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ネバタリアの魔獣

しばらく休んでしまってごめんなさい。

「ブゴオオオオ!」


 すさまじい獣の鳴き声!

 どうやら手紙に書いてあった騎獣がやって来たようだ。

 ギルド前で待っていたのは四足歩行のトカゲのような大型魔獣。

 ポータの頭のはるか上にある鞍に跨がっているのは知らない顔の若い男の冒険者だった。


「おっさんがバッダスの言っていたポータか」

「俺はおっさんじゃねーよ!」


 男は憤慨する俺を鼻で笑いながら騎獣から見下ろす。


「そんな大きな娘がいるのに、お兄さんて歳でもないだろ。さっ、いくぞ!」


 俺が騎獣の鞍に跨がると、ミリモは俺の胸にしがみついてくる。

 騎獣の背の高さで怯えているのか小さな手が僅かに震えていた。


「怖いか?」

「いえ」

「お父さんと、こうして二人だけでいられるのが幸せです」

「そうか」


 そしてポータに聞こえないぐらいの声で続ける。


「お父さんの匂い……とてもいいです。すはー」


 メリッサさんの影響なのか、段々と危ない方向へ向かうミリモであった。


 すさまじく揺れる騎獣。

 気を抜くと振り落とされそうになる。

 その分、速さが半端なかった。

 噂以上の速さである。

 一時間ほどで馬車旅で一日掛けて移動したキャンプ場を過ぎた。

 飛竜の速度までとはいかないが凄い速度だな。

 これならナデシコにすぐに追いつけそうだ。


「騎獣は乗り心地が最悪だけど、馬車とは比べ物にならないぐらい速いんだな」


 俺が独り言をつぶやくと冒険者が得意気に答える。


「速さが取り柄の乗り物だしな」

「これだけ早いのになんで普及しないんだ?」

「馬と違って魔獣だから【モンスタートレーナー】のスキル持ちじゃないと、乗るどころか食われちまうんだよ」


 そう言われると、騎獣は魔物である。

 それなりのスキルを持っていないと乗りこなすことは出来ない。

 乗りこなす以外にも、餌やりなんかの世話も大変なんだろう。

 俺がそんなことを考えていると、林を抜けた途端に冒険者が大声を張り上げた。


「おっ! 見えてきたぞ!」


 見たことのない大きさの魔獣。

 触れたことのない威圧感。

 山よりも巨大なカメのような獣。

 それがグレーターデーモスであった。

 ネバタリアの城がまだ見えてないのに、すさまじい大きさの背が見える。

 こんなのと俺は戦おうとしているのか……。

 正直な感想を言っていいか?

 これはちょっと無理じゃね?

 あまりにも巨大すぎる。

 二流勇者パーティーを追い出された俺には荷が重すぎる相手だ。

 おまけにここから見ても苦戦しているのがわかる。


 多数の魔法がデーモスに対して放たれているが、その全てが着弾前に障壁で防がれていた。

 背中の一番高い部分にある魔石。

 魔法を受ける直前に、その魔石が障壁を発生。

 全ての攻撃を無効化していた。


「あのカメさんすごく大きいし、魔法も全然効いてないです」


 ミリモが悲しげにつぶやいた。


「思ったよりも巨大で障壁もかなりのものだな」

「あの障壁も凄いが、奴は火も吐くからな」

「カメなのに火を吐くのか?」


 カメだったら水属性が当たり前。

 火じゃなく水を吐くものなんじゃね?

 属性を無視過ぎる。


「今朝も何人の魔法使いや剣士があの炎の餌食になったことか……。差し違えることも出来ずにただ殺されただけで……」


 仲間がやられたのか、涙ぐむ男。

 かなりの被害が出ているようだ。

 確かにあの魔獣なら剣も魔法も通じるはずがない。


「そこでな、おっさんのアイテムで魔獣を麻痺煙幕で動けなくさせて、障壁を無効化する戦法が出てきたんだよ。期待してるぜ」


 それでなのか。

 なんとなく、ここに俺が呼ばれた理由がわかってきた。


 *


 俺たちはネバタリアの街に着いた。

 センタリアで薬を作っていた時間があったのでナデシコよりもだいぶ遅れたとは思う。

 でも、騎獣のお陰で遅れはかなり取り返した筈だ。

 ナデシコの到着から四時間遅れぐらいだろう。

 まだ間に合う。

 俺はギルドに駆け込んだ。

 だが、ナデシコの姿はどこにも無かった。

 すでに魔獣と戦ってるのか?

 受付嬢を捕まえて聞いてみた。


「動ける冒険者は全員戦場に向かっているはずです」


 ケガ人の世話をしながら、受付嬢は迷惑そうに答えた。

 俺たちも戦場へ向かう。

 戦場では俺を見たナデシコが驚いていた。

 その横にはタモツもいた。

 ナデシコは俺を見た途端に表情が明るくなる。


「ポータ! 私の雄姿を見に来てくれたんですね!」

「ちげーよ! お前を止めに来たんだ」

「止めに?」


 呆気にとられた表情をするナデシコ。

 なぜに俺が止めに来たのか理解できてないようだ。


「あの魔獣、魔法を防ぐ障壁を展開するんだぞ!」


 俺が止めると、タモツもナデシコを説得する。


「そうだ! それで朝から何人の魔法使いが炎に飲み込まれたのか知らないわけじゃないだろ!」

「ふっふっふ、笑止!」


 だが、ナデシコはいつもの怪しいポーズをとり笑った。

 まるで、そんなことは全く問題ないかのように。


「あんな障壁、ゴレちゃんで覚醒した私には無意味! 史上最強魔法のデスティーションで魔獣自体を覆いつくしてしまえば障壁なんて無意味なのです!」


 小さなゴーレムがナデシコのしぐさを真似るようにウンウンとうなずいている。


「あの障壁、いや魔獣ごとデスティーションで覆いつくせるのか?」


 再び怪しいポーズ。

 ふんぞり返って高笑いまでしている。


「普通の魔導士ならできません。でも私は規格外の魔導士! あの程度の魔獣、私のデスティーションで屠って見せましょう!」


 ナデシコがとんでもないことを言い出した。

 山を越える大きさの魔獣をデスティーションで覆いつくすと!

 でも、異世界への門を開いたナデシコのこと。

 本当に出来るのかもしれない。

 俺はナデシコに賭けてみることにした。


 そこに今回の俺の依頼人、バッダスがやって来た。

 二度と見たくない顔であったが、俺の仲間のナデシコの係わっている依頼だ。

 ここはぐっと堪えることにした。


「ポータ、来てくれたのか」


 バッダスは俺にしたことを忘れたかのように謝りもせずに普通に接してきた。

 殴ったろうかな? こいつ。


「ああ、友の危機だからな」


 ちなみに友とはナデシコのことである。

 でも、そんなことを知らないバッダス。

 涙を流して感動している。

 

「あんな仕打ちをした俺のことをまだ友だと言ってくれるのか?」

「お、おう」


 バッダスは涙を拭いながら、作戦の説明を始めた。


「今回は異世界勇者のナデシコのサポートを頼む」

「具体的には?」

「グレーターデーモスには魔法が効かない。そこでお前のアイテムを使いデーモスに麻痺などの妨害をして、ナデシコを守って欲しい。出来るか?」


 アイテムによる補助は、俺だけでは成り立たない。

 魔法使いのリンダがいて初めて成立する。

 俺はリンダの行方を聞く。


「リンダはどうした? 俺のアイテムによるサポートはリンダがいて初めて成立するんだ」

「リンダか……」


 バッダスは口ごもる。

 いつもと違って言葉の切れが悪い。

 俺はバッダスの胸倉を掴み、強引に聞き出した。


「あいつは今朝、大怪我を負って……」


 デイモスの火炎の被害者の中にリンダも含まれていたのかよ!

 俺はバッダスの胸倉を掴む!


「お前がいながら、なんでリンダを守れなかったんだ!」

「すまない」

「大丈夫よ!」


 リンダだ。

 身体中、包帯でぐるぐる巻き。

 しかも杖を支えにして立っているのがやっとといった感じだ。

 全然大丈夫じゃない。


「既に治療をしてもらったし、ポータのサポートぐらい出来るわ」

「随分とボロボロなんだが、本当に大丈夫なのかよ?」

「私が大丈夫って言ってるから大丈夫なのよ!」


 口だけは威勢がいいけど……いや、無理でしょ。

 立ってるのがやっとだし。


「それに大丈夫じゃなくても、やらないといけない時があるの。今がそうなの!」

「おおう」


 確か、昔ピンチに陥った時に俺が言った言葉だ。

 リンダはものすごい気迫でデイモスに立ち向かおうとしていた。


「お父さん……」


 あまりの大怪我にミリモが怯えている。

 小さな口から、ポツリと言葉が放たれる。


「私の作ったポーションをリンダさんに飲ませていいですか?」

「そうだな。飲ましてやれ」


 ミリモの作ったポーションはハイクオリティー品。

 痛みを忘れさせるぐらいの効果はあるだろう。


「これをくれるの? ありがとう」


 リンダはポーションを一気に飲み干す。

 ポーションなんて物はすぐに効くわけじゃない。

 でも、効いている素振りをするリンダ。


「かなり楽になったわ。ありがとうね」


 ポーションを飲んだから、俺のサポートぐらいはどうにかなるだろう。

 実はミリモの作ったポーションはエリクサーと並ぶほどの効果のあるポーションであった。

 リンダは社交辞令で薬が効いたと言っていたのではなく、本当に完治していたのだった。

 俺はリンダへ作戦を説明する。


「大量の妨害薬、麻痺、混乱、暗闇、沈黙、睡眠、遅延……ありうる限りの妨害薬を出現させる。それを魔獣の鼻の穴の中に放り込んでやれ」

「わかったわ。息を吸うタイミングでするわね」

「ナデシコは魔獣が妨害薬を吸い混乱したところでデスティーションだ!」

「わかりました」

「防御はバッダスとタモツでなんとかしてくれ」

「リンダは任せろ」

「ナデシコは俺が絶対に守ってやるからな」

「今日のタモツはちょっとだけカッコいいです……」


 顔を赤らめるナデシコであった。


 *


 戦場の最前線に来た。

 俺は薬品を出現させる。

 山のような薬品が現れた。

 あまりの多さに、リンダが少し驚いている。


「こんな大量の薬品を目にするのは初めてね」

「一度には無理か?」

「いや、体調も戻って来たし大丈夫」


 リンダは風を魔法で起こす。

 やがて、風はつむじ風を起こしてデイモスの頭へと向かう。


「今よ!」


 俺は薬品を発動させる。

 まるで爆煙のようなすさまじい勢いの煙が巻き起こる。

 この煙に触れたら、オーガぐらいなら即死するぐらいの威力がある。

 リンダの風魔法はその煙をすべて残さず数百メトル上にあるデイモスの頭へと運ぶ。

 そして覆いつくす煙。

 異変を察知したデイモス。

 だが、もう遅い!

 デイモスは毒煙を吸い込み、身体の自由を失った。

 前足が崩れ落ち、地に伏せた。

 すさまじい土煙と振動が俺たちを襲う。


「ぶわっは! ミリモ、俺の後ろに!」

「はい、お父さん!」

「ナデシコも、俺の後ろに隠れろ!」

「魔法の詠唱の邪魔になるので目の前に立たないでください! でもちょっとうれしいです……」


 魔獣の動きが完全に止まった。

 バッダスの声があがる。


「今だ!」


 ナデシコは手のひらを構える!

 大仰な詠唱は無しだ。


「デスティーション!」


 ズゴゴゴゴゴ!


 デスティーションが発動!

 まるで地響きのような振動が上空から聞こえてくる。

 デイモスをディスティーションが覆いつくす!

 

 はずだった……。

 覆ったのは甲羅の一部。

 デスティーションは魔獣を覆いつくすことはなかった。

 魔石が障壁を展開して無効化。

 作戦は失敗だ。

 それを見てブチ切れたタモツ。


「なんで、デスティーションがあんなにちっちゃいんだよ! 全然威力が戻ってねーじゃねーか!」

「こ、これはポータのせいです」


 お、俺?

 俺は何にもしてないぞ?

 タモツが俺に食いかかって来た。


「俺のナデシコになにをした!?」

「なんにもしてないぞ?」

「ポータが忖度しろといったので……」


 えっ?

 あのセンタリアの街の横で撃った威力控えめのデスティーションが今更かかわってくるの?

 ちょっ!

 そりゃ、無いでしょ。


「威力を元に戻さなかったのかよ!」

「てへぺろ」

「てへぺろじゃねーよ!」


 デイモスを覆いつくせなかったデスティーション。

 当然、デイモスは障壁で妨害薬も無効化。

 もう、完全回復でピンピンしている。

 しかも、デイモスの攻撃ターン。

 デイモスの目が怪しく光った!

 やばい!

 目からビームが来る!

 ここは煙幕で奴の視界を抑えねば!


「リンダ、風魔法をもう一度頼む!」

「…………」


 返事がない。

 ただの石像の様だ。

 マジかよ!

 リンダはデイモスの邪眼で石化していた。


「逃げろー!」


 俺たちはリンダを抱え、デイモスから逃亡した。

面白いと思ったら是非とも評価をお願いします。

あと、1~2話で終わる予定です。

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