第4話 新たな領地へ向かう日〜早朝1〜
昨日の会合の後私は初級書記官であるイヴァンに、できるだけ早く管轄地に行きたい、と相談した。
一旦相手方に連絡を取って日程を調整すると言ったのが午前中。返事はおそらく明日以降になるだろう。
この世界の通信網は"ゲート"を使用した手紙である。
ゲートとは指定した地点と現在地をつなぐ穴を開けら魔法である。
ちなみにこの穴生物は通れず、声も通らない。そのため物を送るのに使われることが多い。
そのためゲートを使っても、早く到着する"手紙"なので、到着し相手が確認した後でないと連絡は来ない。
しかし、午後所属部署で引き継ぎを済ませ、アル達とダベっていたらイヴァンから呼び出された。
イヴァンの元に行くと、返事が来たとのこと。それには、
「明後日以降2週間領地から離れてしまう。
明日19時には出発予定だが、その前であれば予定が空いている。予定が合えば午後2時から引き継ぎを行いたいがいかがだろうか。合わない場合は2週間後以降希望日を知らせて欲しい。」
と書いてあった。
これは持論だが、問題に対処するためにまず必要なのは現状把握である。それが2週間先延ばしになってしまうのは大きな痛手だ。
私はイヴァンに手紙の内容を伝え、明日監督地であるフルティカに行くかことができるか尋ねた。
フルティカは王都から見て北西の方向に位置しており、高速馬車で6時間そこから路線馬車に乗り換えて1.5時間かかる。
イヴァンの確認の結果、
「馬車の空きはありますが、該当の時間に対応できる運転士が1人おりますが・・」
と言った。
1人いるなら問題ないと思ったがその言い方が引っかかる。
「何か問題でも?」
するとイヴァンは申し訳なさそうな顔をして、
「該当の運転士は先日高速馬車の運転士を認定を受けたばかりで、実務経験がありません。」
と言った。
高速馬車の運転士になるためには国の認定が必要だ。そっちの世界でいえば国家資格である。そのため認定を受けているという時点で理論上問題ないはずである。
そして私にも急ぎたい事情もあるので、了承することにした。
翌朝、と言っても辺りはまだ暗い4時半、遅刻できないという不安と、引き継ぎについて色々と考えてしまいしっかり眠ることができず目が覚めてしまった。
集合は城の広場にある馬車停留所に5時半だったが、二度寝をするわけにもいかず、また高速馬車の準備も見てみたかったので、身支度を済ませ寮を出た。
馬車の停留所は竹枝門の外側にある。時間は5時前当然門は閉まっていたが、前もって門番にも連絡が入っていたようで、私が到着すると職員用通用口を開けてくれた。
竹枝門を通過すると広場が一望できるようになっている。広場はバスのロータリーのようになっており、日中であれば様々な行き先の馬車が止まっていて乗る馬車を間違えないように気をつけなければならないのだが、幸い今は1台しか止まっていない。
その馬車に近づくと姿は見えなかったが、女性の声が聞こえた。どうやら呪文の詠唱中らしい。
私もある程度の魔法は使えるし、魔法体系も理解しているが、目の前で詠唱されている術式は本当に一部しか理解できない。それほど複雑だった。
☆☆ここからはこの世界の呪文の仕組みを簡単に解説します。
例えるならパソコンのプログラムだ。
単語と術後の組み合わせで命令を作成し、そこに魔力を流し発動させる。
また魔法にはレベルと熟練度が存在し、レベルは使える魔法の種類、熟練度は威力が増加する。
これは、先ほどの命令の中の使える接続後や術後の種類が増えるのがレベル上昇、流せる魔力の上限が上がるのが熟練度上昇である。
★★
詠唱が完了し、魔力を流し込むために宙に浮いていた呪文が光る。それで魔法の発動は完了だ。
もう声をかけても大丈夫だろうと思い、馬車の向こう側に回ろうとしたところ、まだ幼いといっていい見た目の女の子とぶつかりそうになった。
見た感じ妹より若いか。まさかこの子が、
「おはようございます!カルディアさんですね。本日はありがとうございます!」
と思ったらやはりそうだった。
かなり若そうだがだいじ・・おっとあまり失礼なことを考えると顔に出てしまう。
こちらが無理を言っているのだから失礼をしてはいけない。気を取り直して、
「おはようございます。本日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!まだお時間早いですがご用意よろしいですか?馬車の中で説明したいと思うのですがよろしいですか?」
「大丈夫です。お願いします。」
見た目通りというか、良くも悪くも若さが見える。
ちょっと不安を覚えつつ、彼女の後に続き馬車に乗り込んだ。