第3話 夢と現実と
「僕の将来の夢は領主様になることです。」
これは初等学校2年生の観覧日に私が読んだ作文だ。
物心ついた時からずっと私は領主になりたいと思っていた。領民に慕われ皆で笑い合う領主としての父が本当に温かく、そんな風になりたかった。
私は領主になるため本当に頑張った。成績は常にクラストップだったし、クラス長にもなった。
しかし夢はいずれ覚めるもの、5年生になったある日話があると父に呼び出された。父の話とは領主についでだった。
アント王国では原則長男が領主を継ぎ、弟についてはそれを支えるのが理想とされており、もしよければ兄を手伝ってこの領地を収めて欲しいという話だった。
どうやら私が兄を蹴落としてでも領主になりたいと思っていたらしい。だが私は領地と同じくらい兄のことも好きであり、共に領地のためになれるなら私が領主にならなくても構わなかった。
そう父親に伝えると安堵した顔を見せ、
「自慢の我が息子たちならこの土地をより発展させることができるだろう。期待しているよ」
と言った。
・・・
それで何故突然昔のことを思い出したのだろう。夢・・領主、ああそうだ。
「・・・て、・・うがと・でいる者がいるようだ。
隣の者起こしてやれ。」
その声で目が覚めた。ここは貴族院の会議室、少々現実逃避をしていたらしい。
メーベルは、驚いてはいるが大丈夫そうだな。右隣のアルは、目があってグー。流石だ。
左隣のクロード先輩は、・・・目が虚で顔色も真っ青だ。
確実に大丈夫ではない。
そういえば、絶対大丈夫じゃない人にはなんて声をかけるべきなんだろう?などと思いながら、
「大丈夫ですか?先輩」
と肩を揺すった。
なんとか声は聞こえたようで
「あ、ああ」
と返事があった。
クロード先輩の取り乱し様は他の参加者とは比較にならないものだが、なぜこんなに取り乱しているのか私は知っていた。というか先輩のことを知っている者で、それを知らない者はいないだろう。"パーフェクトカップル"という言葉と共に。
私が学生の頃、一つ上に有名な先輩達がいた。生徒会長のクリスティーネ先輩とあると副会長のクロード先輩である。2人とも容姿端麗才色兼備で恋仲でもあったことから、周囲からは"パーフェクトカップル"と呼ばれていた。しかしそれは憧れではなく嘲笑からだった。
この世界の貴族間で"カップル"という言葉は使われない。それはカップルが結婚を前提をしていないからであり、貴族間では結婚を前提としない恋などないからである。
クリスティーネ先輩は伯爵の一人娘であり、夫となる者は伯爵領の領主となる者である。一方、クロード先輩は男爵の次男であり身分的に釣り合わない。そのため、いつかは婚約破棄になるという意味合いだった。
しかし先輩は諦めなかった。在学中から魔法の研究を重ねとある革新的な発明をし、在学中に当代男爵位(本人だけに適用される男爵位)、を取得、昨年それを発展させ当代子爵位を取得した。
当代子爵からは領地がもらえる。広くはないが、王国の直轄地の一部であるためすごくいい領地である。その際、先輩には相当の婚約の申し込みが来たらしい。噂では侯爵家の子女もいたとか。
しかし先輩は子爵にはならなかった。爵位の授与式で、受け取りを拒否して、その場にいた会長にプロポーズ。家族にも認められ無事婚約者となった(ちなみにこのことはちゃんと上にも調整してあったらしい。ただ、その場にいた者の大半は聞いていなかったので仰天したらしいが)。
そのため、クロード先輩が呆然とするのも当然だ。第2王子の命令とはいえ流石に理不尽が過ぎる。
気づくと私はさっきまでの事情を全て話していた。
それに対し、王子はため息を一つついたあと、
「カルディアはせっかちが過ぎるぞ。
まぁ仲間想いということでプラス評価にはしておいてやろう。
私は、あの後「ここからは王命ではなく辞令である。辞退する者は挙手せよ。ただし辞退するに見合う理由は必要だがな。」
と続けようとしたのだ。
それでは辞退する者は自ら理由を説明してもらう必要があるが、誰かいるか。」
先輩は私の方を一瞬見て頭を下げたあと、手を挙げ自ら理由を語った。ほぼ先ほどの情報と同じだったが、結婚式は5ヶ月後の来年4月と決まっているらしい。
「それでは辞退を認めよう。」
「ありがとうございます!」
「それではクロードは帰って良いぞ。他にはいるか?」
・・・
私達は今配られた資料を読んでいる。
あの後ゆるふわ系の確か一つ下の娘が(名前なんだったか。)
「私にもフィアンセがいるんですー」
と辞退を申し出ていたが、
「で?理由になってないけど?」
と冷たくあしらわれていた。その娘は泣きそうになっていた。
その後王子は
「クロードの代わりを連れてくる。30分席を外すので資料に目を通しておくように。ちなみにページのところに☆を振っており、☆☆☆は今は読む必要はない。だが、帰って必ず目を通して置くように。」
と言って部屋を出て行った。
王子の言う通り資料には☆〜☆☆☆が降っており、資料はかなりの厚みがあるがほとんど☆☆☆らしい。
☆☆までの情報はこんな感じだった。
□スケジュール
・キックオフから30日以内に自分の領地に赴任。
・赴任から30日間は衣食住必要経費は国が負担。(詳細については☆☆☆に記載)
・6ヶ月間はあらゆる税金が免除され、必要経費は国の支払いとすることができる。また、後ろにあるリストから1人だけ人員を雇い入れることができる。(詳細については☆☆☆に記載)
・2年後最終結果報告。その間は半年毎に中間報告。
□重要な情報
・初回赴任時は監督地となっている領主から引き継ぎを受けること。
・領主を放棄する場合は必ず王国に申請をすること。無許可での放棄は一族罪人として処罰する。
なお、申請を出せば許可されないということはない。
ただし、下記の通りペナルティーが発生するので注意すること。
1.6ヶ月以内:地方領地に左遷
2 7ヶ月〜2年以内に辞退、もしくは税金を納められず不可判定となった場合:出世モデルワンランクダウン
・最終報告の後領地の評価を行う。基準に照らし合格となった者は以下の中から自分の進路を選択することができる。
1.引続き領主
2.自分の家の領主(長男が復興した街の領主となる)
3.貴族院に戻る(出世モデルは新設するSSランクとする)
・合格となった者の中から上位3名には賞金、商品が出る(詳細は☆☆☆に記載)
そこまで読んだところで、王子が戻ってきた。初めに一緒だった高級な身なりの男性と、私と同い年くらいの大人しそうな青年、私よりは少し年上に見える男女も一緒だった。
「だいたい皆読み終わったかな?まだ時間はあるから、とりあえず聞いてくれ。
まずクロードの代わりに領主となるのが、私の弟で第10王子であるコンロイだ。』
「コンロイ・テス・ローリエ・・です。よろしくおねがい、します・・」
第10王子は体が弱く、あまり人前に出てこないとの噂だったが、弱いのは体だけではなさそうだ。私が心配するのは不敬なのかも知らないが、大丈夫だろうか。
その後、まだ名乗っていなかった3人から挨拶があった。
初めから王子と一緒にいた男性は上級書記官で、名はコーネリウス、後から来た2人は初級書記官で、男がイヴァン、女がアリス。今後は初級書記官が窓口になるとのことだった。
「それでは最後の業務命令だ。
午前中は好きにしてくれ。初級書記官の2人は午前中はこの部屋にいるので、質問があればそちらに。午後は各自自分の職場に戻り引き継ぎを済ませること。各課長に伝えてあるので、準備はできているはずだ。
最後に、社員寮はそのままにしておくので、差し当たり必要ない荷物は置いて行って構わない。ただし、定期的に掃除に入るので人に見られたくない物がある者は気をつけてくれ。
それでは、解散。」
登場人物整理
今回の会合に出てきてる人たち。カルディア視点でなので名前が分からないキャラがいます。
物語の主要キャラクターではありません。
カルディア:主人公
アル:主人公の友人
クロード先輩:パーフェクトカップル
アルト:アルベルト兄弟(上)
ベルト:アルベルト兄弟(下)
存在感のない男:ギャルゲーの主人公風(目が前髪で隠れている)、名前不明
メーベル:主人公の妹
カミラ先輩:クール系美女
眼鏡の娘:黄色い百合を選んだ。名前不明
ゆるふわ系:辞令辞退を王子に一蹴されていた。名前不明。
セオ・コンド・ローリエ:第2王子
コンロイ・テス・ローリエ:第10王子
コーネリウス:上級書記官。見た目がギ●ン・ザ●
イヴァン:初級書記官(男)
アリス:初級書記官(女)