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剣に付与された加護

 一〇億ゴルダの剣を手に入れた俺。

 俺には不釣り合いな剣だ。

 こんな高そうな剣を持っていても、フェラインの少女の言うように野盗に襲われて死ぬ未来しか見えない。

 お礼に貰った品だけど、街についたらすぐに売り払おう。

 するとフェラインの少女は俺に微笑む。


「そうならない為に、史上最強の錬金術師の私が加護をつけるにゃ」


 手に持った杖で地面になにかを描き始めるフェラインの少女。

 うんしょうんしょと言いながら一分ちょっとで魔法陣を描き上げる。

 結構描き慣れてる感じだな。


「さあ、その剣を渡すにゃ」


 魔法陣の上に俺の剣を置くと少女が魔法を唱える。

 すると光り輝く魔法陣。

 魔法陣からはまばゆい光があふれ出し、何度も剣に光が凝縮される。

 剣はさらに輝きを増す。

 さっきまでは薄ぼんやり光ってたぐらいだけど、今は眩しくて直視出来ないレベル。

 これだけ光っていたら照明代わりになるから、ダンジョンに潜る時にランタン代わりになるね。

 でもさ、こんなにも目立つ剣を持っていたら野盗じゃなくても襲ってきそう。

 余計に危なくなってない?


「派手過ぎません? これだけ目立つとすぐに盗られそうな気がします」


 そんなことをボヤくと少女は得意気に胸を張る。


「大丈夫、私の加護をなめるにゃ。剣を無くしても必ず戻ってくるにゃ」


 どんな加護を付けたのか興味がわいたので【鑑定】してみた。

 だが、どう見ても凄いのは宝飾加工だけで、剣自体はただの鋼の剣だ。

 加護なんてどこにも付いてない。

 あれだけ光り輝く魔法陣の演出をしておきながら、加護も追加効果もなし?

 ガッカリさせんなよ。

 俺は少女に問いただす。


「無くした剣が戻って来るって……どういう加護が付いているんですか?」

「使ってのお楽しみにゃ」


 いたずら子っぽい顔をして、どんな効果なのか教えてくれなかった。

 物凄く派手だけど、何の効果も付いてない鋼の剣なのは知ってるよ。

 だって俺は【鑑定】が出来るから。

 この二人にからかわれてるのかな?

 まあ、鋼の剣でもこれだけの宝飾加工がされていれば、売れば間違いなくいいお金になるはず。

 たぶん、俺の見立てではこの剣はレア装備で三〇万ゴルダは下らない。

 街まで一緒に戻ったけど、二人は商談があるとのことですぐに別れた。

 今から考えると、一人になったことが良くなかったんだな。

 俺が武器屋に剣を売りに行ったら事件が起こったんだ。


 *


 御礼に剣をくれた二人には悪いけど、予定通り売ることにしよう。

 商人の俺には不釣り合いな剣だ。

 俺は早速武器屋に行って武器を買い取ってもらうことにした。


「ほう。この剣を買い取れというんですか?」


 剣を見て眩しさのあまり目を細める店主。

 これだけの剣は取り扱ったことが無いのかもしれない。


「この剣を打った鍛冶師が聖剣と言ってたんですが、結構いい値段になりますよね?」


 まあ、聖剣なのは見た目だけで、本当は鋼の剣なんだけど。

 俺は聞いたことをそのまま言っただけで、嘘は言ってないぞ。

 店主は剣をいろいろと調べる。

 すると顔をしかめていった。


「御冗談を……これは聖剣どころか宝剣でもない、単なる聖剣を模した模造刀ですよ」


 知ってた。

 でも、ここで引き下がるわけにもいかない。

 照明機能付きなんだから、普通の鋼の剣よりもいい値段で売れるはず。

 いや、買ってもらわないと困る。

 普通の鋼の剣は五万ゴルダだがこの剣は照明機能付き。

 きっと三〇万ゴルダにはなる。

 俺は商人としての経験を活かしハッタリをかませた。


「模造刀? これは間違いなく、かなりのレア装備ですよ。これだけ宝石が埋め込んであるんだから、それだけでもいい値段になるはずですが?」


 俺のハッタリを一瞬で看破する店主。


「あなたも商人ならわかるでしょ? この宝石が本物じゃないことぐらい」


 えっ?

 そうなの?

 宝石だけは本物と思っていたよ。


「買値は大奮発して金貨一枚、一〇万ゴルダですね」

「一〇億ゴルダじゃないの?」

「御冗談を……」


 俺が弱腰で吹っ掛けると、店主は苦笑いだ。


「この剣はなまくらで、武器としては使えません。演劇の舞台道具ぐらいにしか使えない代物ですよ。もしこの鑑定結果に納得できないなら、他の店に持って行ってもらってもかまいません」


 そうなのか……。

 二人を助けたとはいえ、タダで貰った剣だからな。

 聖剣とか宝剣とか、そんな高価なものであるわけがないし。

 ふー。

 考えるまでもなくわかることだった

 騙されてぬか喜びしちゃったよ。

 でも、ちょっとした人助けで金貨一枚が手に入ったと思えば……。

 これで当分の間、宿代に悩むことが無くなった。


「で、この剣を売ります? それとも重たい目をして持って帰ります?」


 当然答えは決まっている。


「売ります売ります」

「じゃあ、この売買契約書にサインを」


 サインをすると店主がにこやかに笑う。


「まいど!」


 金貨一枚を握りしめ、肩を落としながら武器屋を出ようとすると店主の押し殺したような笑い声が聞こえる。


「くっくっくっく」

「なにがおかしい?」

「あなたですよ」

「どういう意味だ?」

「商売人を始めたばかりみたいなので、ひとつ参考になる話をしてあげましょう」


 店主はそういうと話を続ける。


「この剣は鋼の剣にステータスを偽装してありますが、霊銀鋼という素材で出来てるんですよ」

「偽装だと?」


 俺の鑑定ではそんな情報は全く見えなかったが……。

 俺の鑑定スキルは結構使ってるので、スキルランクが低いなんてことは無いと思うんだが?

 店主は俺が考え込んでいるのを気にも留めず話を続けた。


「霊銀鉱は結構貴重な素材でしてね、溶かして地金として売れば五〇〇万ゴルダになるんですよ」

「えっ?」


 今なんて言った?

 五〇〇万ゴルダ?


「商人なのに相手の言うことを疑いもせずに信じで簡単に騙されるとは、かなりのおまぬけさんですね」


 俺を騙していたのかよ?

 店主から剣を奪い返そうとしたら、店主がひょいと掲げて避ける。


「これはもう買い取った私のものですから、勝手に手を出さないでください」

「でも騙して盗ったんだろ?」

「人聞きの悪いことを言いますね。私を信じて提示された価格で契約書にサインしたのはあなたですよ」


 確かにサインしたのは俺だ。

 サインしなければあの値段で取られることもなかった。

 クソ!

 聖剣と言っていたドワーフやフェラインの言葉を信じられなかった俺が悪いんだ。


「四九〇万ゴルダでいい勉強代になったと思ってくださいね。うひひひ」


 騙されたのかよ。

 クソクソ!

 クソったれ!

 いい歳して半泣きになりながら店を出る俺。

 手持ちのゴルダは冒険者ギルドの依頼票の報酬一万五千ゴルダと合わせて一一万五千ゴルダ。

 本当は五〇〇万ゴルダが手に入ったはずなのに、たったの一〇万ゴルダで盗られてしまった。

 また騙されたのかよ。

 なんか街で働くのが疲れたわ。

 俺には冒険者や商売人みたいな殺伐とした仕事は向いてないのかもしれない。

 故郷に戻って、冒険者時代に覚えた【調薬】スキルでちょっとした薬品店でも開くかな。

 今なら故郷に戻れるお金はある。

 勇者パーティーもクビになったことだし、田舎に戻るなら今しかない。

 おみやげでも買って帰れば、村の人たちにも嫌な顔をされないはずだ。


「これは逃げるんじゃない。新たな人生を歩むための帰郷なんだ」


 そんな言い訳を呟きながら宿屋へと向かっていると……。


 ――ダガーン!


 遠くで大きな爆発音が!

 そして空から何かが降ってきた!


 ――ブスリ!


 そして、目の前の地面に何かが突き刺さった。

 な、なにが起こった?

 目の前に突き刺さったのは剣。

 ちょっとれてたら、俺、焼き鳥みたいに串刺しだよ?

 誰の剣だよ!

 誰かのいたずら?

 厳重抗議してやる!

 それとも、俺が一〇万ゴルダ持ってるから野盗が奪いに来た?

 マジかよ!

 街の中で襲ってくるなんて、世紀末かよ!

 でも、これ……。

 しかも見覚えのある物、ついさっき騙し盗られた剣だ。

 ちょい、マジかよ!

 しかもさやに入れられたまま!

 なんで盗られたはずの剣が?

 そういえばフェラインの少女が、剣を無くすと戻ってくると言っていたが……まさか戻ってきたのか?

 まあ、なんだ。

 どういう仕掛けなのかわからないが、騙されて盗られた剣が俺の手に戻ってきた!

 俺は古の英雄の様に地面から剣を抜く。

 再び剣を手にしてほっとした。

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