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指名依頼

 スピカさんは指名依頼の書類を読み上げる。


「指名依頼の任務地はネバタリア、内容は「物資の配達」と「戦闘補助」ですね。この指名依頼はギルドが発行主になっているものではありませんので、気に入らなければ拒否も可能ですがどうします?」


 俺をパーティーから追い出しておきながら今更依頼かよ!

 ふざけんじゃねーよ!

 俺の規格外の回復役の性能にやっと気がついたのかよ!

 バッダスが俺に物資の配達を頼むのはわかる。

 俺のアイテムボックスが馬車三台分と大容量なのを知っているからな。

 でも、討伐補助だと?

 キャンプの設営や料理をさせるためにわざわざ呼び寄せるのは考え辛い。

 となると、回復役かな?

 そういえば、必要なことは全て中に書いてあるとナデシコを連れて行ったバリスが言っていたけど……。

 依頼書を見てからじゃないと、この依頼を受けていいのかどうかわからない。


「スピカさん。すいませんが依頼書を見せて貰えませんか?」


 依頼書には、必要な物資がリストアップされていた。

 薬草、治療ポーション、各種煙幕系の薬など。

 だが、書いてあるのはそれだけだった。

 これだと完全に荷物の配送役でしかない。

 でも、これだけでは状況が全くわからない。

 バリスさんは必要なことは全て書いてあると言っていたはずなんだが?

 スピカさんが申し訳なさそうな顔をして、手紙を差し出してきた。


「すいません。封筒の中に手紙がありました」


 バッダスの手書きの手紙だ。

 手紙にはこう書いてあった。


 ――――――――――

 すまない、ポータ。

 いまさら言えた義理じゃないんだが、パーティーに戻ってきてくれ。

 ネバタリアを襲っているデイモスは強敵だ。

 攻撃が全く通じない。

 剣は分厚い防御壁で弾かれ、魔法も魔防壁ですべて無効。

 やたら防御の硬い今まで出会った敵とは全く違うタイプの敵だ。

 俺の力では傷一つ付けられない。

 召喚勇者にも手に負えず、バタバタと倒れている。

 もう頼れるのはポータ、お前の道具しかない。

 お前の道具に全てを賭けたいと思う。

 いまさら言えた義理じゃないんだが、助けてくれ!

 俺の手配した騎獣に乗ってやって来るのを待っている。

 ――――――――――

 

 急いで書いたのか、乱れた字でそう書いてあった。

 俺を追い出したのに勝手なもんだな。

 面倒ごとに巻き込まれない。

 これが俺のジャスティスなんだが……。

 でも、書いてある内容に気になることが書いてあった。

 剣も魔法も通じない敵だと?

 助けに向かったナデシコはどうなる?

 ナデシコのことだ。

 デスティーションが使えるようになった今、魔法が効かない相手であってもたぶん一騎打ちに出ることだろう。

 そうなったら……。

 ナデシコを助けに行かねば!

 俺は大慌てで、街を駆けずり回り薬品をかき集める。

 だが、どこの店もデイモス騒動で薬品は在庫切れだ。

 運良く売れ残っていても、二~三本がいいところだ。

 とてもリストの数には届かない。

 こうなったら、自分で作るしかない。

 俺は材料をかき集めた。

 足りない材料はウサタロウにメモを持たせて買い出しを頼んだ。

 用意した材料をギルドの一角を借り、ミリモと一緒に加工する。

 

「麻痺薬二〇本出来ました!」

「おう! 上級ポーション三〇本も出来上がりだ」

「ぷぐー!(次のざいりょうだ)」

「あれれ? 上級マジックポーションの材料が足りないですね?」

「ぷぐぐーん!(そういえば、どの店でも売り切れだった材料があったな)」


 『精霊の雫』が無いのか。

 さすがにマジックポーションが用意できないとなると、魔法使いの魔力が枯渇する。

 これはマズいことになった。

 俺は調薬をミリモに任せて、『精霊の雫』の買い出しに向かう。

 再び店に行くが、ここのこところの材料不足でどの店の在庫が切れている。


「この街の周辺で採れるポーション系の材料ならまだ残ってるんですがね」


 誰だよ。

 楽なセンタリア周辺の薬草取りばっかりして、遠場の森へ『精霊の雫』を採りに行かないのは。

 って、もしかして俺か?

 メリッサさんから『精霊の雫』採りを感謝されたことがあったな。

 満面の笑みを浮かべたメリッサさんに半強制的に依頼票を握らされて「ポータさんしか採ってきてくれないんですよ」みたいなことを言われたことがあった気がする。

 今から採りに行ったら……。

 それは無理だ。

 ネバタリアに着くのはいつになるのかわからなくなる。

 その時、懐かしい声が聞こえた。


「どうした? 青年よ」


 いつぞや、聖剣を打ってくれたドワーフだった。

 その横にはフェラインもいた。


「なんでここに?」

「近場で騒動が起こったらしくて、商売になる匂いがぷんぷんしてきてな」

「青年こそ血相を変えてどうしたんだ?」

「なに、泣き顔してるにゃ?」


 俺は事情を話した。


「マジックポーションの材料が足りなくて困っていたんです」

「なにが足りないんじゃ?」

「『精霊の雫』です」

「それなら、ちょうど持っているぞ」

「大量に買い占めたにゃ」


 こ、こいつが材料不足の犯人か!

 このフェライン、かわいい顔してやることはえげつない。

 でも、商売人なら儲かるものを買い占めるのは当たり前のことだな。

 ドワーフが俺が困ってるのを聞いて分けてくれると言った。


「『精霊の雫』ならわけてやるぞ」

「いいのですか?」

「でも『精霊の雫は』この街に来た目的だにゃ。ここであげたら儲からないにゃ」

「命の恩人に、ここで恩を返さないでどうする?」

「そういわれると『精霊の雫』を分けないわけにはいかなくなるにゃ。じゃあ、特別サービスで原価で売るにゃ。おまけに調薬サービス付きにゃ!」


 ギルドに戻り、フェラインの少女が調薬するとどれもハイクオリティー品が出来上がる。

 調薬まで出来るのか。

 すごいな、この少女。

 調薬スキルのあまり高くない俺じゃこうはいかない。

 ドワーフが俺の格好を見て眉を顰める。


「ところで、青年。剣はどうした?」

「もう無くしたかにゃ?」

「もちろん、ありますよ」


 アイテムボックスから剣を取り出す。

 手に取ったドワーフが再び顔をしかめた。


「研ぎ直しをしてやろうと思ったが、こりゃまた、全然使い込んでおらんな」

「新品同様にゃ」

「実は天職が商人なので片手剣スキルを持っていなくて……」

「なっ! そうであったか! すまんことをした。商人でも扱える短剣にでも打ち直してやろうか?」

「それなら、私の力で解決にゃ!」


 ギルドの床に魔法陣を描くフェライン。

 床に魔法陣を描いているのを見つけたスピカさんが後で消せるか心配して青ざめていた。

 光り輝く魔法陣。

 新たな加護が付与された。


「だれでも、片手剣スキル+1にゃ」

 

 片手剣スキル+1って……。

 持てるだけで新人冒険者の剣士の初期ステータスより劣るじゃないか!

 商人で片手剣を使いこなせるのはありがたいけど、もう少しどうにかならなかったの?

 俺の気持ちを知らずに得意気な顔で語り続けるフェラインの少女。


「おまけに追加機能をもう一つ付けたにゃ」

「どんな機能なんですか?」

「野盗に剣を奪われて地下倉庫にしまわれても、洞窟の壁を突き破って戻って来る機能にゃ。」

「それって帰還機能がパワーアップされたってことですか?」

「そう、それにゃ! 土壁でも岩盤でもどんな硬い物でも貫いて、真上に向けて飛び上がって戻ってくるにゃ! その高さ、五〇〇メトル! 地下迷宮の一〇〇階でも戻って来れるにゃ。すごいにゃ!」


 なにその無駄機能。


「二〇〇メトル離れると戻って来るのに、五〇〇メトルも上に跳ね上がっても意味ないんじゃないですか? 野盗の地下倉庫なんてダンジョンじゃなく洞窟なんですから精々地下一〇メトルですよ」

「ロマンにゃ!」

「えっ?」

「ロマンにゃ。明らかに余計な機能を付けてやらかしちゃったけど、ここで謝ったら負けにゃ!」

「相変わらず、ドジっ子だのう。ホッホッホ!」

「えへへにゃ!」


 二人は大笑いをしながら帰って行った。

 なんかテンションが高過ぎて疲れた。


「すごい騒がしい人たちでしたね」

「ああ。でも、なんだか少しだけ元気を分けて貰ったよ」

「そうですね。私も元気になりました!」

 

 *

 

 とても静かな部屋だ。

 無数にある窓からは、全ての方向から明るい光が差し込んでいる。

 さっきまで元気に話していたフェラインの顔からは表情が抜け落ちていた。

 まるで、仮面のような無表情。

 ドワーフの男はお茶を飲みながら、遠い目をする。

 

「我ながら、毎度の臭い演技だったのう」


 フェラインは聞こえているはずなのに返事をしない。


「ところで、ワシらがあそこまで手を貸して良かったのじゃろうか?」

「Ja。問題ない。ルールを破ったのは向こう」

「デイモス討伐の為に新たな加護を与えたのとヒントを与えたのは、後々問題にならないか?」

「Nien。ルールを破って序盤で大ゴマを動かした向こうが悪い」


 ドワーフは紅茶を口に含む。

 心を落ち着け、なにかを考えているようだ。


「そうじゃのう。覚醒前の者たちにとって今回のグレーターデーモスはかなりの強敵。試練と言っても間違いない。じゃが、命運が我らに有るのならば勝てるはずじゃ」


 フェラインは目を閉じたまま、何も答えなかった。

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