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ナデシコの封印

 翌朝。

 薬草の納品依頼を受けに行くと冒険者ギルドは騒然としていた。

 パーティーメンバー募集の声が飛び交う。


「こちらAランクパーティー、僧侶を募集中!」

「Cランクパーティー! 前衛二枠空き!」

「盾役一名! ただしBランク以上! 装備審査あり!」


 初めて見る光景にミリモが不思議そうな顔をしていた。


「この騒ぎは? いったいなにが起こってるんですか?」


 俺は何度もこの光景を見ている。

 ナデシコも落ち着き払っているので、多分経験したことがあるんだろう。

 ミリモはキョロキョロと辺りを見回していた。


「緊急招集だよ」

「緊急招集?」

「大事件が起こって、冒険者に召集が掛かったんだ」


 緊急招集は、大抵は都市レベルの危機が起こった時に発行される緊急クエスト。

 報酬は通常時の三倍増となる稼ぎ時。

 ただし、Cランク以上の冒険者チームには召集の拒否権は無い。

 俺の場合はミリモとチームを組んでいるので召集条件のランクよりも低く、召集外。

 でも、今はナデシコもチームに加入しているのでCランク以上で本来は召集義務が発生している。

 ただし、俺のチームにナデシコが加入したのはつい最近で、ナデシコのランクが加味されるのは半年後のチームの継続審査の時だ。

 ナデシコは辺りの騒ぎを見て、やれやれといった感じで肩を落とす。


「これだけの騒ぎ。なにが起こったんでしょうね?」

「さあ、なんだろうな?」


 実は俺には心当たりがある。

 多分、ネバタリアの野盗なんじゃないかな。

 あまりにも野盗の被害が酷いので、冒険者に召集を掛けて一掃するんだろう。

 まあ、野盗どころかミミズも倒せない俺には関係の無いことだ。


 ナデシコがギルドにいるのに気が付いたタモツ。

 表情が明るくなるとナデシコの元にやって来た。


「お前のこと、ずっと探してたんだぞ」

「私はタモツのことなんてこれっぽっちも探してませんよ」

「相変わらずキツイな」


 予想通りの返事が返ってきて苦笑いをするタモツ。

 タモツは急ぎなのかすぐに話を切り出した。


「ナデシコたちもネバタリアに行くんだよな?」

「ネバタリア? なんでそんなとこに私が行かないといけないんですか?」


 ナデシコも召集を受けてギルドにやって来たと思っていたタモツ。

 予想外の答えが返ってきて言葉を失った。

 口をバクパクさせて呆気に取られている。


「今日は薬草採取の納品依頼を受けに来たんです」

「なんで魔道士のお前が薬草採取なんてするんだよ?」

「借金返済の為です」

「ネバタリアの話を聞いてないのか?」

「なんですか? ネバタリアの話って?」


 俺がナデシコに説明しようと思ったら、タモツがとんでもないことを言い出した。


「魔獣が襲って来たんだよ!」

「魔獣?ですか? どんな魔獣が襲って来たというんです?」


 ナデシコは身を乗り出して、タモツの話に食いつく。


「デーモスだ。それも、ただのデーモスじゃねーぞ。魔獣の中で最大クラスの大きさを持つ、グレーターデーモスだぞ!」

「グレーター?」


 ナデシコは驚きのあまり目が見開かれる。

 俺もビックリだよ。

 野盗の話なんて関係ないじゃん。

 デーモスとは巨大な四足歩行の魔獣で、巨大な身体を使った踏みつけ攻撃やら、口から魔砲をはなったりと、なんでもありのしっちゃかめっちゃかな強敵だ。

 なんでそんな巨大な魔獣がいきなりネバタリアを襲って来たんだ?

 今まで、そんな巨大な魔獣が現れた噂は全く聞いてない。

 デーモスクラスの魔獣が出現した場合、進行の途中で街が滅ぼされたって話を聞くものなんだけどな。


「グレーターデーモスか。とんでもないのが襲って来たんだな」

「ああ。とんでもない大物だ。おっさん、悪いがナデシコをしばらく貸してくれないか?」

「俺はおっさんじゃねー!」

「あはは。すまんすまん」


 こいつ全然反省してねー。

 殴ったろうかな?

 でも、ミリモの前。

 我慢我慢。


「ナデシコの大好きな大きな敵だぞ! ダンジョンの中なのにキングドラゴンを見つけたら、いても立ってもいられなくなって大魔法をブチ放ったぐらいだろ? お前も来たいんだよな?」

「それは……」

「さあ、おっさんに頭を下げて頼むんだ。しばらく休みを下さいってな」


 おっさんおっさん連呼されて、突っ込む気も起こらなくなってきた。

 もう、どうでもいいわ。

 ナデシコを見ると、強敵の出現で喜んでいるかと思いきや、俯いて両手の拳を握り締めプルプルと身体を震わせ唇を噛みしめていた。


「今は……」

「ん? どうした? ナデシコ」

「今の私は……」

「なあ、行こうぜ!」


 タモツがナデシコを捲し立てた。


「こんな時にナデシコが来ないでどうする?」

「魔獣だぞ? そんな敵を前にして引き下がるナデシコじゃないだろ?」

「噂じゃ山より大きいらしいぞ! こんな敵はもう二度と遭えないかもしれないんだぞ!」


 ずっと俯いて黙っていたナデシコはタモツを睨むと、大声を張り上げた!


「私はもう、大きな敵が好きな子どもじゃないんです!」

「はあ? お前、なに言ってるの?」

「ポータと出会った今、火力が全てじゃないと悟ったんです! もう、タモツは私のことを忘れてください。私はポータと生きていくと決めたんです!」

「はあ、なにそれ? わけわかんないよ! おっさん、ナデシコになにをしたんだよ?」


 ものすごい勢いで睨みつけてくるタモツ。

 俺の胸倉につかみかかって来た。

 俺はタモツの腕を振り払う。


「なんにもしてねーよ」

「じゃあ、なんでナデシコがこんなおかしくなっちゃったんだよ!」

「知らねーから」


 すると、騒ぎを聞きつけたのかいつもの盗賊ねーちゃんがやって来た。


「おい、タモツ! いつまでこんなとこで遊んでいるんだよ!」

「でも、おっさんがナデシコを救い出さないと!」

「いいから、馬車に乗り遅れるぞ」

「でも、ナデシコを!」


 埒があかないと見た女盗賊はタモツの首に手刀を一発。

 すぐにタモツは気を失い、床に崩れ落ちる。

 女盗賊はタモツを蹴り上げると、肩に担ついだ。


「すまんね。こいつは好きな女のことになると周りがなににも見えなくなるんだよな」


 女盗賊は一言ボヤくとタモツを連れ去った。


 *


 薬草集めは今日も順調。

 これで借金返済は確実だろう。

 帰り道、俺はナデシコに確認してみた。


「本当にタモツと一緒に行かなくて良かったのか?」

「いいんですよ。私が行ったとしても、デスティーションが封印されたポンコツ。行ってもお荷物になるのが目に見えてます」


 そう言って沈んだ顔をするナデシコ。

 本当は行きたかったんだろうな。

 魔法さえ封印されていなければ、大活躍できたはずだ。

 ナデシコの小さい身体から悔しさがにじみ出ていた。

 そんなナデシコをミリモが励ます。


「ナデシコさんはポンコツじゃないですよ。薬草取りをすぐに覚えましたし、ゴレちゃんだって作れたし」


 ミリモに励まされたのが切っ掛けで心の堰が崩れたのか、ナデシコはボロボロと流し始めた。


「行きたかったよ」

「くやしいよ……」

「あと一週間……」

「一週間あれば、デスティーションの封印を解除できたのに……」


 ナデシコは泣きながら、封印を解除するととんでもないことを言い放った。

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