せ、すやすやと眠っていた。

昨日、婚約者に罵られて傷ついていた彼女は、夜あまり寝ることが出来なかったのだ。

放課後、アランと庭園で話している最中、気持ちが緩んだのかメアリーはそのまま寝てしまった。


アランは自分の肩に寄りかかるメアリーを起こさないように、静かに本を読んでいる。

時折メアリーの寝顔を覗いて、幸せそうな顔を浮かべる様子が、オタク心をくすぐる。


(あぁ~最高。微笑ましい光景だわ。心が癒される)


顔がにやけるのを抑えることが出来ない。


この後、メアリーが目を覚まし慌ててアランの肩から離れようとするのだが、アランがそれを止めて「もう少し、このまま......」と囁くのだ。


今日はそれを見るまで、私はここから動かないぞ......!と心に決める。


(本人たちにバレないように気を付けないと......)


この追っかけという名のストーカー行為。

我ながら気持ちの悪いことをしている自覚がある。バレたら何らかの罰があるのではないだろうか。

ルークもこんな行為をする姉をどう思うだろう......。


そう思うと、つきりと胸が痛む。


けれど、バレないように隠れて見守るので許してほしい。

恐らく気づいているであろう護衛さん、どうか私をしょっ引かないでね......。


そんな保身に走ったことを考えていると、後ろからパキリと枝を踏むような音が聞こえた。


なんだろう?

静かな場所なので、音が良く響く。

私は何気なく振り返った。


そして、驚きのあまり息が止まった。


なんと、そこにはこの学園にいるはずのない人物が立っていたのだ。


ダークブルーの髪と瞳。

端正な顔だちのその人物は、紛れもなく私の義理の弟である。


「る、ルーク......!?」


思わず、立ち上がり名前を呼ぶ。

動揺して声が裏返ってしまった。


何故、ルークがこんなところにいるんだろう。

今頃は家にいるはずなのに......


混乱を極める私とは対照的に、ルークは静かにこちらに近付いてきた。

そして、目の前で立ち止まり私の目をじっと見つめる。


「姉さん。こんなところで何してるんですか?」


私を見下ろすルークは、いつぞやと同じく不穏な空気を纏っていた。


(で、デジャヴ)


ダラダラと冷や汗が出てくる。


ルークこそ、こんなところで何をしているのか教えて欲しいが、聞ける空気じゃなかった。


ルークの質問に答えるなら、オタク活動という名のストーカー行為をしていました、と言う他ないのだが、そんなこと言えるはずがない。


「え、え~と。庭園にお花を見に......」


苦し紛れの言い訳を口にする。

私を見つめていたルークが、その答えを聞いてふわりと微笑んだ。


わ、笑った。

なんて良い笑顔なんでしょう。

誰もが見惚れる笑顔とは、こういうことを言うのね。


......でも今は、その笑顔が逆に怖い。


「そうですか。あの男子生徒を熱心に見つめている様に見えましたが、俺の勘違いだったんですね」


やはりバレている。


もはや、冷や汗が滝の様だ。

アランを見ていた事実は、誤魔化せそうにない。

正しくはメアリーもいるので、アランだけを見つめていた訳ではないのだけれど。

ストーカー行為がルークにバレてしまいそうなこの状況をどうにかしようと、私は混乱する頭で必死に言い訳を考える。


「た、確かに花を見るついでに、あの人のことも見ていたんだけど、深い意味はないわ。背景に花があると一枚絵みたいだなと思ってたの。前、隣国の花を持っていた時も絵になってたけど、今日の何気ない姿もなかなか素敵よね~、なんて......」


そこまで言葉にして、私は自分が失言をしてしまったのだと気が付いた。

会話の途中、隣国の花について言葉にした瞬間、ルークが表情を消したのだ。


(あ...。やってしまった?)


さっと顔が青ざめる。

あまりに動揺しすぎて、余計なことを口にしたのではないだろうか。


ルークの視線がアランへ向いた。


「......隣国の花を持っていた?もしかして、あの男子生徒が姉さんに花を贈った相手ですか?」


「ち、違うわ!あの花は自分で買ったって言ったでしょう?あの人は違う人に贈るために花を持っていて......。それを見て私も欲しくなって......」


ルークの顔がどんどん険しくなっていく。

上手く説明出来ないのがもどかしい。

説明しようとすればするほど、話がこんがらがっている気がする。


「つまり、あの人が持っていたから、あの花が欲しくなったと?」


「いや、そうなんだけど、でも......」


何か違う。絶対にルークは勘違いしてる。

慌てふためく私を前に、ルークは何か腑に落ちたかの様な顔をした。


「......ああ、なるほど。好意のある相手が持っていた花だったから、姉さんはあの花を買ったんですね」


ルークの声がいつもより低い。


ルークからすれば、私がアランに好意があるから、アランが持っていた隣国の花を手に入れたかの様に見えたようだ。


違う。誤解なのにと、胸が痛む。


今更ながら、隠し事をしたことを後悔した。


オタク活動を隠したかっただけで、まさかこんな事態になるとは思わなかった。

こんなことなら、正直に全部話してしまえば良かった。

気持ち悪がられるかもしれないけど、それでもルークの疑問が晴れるなら、それでいい。


今更遅いかもしれないけれど、全てを話をしたい。


「ルーク。違うの、私ね......」

「姉さん。俺が姉さんに気持ちを伝えた日に言ったこと、覚えてますか?」


ルークが私の話を遮り、言葉を被せた。


早く正直に話してしまいたかったけれど、じっとこちらを見るルークの顔があまりにも真面目だったので、聞かれた質問に先に答えることにする。


けれど、ルークの言う「気持ちを伝えた日に言ったこと」とは何だろう?

あの日ルークは色々と語っていたように思う。どれのことを言っているのだろうか。

私は眉を潜めて、首を傾げた。


答えを考え込む私を見て、ルークは朗らかな笑顔を向けた。


「姉さんが一番に想う相手を、殺したいって言ったんです」


紡がれた言葉に、驚き固まる。

笑顔で言うにはあまりに物騒な言葉だ。

けれど、確かにあの日、ルークが私に言った言葉である。


私に聞こえるように、ルークはゆっくりと言葉を続ける。


「姉さんが、あの男子生徒のことを好きなら、俺は今すぐあいつを殺します」


まるで、愛を囁くかの様な優しい声。

私はルークから目を逸らせなかった。

呆然と立ち尽くす私の頬に、ルークがそっと手を添える。

優しく頬を撫で、そのまま手を離すと、アランの方へ足を向けた。


今からルークが何をしようとしているのか理解した私は、慌ててその手を掴んだ。


「待って、ルーク!勘違いだから!!」


なりふり構わず、ルークの腕にしがみつく。

ルークはこちらを振り返ることなく、ただ一点、アランを見つめていた。


「隠してたことは、本当に謝るわ!アランとメアリーのことをストーカーみたいに陰から見守ってるなんて話したら、ルークに引かれると思ったの!あの花も、アランが好きだから欲しかった訳じゃなくて、メアリーに贈った花だからファン心で欲しくなったの!

今もアランを見てたんじゃなくて、2人を見てただけだから!私、あの2人の大ファンなのよ!恋を応援してるだけで、そこに愛は無くて......!」


必死過ぎて、涙が出てきた。

ストーカーだ、ファンだのとルークは幻滅するかもしれない。

けれど、変に誤魔化して誤解を生んでしまう方が嫌だった。


「とにかく、私が愛してるのは、ルークだけなの!!」


泣きながら叫ぶ私は、もはや貴族令嬢とはかけ離れている。

なんて情けない姿なのだろう。


けれど、叫んだおかげかルークは私の言葉に足を止めた。


「……本当に?」


ルークが振り返り、腕にしがみつく私を見つめる。

足を止めてくれたことと、私を見てくれたことに安堵し、私はボロボロと涙をこぼした。


「ほ、本当。嫌われると思って隠してたの。ごめんね、ルーク」


小説のオリビアなら、こんなことで泣かないだろう。

そもそも、オタク活動という名のストーカー行為なんてしないだろうし、私はあまりにも小説とはかけ離れている。

こんな私でもルークは、嫌わないでいてくれるのだろうか。


「信じていいの?」


ぽつりとルークが呟いた。


「......私を嫌ってもいいから、信じて」


泣きながら腕にしがみつく私を、ルークが優しく抱き寄せた。


「嫌わない。俺はどんな姉さんでも、愛してるから」


愛を囁くルークの優しい声。

涙で滲んでいたけれど、愛しそうに私を見つめるルークに私の涙腺は再び決壊した。



しばらくして私が落ち着いた後、私はルークに今まで隠していたことを話した。


放課後遅くまで学園に残っているのは、アランとメアリーを陰ながら見守っているからだと知ったルークは、ちょっと呆れていたけれど納得してくれた。

ルークはメアリーに気が付いていなかったらしく、私がアランだけを熱心に見つめていると勘違いしていたらしい。


色々な誤解がとけた今、私たちは2人並んで馬車に揺られている。


あのまま庭園に残っていても、アラン達に見つかりそうだったので帰路に就くことにしたのだ。そもそも、色々ありすぎてアランとメアリーを見守っている気分では無い。


隣に座るルークは、気がかりだったという私の隠し事の内容も分かり、晴れ晴れとしている。

私の手を握り優しく撫でたり、そこに口づけを落としたりといつも以上に甘い態度で接してくるので、私の心臓は限界を迎えつつある。

誤解を与え不安にさせてしまった手前、止めてとも言いづらい。


とりあえず屋敷に帰り着くまでは、ルークの好きにさせることにした。


「それにしても、姉さんに懸想する相手がいたら、心をへし折ろうかと思ったんですが、勘違いで良かったです」


私の髪を優しく手で梳かしながら、ルークは穏やかに言った。


「目の前で、心をへし折る?」


「そいつの目の前で姉さんに深く口づけて、首筋に赤い痣をつけるところを見せつけようかと」


「……ははは」


乾いた笑いが漏れる。

どんな羞恥プレイだと突っ込みたかったけれど、やめておいた。

けれど、それだけ愛されてるんだなと少し嬉しくもある。


「本当に、色々と隠しててごめんなさい」


改めて、ルークに謝罪をする。

そもそも私がルークを不安にさせたのが原因なのだ。

ちゃんと謝っておきたかった。


「姉さんが、俺だけを愛してくれてるなら隠し事があっても別にいいです。不安になったら今日みたいに暴走するかもしれませんが......」


ふっと笑いながら、ルークは自嘲気味に呟いた。


きっとこれからも、ルークを不安にさせてしまうこともあるのだろう。

けれど、少しでも不安が減るよう、愛を伝えていけたなら。


「いいの。私もどんなルークでも愛してるから」


ルークの肩に頭を乗せて、甘えるように寄りかかる。

普段甘えない私が甘えたからか、ちらりと伺ったルークの顔は少し驚いていたけれど、すぐに幸せそうな笑顔に変わる。


前世の記憶を思い出したときは、こんな時間がくるとは思わなかった。

小説とは違う道を、これからも2人で歩いていくのだ。


幸せを噛み締める帰り道。

夕日に染まる馬車の中で、二人の影が重なった。


宜しければ、評価をよろしくお願いいたします。

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