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01-勇者タナカを呼べっ!


 今、VR異世界が熱い。




 剣と魔法のファンタジー世界ではドラゴンが最強生物だってことは子どもだって知っている。もう誰だって国王だって奴隷だってエルフだってドワーフだってそう思っているだろうが、異議あり、だ。俺は認めない。最強生物はこの俺だ。


「勇者タナカを呼べっ!」


 師団長が叫ぶ。俺の名を呼ぶ。


 爆炎。怒号。剣戟。悲鳴。絶叫。戦場となった町は混乱の坩堝と化していた。敵味方入り乱れて土煙が舞い上がる中、突如として現れたドラゴンの巨大な影の前に兵士たちはただただ戸惑い、そして逃げ惑い、大騒乱に陥っていた。


 どうやら敵軍の中に召喚士が混じっていやがった。それもドラゴンを喚べるレベルの召喚士だ。相当な手練れだな。おかげで形勢は一気に逆転されそうだ。


「やべえぞ、レッドドラゴンだ!」


「師団長! 勇者カナタです! あれ、タナカでしたっけ?」


「そんなのどっちでもいい! 早く奴を呼べっ!」


「師団長! 勇者カナタ、いません!」


「レッドドラゴン、あと45秒ほどで召喚完了すると思われます!」


「首都民の退避は!? あ、こら、首都防衛師団兵たるものが逃げるな!」


「あのタナカ野郎! どこ行きやがった!」


「タナカーッ!」


 ありとあらゆる大声が陣を敷いていた軍勢から湧き上がっている。何か聞き捨てならない叫び声も聞こえたが、まあいい。今は緊急事態だ。聞き流してやる。後で叫んだ奴を特定してがっつりへこましてやるがな。


 そして戦場の真っ只中で、ついにドラゴンは完全召喚された。


 ジュラ紀に地球を支配していた獰猛な肉食恐竜をさらに刺々しくしたような、荒れ狂う炎の化身と呼ばれる禍々しい緋色の翼を持った竜が神々しいまでに巨大な体躯で立ち上がり、空に向かって凶暴な顔を振り上げて天を割るような雄叫びを上げた。


「勇者カナタだ! いや、タナカだっけ?」


 暗雲が巻き上がる空に突き上げられたレッドドラゴンの咆哮の行方を追うように地上に立ち竦んでいた連中が空を見上げ、そしてようやく俺の姿を見つけたようだ。


 兵士の誰かがまた叫びやがったな。


 俺はタナカじゃない。勇者カナタだ。確かに名字は田中だけど、名前はカナタだ。


 町のシンボルとも呼べる大教会の鐘楼塔の天辺で、俺、勇者カナタは腕組みをしてすべてを見下ろしていた。


 俺はゆっくりと腕組みを解いて、バカみたいに大口を開けて俺を見上げるレッドドラゴンを、敵味方入り乱れ戦っていた兵士たちをピタリと指差して言ってやる。


「トカゲが吠えてんじゃねえよ」


 眼下のレッドドラゴンを指差す手でぐっと握り拳を作り、俺は戦場の町に響き渡るよう大声を張り上げた。


「誰が最強か、この俺が教えてやる!」


 と、その前に。


「ヴァーチャライザー・オン!」


 両手をぱんって重ね合わせる。ちょうど何かを拝むように。すると俺の手のひらが光を放ち、そこにVRヘッドギア『ヴァーチャライザー』が現れた。バイクのフルフェイスヘルメットをシャープな流線型に決めたようなシルエットの俺が開発したヘッドマウントディスプレイだ。


 即、装着。大見得切った以上はここからはスピード勝負だ。俺の視界がヴァーチャライザーによる仮想の世界に切り替わる。さあ、やってこい、コンボイトラック!


 ヴァーチャライザーの球形スクリーンの中にライトグリーンの光が圧倒的な情報量で市街地を描き出し、瞬きする間もなく、俺はビル街に埋もれた交通量の多い交差点に立ちすくんでいた。そして突然目の前に現れる16トンコンボイトラック。


 爆音を轟かせて突進してくる黒光りした巨大な車体は、たとえ仮想の世界だと解っていても、何度見てもビビる。ビビりまくる。


 俺は避ける事も出来ずにコンボイトラックに跳ねられた。ほんと、一瞬の出来事だ。


 16トンもの巨体が時速120キロメートルで突っ込んでくる際に生じた仮想運動エネルギーが暫定的数値化されて俺の仮想肉体に与える衝撃レベルを算定する。結果、オーバーキル現象によりヴァーチャルを飛び越えてソウルシフトだ。VR空間にいながら、あまりに桁違いのエネルギーで本当に異世界まで吹っ飛んでしまうバグが発生するんだ。


 視界が暗転した、かと思うとびかっと眩しい光が俺を包み込んだ。


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