45-マイナス273度って限界を超えられない小せえ奴だからだ。
「無茶できるのか、じゃねえんだよ」
俺はThe Dに笑って言ってやる。ばんっと胸を張って、勝利のポーズとともに誇らしく掲げるどや顔で。
「なるほど。無茶できるか、じゃなくて、無茶やるんだな」
The Dの特殊能力によく似た俺の言霊再現能力を理解したようで、相変わらずのムンクの叫び顔のままニヤリと笑った。
「そうだよ。無茶やるんだよ」
左腕の新装備スチームバンカーが静かに震える。真鍮でできた蒸気機関車を平たく潰した形のスチームエンジンが徐々に振動を強くして熱を放出する。さあて、無茶やってやるか。
「ディスチャージ!」
溜まりに溜まりまくった蒸気エネルギー、全開放。スチームバンカーの排出管からものすごい勢いで蒸気が吹き上がり、俺の身体を中心とした白い渦が生まれる。喉が詰まりむせ返るほどの、何も見えなくなるほどの、水の中に沈められたと思うほどの濃密な水蒸気が左回りの回転で俺を包み込んだ。
「からの、空間圧縮!」
世界が一気に逆転する。俺の制御下にあるアンチグラヴィティエリア内の空気が膨張から凝縮へと気圧反転した。重力場を収縮編集して空気の逃げ場をなくしてやる。
「冬現象そのものが相手なら」
それと同時にスチームバンカーからの蒸気放出も連動させる。限定圧縮される空間に全開放出され続けるスチーム。蒸気はもはや雲のようだなんてふわっとした言葉では足りない密度に固められていく。とてつもなく圧の高い空気の塊だ。
「こっちのフィールドに引き摺り込めばいい」
凝縮され続ける空気と水蒸気。普通の物理空間ならあまりの気体濃度でとっくに液体化してしまってるレベルだろうが、あいにくとここはカナタ・フィールドだ。俺が制御するカナタワールドオーダーに従ってもらう。
「そうすれば、殴れる!」
そんな無茶なって悲鳴を上げるほど圧縮され続けた空間は、豪雨の降らない積乱雲が超高密度に押し込まれたものすごい荒れ模様となり、爆弾低気圧とか、スーパーストームとか、そんなのが生易しく聞こえるほどに凶暴な空気が震えた。空気分子が激しくぶつかり合い、その摩擦から生じた静電気がスパークして極小サイズの雷が縦横無尽に駆け巡っている。凄まじい圧力をかけられ、冬が消滅するほどの高温の渦になっているはずだ。
「まだまだだ。もっと激しくやり合おうぜ!」
俺の周囲半径数十メートルはあった蒸気の積乱雲が凝縮されまくり、今や5メートルほどの人のカタチをした超圧縮空間になった。その中身は目に見える暴風と火傷しそうな雷光が渦巻いている。でもまだだ。もう少し圧縮させてもらう。その方が殴りやすい。
「ようやく俺の前に現れてくれたな」
俺の背丈と変わらないレベルにまで圧縮された人型空間。ギシギシと空気が軋む音が響く。何とか空気圧の呪縛から逃れようとしているのか、身体を捻り両手両脚を踏ん張って精一杯抵抗しているように見える。
「おまえの敗因はな、ウインターズ」
圧縮された人型が頭をもたげて俺を睨む。
「マイナス273度って限界を超えられない小せえ奴だからだ」
『圧縮蒸気砲再充填開始。言霊再現能力レベルアップ』
「俺は違う。俺理論では俺の熱は限界突破だ。どこまでも上がり続けるぜ」
圧縮蒸気砲が静かに唸る。スチームバンカーが熱く吠える。絶対零度だろうが一瞬で蒸発させてしまうレベルまで熱もハートも上がりまくっている。
「絶対零度と無限高温。比べるまでもない。俺が勝つ!」
さあ、言霊燃やせっ! 俺は最強勇者カナタであり、最高異世界ヒーローなんだっ!
冬が凝縮された高圧の人型へ腰だめにしたカナタ・パンチを放とうとした時、ふわっとThe Dの奴がウインターズのアストラル体へ囁く。グッドタイミングだ。わかってんじゃないか、The D。
「ウインターズよ。おまえはアストラル体をさらけ出し、殴られて負けるのだ」
アストラルってのは多次元世界においても個々の意識に共通して重なる思念の概念だ。だから、物理体では殴れないがアストラル体はアストラル体でぶん殴れる。やれるんだ。
「カナタ・ダウンバースト! アンド、16アタック・イン・ワン・セカンド!」
ここら辺一帯の全生命の絶滅まで残り一分。俺の予告通り戦闘時間きっちり二分間で、俺は一秒間に16発も冬をぶん殴ってやった。




