ザ・タワー・オブ・パスタ
「ふー、この辺りのお店は閉まっちゃったし、お土産を買うのは明日の朝にしよう」
宿に戻ってお風呂に入ると、おかみさんのママリアさんがお別れ会の準備していてくれた。
メンバーはもちろんこの街の冒険者たち……なんて仲間は居なくて、俺とママリアさんの二人だけだ。
「今日でお別れだろ? 今まであったことを全部聞かせなよ」
おかみさんとの楽しい昔話でその夜は過ぎた。
*
翌朝、朝チュンで起きた。
別にママリアさんとそんな関係が起こる訳もなく、ただ窓の外の小鳥の鳴き声で起きただけだ。
昨日は飲み過ぎたせいか寝過ごしてしまった。
もうセントリアの店の開いている時間だ。
お昼前の最終便の馬車に間に合うようにお土産を買いに行く。
お土産は色々と悩んだんだけど、結局は日持ちのいいパスタにすることにした。
へんな置物や珍味を渡されても、貰った方が困るだろうしな。
普通に食べれて消える物がいい。
ただ、ちょっと重い上に嵩張るのが難点。
買い込んだパスタの箱は結構な量になってしまってかなりの大荷物だ。
俺の身長と同じぐらいの、ちょっとしたタワーが出来上がってしまった。
あまりにも箱を積み過ぎたせいで今にも崩れそう。
風も吹いていないのに、ゆらりゆらりと揺れていて結構怖い。
剣を支え代わりに縛って、辛うじて箱タワーが崩壊するのをやっと防いだぐらいだ。
流石にこれだけの箱を【アイテムボックス】に入れて長旅をするのは、魔力維持の観点からも辛い。
俺はこの大荷物を載せて貰える馬車を探し交渉を続けていた。
皆、定期便や客車ばかりで渋い顔をする。
「うちは定期便の馬車なので荷物は既に満載なんだ。ごめんな」
「もうしわけない。うちは客車なんで手荷物は大きなかばん一つまでって決まっているんだ。貨物車を探してくれ」
そんなこんなで、交渉に手間取っていると箱タワーが崩れた。
それはもう、すごい音を立ててな。
馬車の乗客や御者たちが何事かと集まってきて人だかりが出来ていた。
やべぇ!
誰か荷崩れに巻き込まれたりしてないよな?
俺は慌てて崩れた箱にかけ寄り、箱を積み直し始める。
見ると、薄汚れた生成りのフード付きのローブを着る女の子が荷崩れに巻き込まれていた!
多分まだ5歳か6歳ぐらいの幼女と言ってもいいぐらいの女の子だ!
マジかよ!
怪我とかしてないよな?
大変なことになってしまった!
「大丈夫か!」
無事だよな?
すると、女の子はヨロヨロと立ち上がる。
俺の心配する声に返事もせず、走ってどこかに消えた。
俺の剣をローブの中に大事そうに抱えて……。
「えっ?」
箱にに括りつけておいたはずの剣を何故持っている?
俺は一瞬で箱が崩れた原因に気が付いた。
女の子が荷物から剣をほどいて持ち逃げしたんだ!
でも、俺の剣は盗難防止機能付き。
時間が経てば剣が爆発して戻って来る。
焦ることも無い。
追わずとも、ここで待ってれば剣は戻って来る。
俺は崩れたパスタタワーの再建をし始める。
その時、俺はとんでもない事に気が付いた。
剣が爆発……。
剣を盗んだのは女の子……。
それって……。
やべぇ!
このままでは少女が爆死してしまう!
盗人のおっさんなら耐えられる爆発も、女の子じゃ耐えられない。
きっと、グロいことになる。
少女爆死犯になっちまうよおぉぉ!
それだけは避けねば!
幸い、女の子の足はあまり速くない。
まだ通りの向こうに姿が見える。
追えば追いつく距離だ。
俺は大声で女の子を止める。
「待った! 止まって!」
「ひっ!」
俺の声を聞いた女の子はビクンと震える。
飛び上がる勢いで驚いて全力でかけ始めた!
「逃げないで!」
「嫌です!」
「その剣を置いて!」
「嫌です!」
「なんでなんだよ?」
「これを衛兵さんに渡してお礼を貰うのです。だから追いかけないでください!」
更に速度を上げる女の子!
それはもう、必死に野良犬から逃げる子猫のように素早い。
「いいから、止まって!」
「止まったら捕まって衛兵に突き出されてしまいます!」
「そんな事しないから! とにかく止まって!」
「嫌です! 絶対嘘です! もう騙されません!」
もうってなんだよ?
キミと出会ったのは今だよな?
「本当だって! 信じて!」
「これを衛兵さんに渡したお礼でご飯を食べないと死んでしまいます!」
「飯なら好きなだけ食わしてやるから!」
「きっと嘘なのです。私が気を許したとこで衛兵に突き出す作戦なのです!」
「そんな事しねーよ!」
その時、女の子から「ぐぎゅー!」とすごい音が。
思いっきりふらつく女の子。
空腹状態で走ったもんだから、目を回してしまったみたいだ。
運悪くその先には噴水が!
そして豪快な打撲音!
――ガコン!
噴水の端に頭をぶつけて倒れてしまった。
「もう五日も何も食べてないのです……」
それが気絶した女の子が言った最後の言葉だった。
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