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魔王ウサギ現る

ブクマしてくださった28名の方、ありがとうございます。

評価を付けてくださった方もありがとうございます。

 早速、ギルドに戻り納品する。

 

「これはミリモが納品するんだぞ」

「はい!」

 

 メリッサさんは納品された薬草がすべて特上品なのに気が付いて、目をパチクリさせていた。

 すぐに事情を察したメリッサさん。

 目が少しだけ厳しくなった。

 不正を許さないギルドの中堅職員の目だ。


「すごいわね。これはポータさんに採ってもらったのよね?」

「私が採りました!」


 これでもかと胸を張って得意気なミリモ。

 嘘は言ってない。

 メリッサさんは、カウンターの端に置かれた審判の宝珠に視線をやる。

 審判の宝珠。

 それは嘘を言うと赤くなり真実を言うと青くなる、嘘判定の魔道具だ。

 色は青。

 ミリモは嘘を言ってない。

 俺はミリモについて行ってアドバイスをしただけ。

 採ったのはあくまでもミリモである。

 不正は一切していない。

 メリッサさんは薬草納品のカラクリを察したのか、俺をにらんだ。

 うはっ!

 美人ににらまれた。

 何というご褒美!

 俺の存在感、急上昇だ。


「いいでしょう。じゃあ、次はウサギの討伐依頼を頑張ってね。あくまでも、自分の力で集めるのよ」

「はい!」


 *


 再びやって来た草原。

 さてと、次は納品するウサギ肉集めだ。

 ここでウサギ肉を三匹分集めれば依頼は達成だ。

 ウサギを倒すことは自体は簡単だ。

 これと言った攻撃をしてこないウサギ。

 短剣を振るっていれば簡単に倒せる。

 弓が使えればさらに楽だ。

 ただ、逃げ足が速い。

 逃げられたウサギを子どもの足で追うのは少し辛い。

 そっと近づいて一撃で倒すか、罠にかけるのがウサギ討伐のセオリー。

 だが、ここには元勇者パーティー所属の俺がいる。

 俺が瀕死状態にし、トドメをミリモに刺せればそれでいい。


「いいかい? 俺がウサギを捕まえるから、それを倒すんだ」

「はい!」


 目をキラキラさせるミリモ。

 俺の戦いを見れることで期待度満点のミリモ。

 ウサギを倒すのはかわいそうという感情はないみたいだ。

 案外冒険者向きな性格なのかもしれない。

 俺は聖剣を手にして草を食べているプレーンラビットに飛びかかった。


「どりゃー!」


 ――ズシャリ!

 ――ばちゅん!

 ――プレーンラビットは、はじけ飛んだ。


 皮の破片も残さずはじけ飛んでしまった。


「あれ? はじけちゃった」

「はじけちゃいましたね」


 さすが聖剣。

 攻撃力半端ねー!

 舞台用の剣でもすごいわ。


 だが、それは俺の勘違いであった。

 プレーンラビットは首を落とさずに腹を斬ると溜まったガスが噴き出し風船が割れるように爆発するのが冒険者の中では常識であった。

 勇者パーティーに八年も所属していたのに、荷物運びしかしていなかった俺には知らない事実であったのだ。


 そんなこんなでウサギが爆発しまくっていたが、何十匹も倒していると運よく瀕死状態になるものもいて、どうにかウサギ肉を二つ集めた。

 

「あと一つですね」

「おう! がんばろう!」


 そんな俺たちの前に、一回り大きなウサギが現れた。


「角が生えています!」


 ホーンラビット。

 頭に生えた角で攻撃してくる獰猛なウサギだ。

 ウサギ討伐に来た冒険者を襲う肉食のウサギである。

 だが、角が生えていようがウサギ。

 レベルは20程度で俺にとったら雑魚でしかない。

 俺はホーンラビットとの距離を一気に詰める。

 そして聖剣を振り降ろした!


「どりゃー!」


 ――ぴゅるん!

 ――ホーンラビットは、ポータの攻撃をかわした。


 普段、片手剣を触ったことも無い商人の振るう剣が、素早い動きのホーンラビットに当たるわけもない。


 ――ホーンラビットのカウンター。

 ――ホーンラビットはポータに体当たりをした。


「ぐはぁ!」


 ――ポータは大打撃!

 ――ポータは今にも死にそうだ!


 やべー!

 なんだこりゃ!

 つえぇぇ!

 ありえねぇ!

 腹に体当たりを喰らっただけで意識が飛びそうだ。

 こりゃ、ウサギ界の魔王か?

 こんな強敵が街のすぐ外にいていいわけないだろう!


「ミリモ、逃げるぞ!」

「はい!」


 俺は煙幕を投げると、脱兎のごとく退散した。


 *


 街までどうにか逃げ切った。

 肩で息をする俺たち。

 生きて吸える空気はうまい。


「はー、はー、はー。すごい強敵だったぜ」

「怖かったです。あんなの倒せるんですか?」

「あれは強敵だ。俺一人では倒せるかわからない」

「私も頑張ります!」

「まあ、なんだ。俺たちの目的はあくまでもウサギ肉集めだ。ウサギ魔王を倒す必要はない」

「そうでしたね」

「別の門から出てウサギ肉を集めるぞ」

「はい!」


 この街には四つの門がある。

 東西南北の門だ。

 そのうち、ウサギのいる平原につながっているのは南門と西門だ。

 さっきは南門の草原に行ったので、西門から草原に行けばいい。

 そう思ったんだが……。


「プグー!」

「また魔王ウサギです!」


 まじかよ!

 魔王ウサギが俺を待ち伏せしてやがった!

 なんでここにいる?


「ミ、ミリモ、に、逃げるぞ!」


 慌てて街に戻る俺たち。

 どうやって俺たちを感知したんだろう?

 魔王ウサギ怖い。


 だが、この時、俺は知らなかった。

 南門と西門は五〇メトルしか離れていないことを。

 街の住民の間では、この街の門は実質三つしかないことは常識であった。


「どうすればいいんでしょう?」

「まあ、俺にまかせろ。こう見えても俺は商人だ。アイテムボックスに備蓄してある薬品でどうにかなる」


 ――じゃ、じゃーん!

 ――ポータは痺れ煙幕を取り出した。


「吸うと痺れる煙が敵に纏わりついて、身動きを取れなくする痺れ煙幕だ」

「なんと!」

「これを使えば魔王ウサギと言えど痺れて動けなくなり攻撃力が皆無になるだろう」

「さすがお父さん!」


 俺は街の外に出る。

 そこには魔王ウサギが俺たちが来るのを待ち構えていた。

 だが、今度の俺は違う。

 冒険者業界の随一の商人、アイテムマスターである。

 俺は痺れ煙幕を魔王ウサギに向かって投げた。

 地面にあたると煙が噴き出す。

 魔王ウサギはそれをひょいと避ける。

 煙は立ち上るだけで魔王ウサギを襲うことは無かった。


「あれ? なんで煙が纏わりつかない?」


 いつもはとぐろを巻いて敵に襲いかかるのに!

 どうなっているんだよ!

 もしや、魔王ウサギの持つアイテム無効効果なのか?

 なんという強敵!

 さすが魔王!

 俺の背筋に戦慄がはしる!


 この時俺は知らなかった。

 痺れ煙幕を投げた時、敵に煙を吸わせるように毎回リンダが風魔法で操っていたことを。

 俺の能力は理解のある仲間がいて初めて成り立つスキルだったことを。


「これが魔王ウサギの絶対回避能力なのか?」

「ど、どうします?」

「逃げろー!」


 再び、街に戻った俺たち。

 太陽も傾き始めて、赤みを帯び始めて来た。

 ミリモの仮カードの有効期限は、今日の日没まで。

 今日、条件達成出来なければ再申請は半年後。

 さすがにそんなに待っていられない。


「なんでこの大事な時に魔王ウサギが襲ってくるんだよ!」


 俺は運の無さを呪った。

 あまりにも強すぎる敵。

 俺には倒せそうもない。

 万策尽きた。

 俺は噴水の縁に腰かけてうつむいていた。

 そこに声を掛けて来た女の人の声。


「いつまで待っても納品に来ないので心配になって見に来たんですが、どうしたんですか? …………(本当は他のアバズレにポータさんが誘惑されてないか心配で見に来たんだけど……)」

「魔王ウサギに襲われた……」

「魔王ウサギ?」


 ミリモが俺に代わり説明をする。


「とっても強い角の生えたウサギなのです」

「そんなウサギは聞いたことないですね」


 メリッサさんが俺たちを連れて街の外に出る。

 街から出るとすぐに魔王ウサギがやってきた。

 魔王ウサギは前傾姿勢を取って尻尾をふりふり、今にも俺に襲いかかってきそうだ。


「あれが魔王ウサギです!」


 魔王ウサギを見て、目をパチクリさせるメリッサさん。

 あまりの強さにおののいているようだ。


「あれは、ただのホーンラビットですよ?」

「えっ?」

「えっ?」


 今度は俺たちが目をパチクリさせる番だった。


「間違いありません。私があのウサギの注意を引きつけておきますから、ポータさんは【鑑定】してみてください」


【鑑定】してみた。


 ホーンラビット

 LV 15

 HP 23

 MP 0


「あるぇ?」

「ホーンラビットですよね?」

「はい」


 ミリモも驚いている


「でも、ものすごい知性をもっていて、街から出ると必ず現れるんです」

「あー、それね」


 メリッサさんはウンウンと何度もうなずく。


「体当たりされませんでした?」

「されました」

「それはね、マーキングされたのよ」

「マーキング?」

「自分より弱い獲物に目印の臭いを付けられたの」

「なんですと!」


 ということは、一つの仮説が成り立つ。


「俺ってレベル15のホーンラビットよりも弱いってこと?」


 メリッサさんは俺から視線を逸らす。


「そ、そういうことになるかも」


 マジかよ……。

 勇者パーティーで八年も働いていていながら、レベル15のホーンラビット以下の強さだったの?

 俺は想像以上の自分の弱さに目の前が真っ暗になった。

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