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魔獣を倒す方法

 ネバタリアの冒険者ギルドまで逃げ帰った俺たち。

 ナデシコは自分のせいで討伐が失敗した責任を感じているのか、あれから一言もしゃべっていない。

 そんなナデシコを見たミリモは心配そうにつぶやく。


「ナデシコさん落ち込んでますね」


 ナデシコは膝を抱えてギルド酒場の椅子の上に座っていた。

 今回は魔法の準備を怠ったナデシコの敗因だ。

 魔法のセットアップをちゃんとすればあの魔獣を倒すことが出来るだろう。

 幸い、被害は石化されたリンダだけ。

 そのリンダもバッダスに連れられて教会で治療してもらっている。

 三〇分もすれば元気な顔を見せてくれるだろう。

 死人が出ていないので実質被害はゼロみたいなもんだ。

 俺は頭を抱えているナデシコがこれ以上罪悪感を抱かないように軽く責めておくことにした。


「お前がちゃんと準備をしておかなかったから負けたんだぞ」


 気の強いナデシコのこと。

 責められたら食ってかかってくると思ったが反論はなかった。


「ごめんなさい」と、か細い声で謝るナデシコ。

 いつものナデシコらしくない。


「ナデシコさん、どうしたんでしょう?」


 ミリモが心配そうに俺に聞いてきた。

 ナデシコは独り言のように言葉を続ける。


「あの魔獣、対峙してわかりました。私が予想してたよりも遥かに大きかったです。今の私には……きっとあの魔獣を覆いつくすようなデスティーションは撃てないと思います」


 いつもは聞いたことのない弱々しいことばがナデシコの口から洩れた。


「あの魔獣はおかしい」


 そう言ったのはリンダを治療に送っていったバッダスだ。

 リンダの石化は幸い軽傷ですぐに治るそうだ。


「俺が勇者を始めた頃にデイモスと戦ったことがあるんだが、今回のデーモスは常識外れだ」


 そんなこと、言われなくてもわかっている。


「あの大きさだろ?」

「いや、大きさじゃない」


 バッダスはやれやれといった感じで肩をすくめる。

 こういう細かい仕草が俺を馬鹿にしているようでいちいちむかつく。


「あの魔石だ」

「魔石? 背中に付いているやつか?」

「そうだ」

「確かに大きな魔石だが魔獣に魔石は付き物だよな?」


 魔獣とは魔石に魔物が憑りつきつき、血肉を得て実体化したもの。

 その為、魔獣に核となる魔石があるのは常識だ。

 その数も一つであるのは常識だ。


「そうなんだが、あのデイモスの核は頭の角なんだよ」

「なんだと? ということはあの魔獣は魔石を二つも持っているのか?」

「そうだ。魔石を二つも持つ魔獣なんて聞いたことがないだろ?」

「確かに聞いたことが無いな」

「多分、あの魔獣は何者かの手によって魔石をさらに与えられたものだ」


 やはりまともな魔獣ではなかったか。

 魔獣をベースに作られたものなら、あの大きさにも納得がいく。


「その犯人は、マミーラよ!」


 石化の治療を終えたリンダであった。

 まだ完治していないようで、不自由な身体を杖で支えてどうにか立っている感じだ。

 普通なら二~三日は安静にしているのが当たり前なのに無理してやって来たようだ。


「マミーラによって作られた魔獣だと!?」

「私、マミーラが魔声石で誰かと話しているのを聞いたのよ。魔獣を魔石で不滅の魔獣に進化させるって話を……」

「そうだったのか……」


 あの背中にある魔石がそれなんだろう。

 不滅の魔獣。

 話は聞いたことがある。

 剣も魔法も効かない魔獣だ。

 今のデイモスその物である。


「じゃあ、背中の魔石を砕かないと始まらないのか」

「そうなるな。しかも、もう一つの魔石に回復される間もなく、一気にな」

「なのですよ」


 ナデシコが顔を上げた。


「デスティーションの改良つまり大型化をゴレちゃんに頼んでいますが、私のデスティーションで覆えるのは顔とせいぜい上半身だけです。背中の魔石まで覆いつくすのは今の私には厳しいです」

「今のってことは、訓練やら装備を揃えたら倒せるのか?」

「三年ほど修行すれば……」


 三年もかかるのか。

 ちょっと時間が掛かり過ぎだな。

 ネバタリアが壊されて廃墟になるどころか、センタリアも廃墟になっても時間がありあまって、この大陸からすべての街が破壊しつくされてしまうぞ。

 って、三年したらあの巨大な魔獣を倒せるの?

 ナデシコさん怖い。


 デイモスの背中の魔石で物理と魔法の攻撃は無効化される。

 頭の魔石は負った傷を回復する。

 デイモスを倒すには、背中の魔石を回復が追い付かない速度で破壊するしかない。

 でも山よりも高い場所にある魔石。

 よじ登る訳にも行かないのか。


「あの魔石さえ砕ければどうにかなるのか。俺に空が飛べれば良かったんだがな」

「ポータ。空なら手が有るじゃないですか」

「空を飛べる魔法を使えるのか? お前すごいな」

「そんな魔法、私が使えるわけがないじゃないですか」


 こいつはデスティーションにスキルポイントをすべて振るバカなのを忘れてた。

 ナデシコはにカッと笑う。


「飛竜ですよ。飛竜を使って背中に飛び乗ればいいんです」

「その手があったか!」


 ナデシコが竜騎士を連れてきた。

 ナデシコをネバタリア迄連れてきた女冒険者だ。

 だが。


「そんなのは既に試してみたぜ。でも、空中にまで防御壁が張られていて近づけないんだ」


 マジか?

 万策尽きた。

 その時!


「ぷぐー!(なんで俺を置いていくんだ! なんで忘れる!)」


 やべ!

 ウサタロウだ。

 きれいさっぱり忘れていた。

 とんでもなくお怒りのご様子。


「ぷぐぐー!(必死に走ってきてのどがカラカラだ! 水をくれ)」


 あの距離をこの時間で走って来たのかよ。

 とんでもないな。


「はい、お水です」

「ぷぐ(すまない)」


 ミリモから大きなジョッキを受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らし水を飲み干した。


「ぷぐー?(なんの相談をしていたんだ?)」

「巨大な魔獣の背中にある魔石なんだけど」

「ぷぐぐぐ(ここに来るまでに見えたあの魔獣か)」

「背中の巨大な防御結界の魔石のせいで攻撃は通じないし、あの背中には登れないしで、どうすればいいのか悩んでいたんだ」

「ぷぐぐ(それは大変だな)」


 ミリモが遠慮がちに俺の袖を引っ張る。


「その剣を使ったらいいんじゃないでしょうか?」

「剣?」

「その剣はお父さんから離れると真っ直ぐ飛び上がるんでしたよね?」


 そんなお節介機能が追加された。


「なんでも切り裂いて真上に飛び上がるそうなので、その剣で魔石を砕いたらいいんじゃないでしょうか?」

「その手があったか!」


 さすが我が娘。

 確かに五〇〇メトルは飛び上がると言っていたので余裕であの魔石に届く。

 俺は頭を撫ぜてやると、ミリモが気持ちよさそうに目を細めて喜ぶ。

 幸い魔獣は巨体のためその歩みはカメのように遅い。

 魔獣の下にさえ潜り込めば十分可能な作戦だ。


「じゃあ魔獣の真下へ行き剣を地面突き刺しそこから離脱すればいいんだな」

「ちょっと待て!」


 異を唱えたのはバッダスだ。


「そこまでどうやって潜り込む?」

「どうやってって、歩いてだろう?」

「あの魔獣、懐に潜り込まれないように魔砲を放ってくるんだ」

「マジか?」

「足をよじ登ろうとして痛い目にあったので間違いない。奴のふところまでたどり着くのは無理だ」


 万策尽きた。

 その時笑うものがいた。

 ウサタロウだ。


「ぷぐぐぐ!(それなら俺に任せろ。足の速さだけは自信がある!)」

「魔砲が待ち構えているんだぞ?」

「ぷぐ!(魔砲を避けることぐらい楽勝だ!)」


 俺はミリモの作戦と、ウサタロウの足、そして聖剣にすべてを賭けることにした。

次回最終回です。

たぶん。

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