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【番外編】義理の弟は、姉の秘密を知りたがる1

番外編です。

3話+番外編の番外 の4話構成になります。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます!

「姉さんを愛してるから」


酷くドロドロとした想いを、姉にぶつけたと思う。

端から受け入れて貰えるなんて甘い考えは持っていなかった。

なんせ俺と姉さんの仲は最悪なものだったし、姉が俺を憎んでいる事は周知の事実だ。

けれど、それでも口に出してしまったのは、どんな形でも姉さんの気持ちを自分に向けたかったから。

困ればいい、もっと憎めばいい。

もっともっと......心を埋め尽くされるほど俺だけで一杯になって欲しい。


そんな仄暗い気持ちを全て吐き出す様に、姉へ俺の想いをぶつけた。


だというのに。


俺の言葉を聞いた姉は、これ以上ないほど幸せそうな顔で微笑んだのだ。

そればかりか「愛している」と、同じ気持ちまで返してくれた。


なんという事だろう。

夢では無いだろうか。


けれど、それでもいい。

都合の良い夢だとしても、俺が姉を愛していることに変わりはないのだ。

姉も俺を愛していると言うのなら、夢の中でもなんでも、その気持ちを信じようと、そう思った。



あの日から1ヶ月――。



いつも早めに学園へ行く姉の朝は早い。

家族が朝食を済ませる前には準備を終え、玄関ホールで馬車を待っている。

そんな姉を見送るため、俺と両親は朝食前そのまま玄関ホールへ行く。

俺たちが玄関ホールに着く頃には、ちょうど馬車の準備も終わり、姉が出発する時間となっていた。


「それでは、行って参ります」


こちらを振り返り、両親と俺に一礼した姉は、今日も見惚れるほどに美しかった。以前ならば両親にだけ向けられていた微笑みは、今は俺にも向けられている。


「お気を付けて」


名残惜しい気持ちで声をかけると、姉がこちらを見て頬を染めた。


「行ってくるわね、ルーク」


穏やかな口調で紡がれた言葉に、胸が温かくなる。抱きしめたい衝動に駆られたが両親の手前、我慢した。

2人には、想いが通じ合ったことを未だ話していないのだ。


母は恐らく感づいており「ほどほどにね」「自重するのよ」とそれとなく俺に耳打ちをしてくる。

しかし、父は全くである。

「仲直りしたのか!良かった!」と喜んでくれてはいたが、未だに「アリシアの想い人はどんな人なんだろうなぁ」などと、能天気に話していたりする。母はそんな父に「鈍感ね」と生暖かい目を向けていた。


別に、俺たちの仲は法律的に禁じられた事ではない。なので、両親に話しても何も問題は無いのだ。


けれど険悪だった俺たちが、今更そういう仲になったと伝えるのは照れくさいと姉が言うため、しばらくは伝えないことにした。


あからさまに変わった俺と姉の態度に、父以外は全員気が付いていそうだが。


姉が俺を見る目も、俺の名を呼ぶ声も、以前とは全く違っている。

共に過ごす時間が増え、お互いのこともより深く知ることが出来た。

「愛している」と伝えれば、照れながらも「私もよ」と返してくれる。


俺は、満ち足りた毎日を送っていた。


ただ一つ、気がかりなことを除いて。



「ただいま、ルーク!」


「お帰り、姉さん」


夕食が始まる少し前に、姉は学園から帰ってくる。早く姉の顔が見たくて、俺は玄関まで姉を迎える様になった。

俺を見ると、姉は嬉しそうに笑った。


愛おしさが込み上げてくる。


このまま姉を永遠に見つめ続けていたい、そんな欲求に駆られた。

その想いのまま、じっと姉を見つめていると、段々と姉の頬が赤く染まっていった。


「み、見過ぎよ!」


「見足りないくらいです」


赤く染まった頬にそっと手を伸ばし、姉の左頬を優しく撫でる。

びくりと肩を震わせた姉は、顔中を赤く染めた。


「......っ!」


俺の態度にわなわな震えながら涙目で訴える姉が、とても愛おしい。

もっとその表情を見たくて、そのまま姉の頬を撫で様子を楽しんでいると、執事が少し気まずげに間に入ってきた。


「失礼致します、ルーク様。その辺にして下さいませ。人の目もありますので、続きはお部屋の方で......」


執事が視線を送った方へ目を向けると、侍女達が顔を赤くして俯いているのが見えた。

どうやら、俺たちのやり取りが気恥ずかしかったようだ。


「俺は、別に気にならない」


そう言いつつ、ちらりと姉を伺う。

姉は、侍女達に見られていた恥ずかしさから、両手で顔を隠し震えている

その姿に、思わず笑いが漏れた。


「私は気にするわよ!こういうスキンシップは人前でやることじゃないわ!」


手の隙間から覗く潤んだ目で俺を睨みながら、姉は文句を言う。

恥ずかしいのか、首元まで赤くなっている。

抱きしめたい。その首筋に口づけを落としたい。

そんな衝動が湧き上がったが、ぐっと我慢する。


「確かに、ここで姉さんを抱きしめたら、恥ずかしさで倒れてしまうかもしれませんね。人目のない部屋へ移動しましょうか」


姉がこれ以上恥ずかしがらない様に配慮し、周りに聞こえない声量で姉の耳元でそっと囁いた。


「ななな、な......!」


しかし姉はそれすらも恥ずかしかったのか、言葉にならない声を発しながら、片手で耳を抑え、勢い良く後ろへ後ずさる。近かった姉との距離が、少し離れた。

首元まで赤かった姉は、今や全身真っ赤だ。


俺の言葉で、動揺する姉をもっと見たいと思った。

けれど、これ以上距離が空いてしまうのは寂しいので、俺は姉をエスコートするため手を差し出した。


「行こう。姉さん」


「......ルークの、馬鹿!」


悪態を吐きながら、姉はその美しい手を重ねた。


何とも甘い空気が流れている気がする。

執事は生暖かい目で俺を見てきたが、幸せを享受する俺には関係ないことだと無視した。



姉の部屋までエスコートしている最中、俺の先ほどの態度が気に入らなかった姉は「恥ずかし過ぎる」「もう少し自重して」とずっと小言を言っていた。

俺にとっては、その小言すら心地良いけれど。

しばらくその声に耳を傾けていると「聞いてるの?ルーク!」と姉が呆れたような顔でこちらを見てきた。


「聞いてます。声、もっと聞かせて......」


正直な気持ちを話すと、姉は再び顔を赤くし、わなわなと震え出した。そして、諦めたかのように俯き「もういいわ......」と小さくため息をついた。


「恥ずかしすぎるけど、もう諦めるわ......。これがルークの通常なのね。小説にはないデレ具合だわ」


「小説?」


「なんでもない。こっちの話よ」


姉は時々、こうしてよく分からない話をする。

嵌っている小説の話だろうか。

姉が話題によく出すその小説を、いつか読みたいと密かに思っている。


「それにしても、帰りが遅くなっちゃったからお腹がすいたわ。夕飯前だけれど、少しお茶でも飲まない?」


姉が、穏やかに笑いながら俺を誘った。

姉からの誘いを断るはずがない。

その誘いを快諾した俺は、会話の流れで普段から気になっていることを質問した。


「そういえば、姉さん。今日も帰りが遅かったですが、何か用事でもあったんですか?」


俺の質問を聞いた瞬間、姉の顔色が変わる。

狼狽の色を浮かべた姉は、あからさまにぎこちない態度になった。


「そ、そうなの。学園でちょっとね.....」


目を逸らし、そわそわと落ち着かない様子の姉に、何か隠し事があるのだと確信する。


「生徒会も部活動も入っていませんよね?一体なんの用事が...」

「あら!思ったよりも時間が無いわ!お茶はまた今度にしましょう。私、着替えてくるわね!」


俺の言葉を遮り、勢い良く駆け出した姉は、そのまま自室へと逃げ込んだ。

今まで姉に触れ、温もりを感じていた手が、急激にその温度を失う。


姉が逃げ込んだ自室のドアを見つめながら、俺は深いため息をついた。


(また、か)


実のところ、今まで何度か姉に同じ質問をしている。

その度に姉は今と同じように話を逸らすか、逃げるのだ。


何故、帰りが遅い理由を誤魔化すのだろう。


俺は、満ち足りた日々の中で、唯一そのことが気掛かりだった。


一人残された廊下で、1人ぼんやりと考える。


すっかり日が傾き、夕日が廊下をオレンジ色に染めていた。

まるでいつかの情景を思い出させる光景だ。


夕日に照らされ、美しく輝いていた姉の髪。

俺を見つけて、驚いた姉の顔。

そして姉が手に持っていた、美しい花。


ふと、仄暗い気持ちが蘇る。


あの時、姉が手に持っていた花は、隣国でプロポーズの時に使用される花だった。

誰に貰ったのかと問い詰めたが、最終的に「急に欲しくなって、自分で買った」のだと姉は言う。


けれど、俺はそれを信じていない。


普段花を買うことのなかった姉が、急に花を買ってきたことも驚きだが、それが手に入れることが困難な物となれば、よほど思い入れが無いと手を出さないだろう。


普通に、誰かから貰ったと考える方が自然だ。

そして、その花を渡した人物は間違いなく姉に好意を抱いている。


もし、帰宅が遅くなる理由に、その人物が関係しているのなら......


姉が俺を愛していると言ってくれた気持ちを疑ってはいない。

けれど、俺の知らないところで姉が懸想され、あまつさえ、その人物と同じ時間を過ごしていると考えるだけで、沸々と嫉妬心が湧き上がってくる。


「俺だけが、姉さんを愛していればそれでいいのに」

誰もいない廊下で、ポツリと呟く。


知らない誰かに嫉妬してしまう俺は、あの日から全く変わっていないのだろう。

姉が何をしているのか、誰と過ごしているのか。その事ばかり気になってしまう。


けれど、姉さんに聞いてもはぐらかされるだけだ。


それならば......。


(明日、確かめに行こう)


一人、心の中で決心する。


考えが纏まった頃には、廊下はだいぶ薄暗くなっていた。

もうすぐ、姉も着替え終わり自室から出てくる頃だろう。

姉が出てきたら、再びその手を取って夕食の場までエスコートしよう。


そしてその後は......


湧き上がった嫉妬心をそのままに、今夜は姉とどのように過ごそうか、そんなことを考えながら、ただひたすら姉が自室から出てくるのを待ち続けた。


宜しければ、評価をよろしくお願いいたします。

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