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仮冒険者ギルドカード

 俺はミリモを連れて冒険者ギルドへと向かう。

 もちろんミリモを冒険者登録するためだ。

 道中、昨日のドワーフとフェラインに出会った。


「おう! 青年! 昨日は助かったぞ!」

「ありがとうにゃ!」

「商談の方は上手くいったんです?」

「おう、お陰でな。ガッポガッポに大儲けじゃ!」

「これから凱旋にゃ!」


 二人の商売はうまくいったみたい。

 商売でうまくいっている二人を見ていると、俺の心がうずく。

 心から湧き上がる高揚感。

 俺も商人の端くれだ。

 成功したいという願望が商人という天職に就けたんだろう。

 いつかは商売を始めたいな。


「ところで、その子は青年の娘か?」

「血縁ではないんですが、ちょっと縁があって養子というか娘にしようかと思っています」


 それを聞いたミリモが目を見開いて喜ぶ。

 ここにきてやっと『養子』の意味を知ったミリモである。

 私にも家族が出来るんだと!

 一人ぼっちではなくなる!


「わ、私を、む、娘にしてくれるんですか?」

「おう、ミリモを一人で放っておくわけにもいかないしな」


 その言葉を聞いた途端、嬉しさがこみ上げてきて感情が抑えられなくなったミリモ。

 ミリモは俺に飛びつくとぎゅっと抱き着いてきた。

 細く短い腕が元気いっぱいに俺の首にしがみついている。


「う、うれしいです! お父さん!」


 俺の心にあふれる温かさ。

 これだ!

 これを求めていたんだ!

 俺もミリモを抱きしめた。


 *


 青年と別れたドワーフが髭を擦りながらほくそ笑む。


「上手いことあの二人は出会ったようじゃの」


 フェラインの少女は顔から感情が抜け落ち、機械的な返事をする。


「JA。彼にとってあの子が最適解」

「運命の歯車同士が引き寄せあい絡み合ったのかのう」


 フェラインはなにも答えずに杖で中空に魔法陣を展開。

 青色に輝く魔法陣。

 二人はその中に消えていった。


 *


 冒険者ギルドに着いた俺たち。

 早速、ミリモの冒険者登録をすることにする。

 受付嬢はいつもの美人のメリッサさん。

 美人なのに浮いた噂の一切ない真面目な人だ。

 冒険者ギルドの中ではアイドル的な存在で、多くの冒険者が求婚しては断られ討ち死にしていた。

 勇者パーティのメンバーだったリンダと同じく貴族狙いとの噂だ。

 可愛さを武器に成り上がるのは女としては当然の権利であり運命さだめでもある。

 俺も冒険者を始めた頃は彼女に淡い恋心を抱いていたが、格の違いを身に染みて既に恋愛感情を抱くことも無い。


「この子の冒険者登録を頼む」

「この子との関係は?」

「今は正式じゃないが、ゆくゆくは養子にしようと思っている」


 受付嬢が察してくれた。


「ポータさんの隠し子さんですね。はい、了解です」

「ちげーから! 俺に隠し子なんて居ねーし!」

「その歳でですか?」

「おうよ! 俺は今まで女の人とそんな関係持ったことないし!」

「もしかして……童貞?」


 ぐはっ!

 その何気ない言葉が俺のメンタルをクリティカルヒット級のダメージで削る。


「そ、そうだよ。悪いのかよ」

「その歳でですか?」


 ぐほっ!


 ――死の宣告!(発動時間:即時)

 ――ポーターは即死した。 


 俺は今まで勇者パーティに入っていたので、女の人と遊んでいる暇なんて無かった。

 街に戻れば討伐素材の清算をし、次の冒険の為の道具の仕入れもする。

 薬品に至ってはかなりの部分が俺による自家製だし、武器や防具の手入れも俺の担当だった。

 他の三人のメンバーとは違い、街に戻っても仕事は続く。

 準備が終わった頃には次の冒険だ。

 戦闘能力のない商人が勇者パーティーに参加するんだから仕方ないことだ。

 俺はそう割り切って準備をこなしていたのだ。

 そんな俺は貞操を守り続け、来るべき初夜に愛する人へこの身を捧げようと心に決めている。

 俺に聞こえない声でつぶやくメリッサさん。


「……!(ショタですと!)」

「……!(それも熟成された紳士がですか?)」

「……!(じゅるり)」

「…………!(これこそは私の初夜をささげるべき運命の人!)」


 彼女の目がレアなモンスターを狙う狩人のような目になっていたのを、異性経験の無い俺には気付けなかった。


 まるで熱があるかのように熱い目をしてひとみうるませるメリッサさん。

 ボーっとしていて焦点が合っていない。

 完全に手が止まっている。

 仕事が忙しすぎて熱でも出てるんだろうか?

 俺は周りの職員に聞かれないように、そっと彼女に声を掛けた。


「メリッサさん? 大丈夫ですか?」

「ひゃ、ひゃい!」


 ビクンと背筋を伸ばすと、いつもの真面目な表情に戻る。


「大丈夫です」


 俺の気のせいだったみたいだ。


「この子のギルドカードを発行してもらえますか?」


 いつも通りの手際の良さ。

 すぐにギルドカードが発行された。


 懐かしいな。

 俺もこのカードを手にした時のことを今でも思い出す。

 確か成人の儀を受ける直前の事。

 大人の階段を登り始めた気分は今でも忘れられない。

 メリッサさんは仮カードの説明を始めた。


「これが仮ギルドカードです」

「仮なのですか?」


 ミリモが困ったような顔をした。

 メリッサさんはそんなミリモを見て、笑顔を見せて安心させる。


「仮と言っても簡単な試験をするだけで、すぐに正式なギルドカードを発行するから安心してね」

「簡単なのに試験が必要なの?」

「冒険者って結構大変な仕事だから、すぐにやめちゃう人が多いの。だから、ちょっとした依頼をやってもらって、冒険者の適性があるか自分で判断してもらう制度なの」


 その話を聞いてミリモは安心したようだ。


「今日の日没までに、ギルドポイントを二ポイント分の依頼をこなしてね」

「はい!」

「でもね、ただ受けるだけではダメよ。二つの条件が有るの」

「二つの条件?」


 メリッサさんは仮カードの説明を書いたパンフレットを手にして説明をする。


「まず一つは自分だけの力で依頼を達成すること。ポータさんにやってもらってはダメだからね」

「はい!」

「あと、もう一つ。必ず討伐依頼を一つ達成してね。条件を満たせば正式なギルドカード発行するからね」


 二ポイントなら、一番難易度の低い一ポイントの依頼を二つで条件達成だ。

 採取と簡単な討伐依頼で終わる。

 討伐依頼と言っても、一ポイントの依頼の実態は食材となる肉の納品依頼だったりする。

 大抵はウサギ肉の納品や、歩き茸の納品だ。

 どちらも子供でも簡単に依頼達成できる難易度だ。

 間違えて高難易度の依頼でも受けない限り、誰でも簡単に達成出来る。

 俺はミリモを連れて依頼掲示板の前に行く。

 この中で最低難易度のランクFの依頼を見繕みつくろった。

 まあ、Cランクの依頼だとしても、勇者パーティーに八年間も所属していた俺がついているから楽勝だ。


 *


 早速、俺はミリモを連れて草原へと向かう。

 まずは薬草の材料集めだ。

 この前俺が受けた依頼と違い、初級ポーションの材料となる薬草集め。

 そこら中に生えている薬草を集めるだけの簡単なお仕事だ。


「よし、薬草を集めるぞ」


 ミリモはどれがパンフレットに書いてあった薬草かわからず困っているみたいだ。

 薬草を採るのはあくまでもミリモの仕事。

 見つける迄は俺が手伝える。

 俺が手伝ったらいけないとは一言もいってなかったからな。


「まずはそれだな」


 俺は薬草を指さすと、パンフレットのイラストと見比べたミリモの顔がパッと明るくなった。


「ポータさんは生い茂る草の中からこんなに簡単に薬草を見つけられるんですね!」

「すごいだろ?」

「すごいです! 私なんてどれが薬草か雑草か全然わかんないです」

「まあ、修行の成果だな」


 得意気にそう言いつつも【鑑定】スキルを使っている俺。

 これだけ草が生えてると普通に探すのは大変だ。


「よし! 納品分集めたな」


 ミリモの顔が綻ぶ。

 初めての依頼達成。

 俺も初めての依頼を達成した時は結構嬉しかった。

 ミリモに教えた薬草は全て特上品だ。

 薬草を納品した時の受付嬢のメリッサさんの驚く顔が楽しみだ。

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