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鎧の襲撃者

 それは鈍く光る金属鎧に全身を包み、突撃槍を持った騎士だった。

 騎士は一言も喋らず、槍を構える。

 槍の切っ先を向けたのは野盗たち。

 どうやら、俺たちを助けてくれる味方のようだ。

 突然現れた騎士を見て、盗賊たちが浮足立っている。


「なんだありゃ?」

「もう騎士団が到着した?」

「やべーんじゃないか?」


 ひるんでいる仲間をどやしつける野盗ボス。


「おめーら、怯むな!」


 大声で完全にその場を掌握した。


「相手は騎士と言えど馬にも乗っていない一人だけだ。対する俺たちは集団。これだけいるなら楽勝……ゲホッ!」


 騎士は馬にも乗っていないのに、疾風のような速度で一瞬で距離を詰める。

 野盗ボスは反撃する間もなく突撃槍で胸を貫かれた。

 騎士の速度は野盗を貫くだけでは勢いが収まらず、遥か彼方まで突き進む。

 そして槍を振り、野盗を投げ捨てた。

 あまりの強さにミリモもびっくりだ。


「すごいです! あの騎士さん一瞬で悪者を倒しました」


 野盗たちもびっくりで怒りで身を震わせてる。


親父おやじ!」

「親父をよくも!」

「許さねぇ! ぶっ殺してやる!」


 怒りをあらわにする雑魚野盗たち。

 かたきを取ろうと駆けつけるが、騎士の動きの方が圧倒的に速かった。


「なんであんな鎧を着てるのに俺たちより速いんだ……ぐっほっ!」


 野盗が駆けつける前に、騎士が飛んで戻って来たよ。

 なんていう速さなんだよ。

 すごいな。

 次々槍で貫かれる野盗たち。

 その実力はメリッサさん並。

 二〇秒も掛からずに、全ての野盗を退治した。

 俺は騎士に感謝の言葉を掛ける。


「ありがとう」


 でも、礼を言ってもうなずくだけで返事はなかった。

 寡黙な騎士だ。

 なにかに気が付いたミリモが俺のそでをツンツンと引っ張る。


「あの足を見てください」


 鎧を着ているのはくるぶし迄で、足には靴を履いていなかった。


「なんで靴をはいてないんだろう?」

「あの足に見覚えありません?」


 そして靴があるべき場所から覗かせていたのは……。

 ウサギの足?

 しかも、兜を見るとオーガみたいに角を生やしていた。

 中身が誰なのか一瞬でわかった。

 友だよ、友。

 激闘を繰り広げ、心を通わせあったドリルラビットの友が目の前にいた。

 でもなんで、鎧なんて着てるんだ?

 どこかの騎士を倒して鎧を手に入れたの?

 その騎士さんどうなっちゃったの?

 むーん。

 俺は気がついてはいけないことに気が付いてしまったみたいだ。

 この騎士さんは俺たちを助けてくれた恩人。

 気が付かなかったことにしておこう。

 騎士は倒した野盗全員を突撃槍で串焼きのように刺す。

 その槍を肩に担いでセンタリアの方へ消えていった。

 あの野盗をどうするの?

 俺もミリモも御者のおっちゃんも呆然だ。


 *


 センタリアの冒険者ギルドに戻る。

 いつもの喧騒。

 無事に帰って来れたのでホッとする。

 ギルドの受付でメリッサさんの戻りが遅くなることを伝えておく。

 話したのはメリッサさんの後輩に当たるスピカさんだ。


「メリッサさんは当分戻って来れないらしいです」

「えー? メリッサ先輩が急にいなくなっちゃうから、受付の人手が足りなくててんてこ舞いなのに……」


 あらま、ギルド長から聞いてなかったんだね。

 俺は詳しく状況を説明した。

 すると納得してくれたみたいだ。


「ふーん、講習でネバタリアに行ったら、向こうのギルドに拉致されたと」

「そんな感じです」


 ネバタリアの街が野盗に襲われているのが信じられないといった感じで聞いていた受付嬢。

 後でネバタリアのギルドから正式に連絡が来るだろう。


 その時、ギルド内がざわついた。

 あの騎士が現れたのだ。

 しかも、串刺しにした獲物を担いだままだ。


「ありゃなんだ?」

「悪人相手とはいえ、ひでえことしやがる」

「鬼か?」

「やべーぞ、こいつ」


 すると一人の男が声を張り上げた。


「こいつは俺の恩人だ! 恩人に喧嘩を売るというのならば、俺が買おうじゃないか!」

「タモツかよ」

「あいつ、頭がおかしいくせに、剣の腕だけはいいからな」

「関わらない方がいいな」


 俺の友をかばったのは、以前ナデシコにこっぴどくやられたタモツだ。

 意外といいやつじゃないか。

 あれ?

 なんで、いつのまにドリルラビットと仲良くなってるの?

 わけがわからん。

 もしかして前からの知り合い?

 俺はタモツに聞いてみた。


「そこのドリル……、いや騎士と知り合いなのか?」

「お前もあいつを知っていたか。つい最近知り合った俺の命の恩人だ」

「えっ? どういうこと?」

「ほら、俺がナデシコに嵌められてソロでバジリスクを狩る羽目になったろ?」


 あれはナデシコに嵌められたんじゃなく、自業自得。

 ちょっかい出してきたお前が悪いんだけどな。

 まあ、俺たちがあの依頼を受けていたら、今頃はこの世にいなかっただろう。

 依頼を横取りしてくれたのは、感謝している。


「でさ、バジリスクを狩ってたらちょいミスっちまって増援が来るわ来るわで、おまけに邪眼を喰らって石化までしちまったんだわ」


 一人でバジリスクの群れに囲まれたら、普通は助からんわな。

 事前に石化の護符か魔道具を持っていくのが常識だ。

 でも、そんなものを使っていたらコスト高で割に合わない。

 普通は石化の治療が出来る僧侶を連れて行くのが常識なんだぜ。

 ちなみに、俺みたいな調薬スキル持ち且つ、アイテムボックス持ちの商人も役に立つので超おすすめ。


「でさ、もうダメかと思ったところに友が現れたのよ」


 芝居がかった声色を使い始めるタモツ。

 自分の話に酔ってるみたい。


「バッタバッタとバジリスクを倒して、俺を助けてくれたんだわ。あれはカッコよかったね!」


 なんで、ドリルラビットがタモツを助けたのか?

 なんで、ドリルラビットが洞窟にいたのか?

 は謎だ。

 たぶん書籍版の書き下ろしで書かれるだろうが、書籍化されるわけも無いので永遠の謎である。


「でさ、こいつと心が通じ合って冒険者になりたいというのが何となく感じ取れたので、装備一式を揃えてやったんだよ」


 あー、あの鎧は騎士さんから奪ったんじゃなくて買ってあげたんだな。

 友が悪事に手を染めてないことを知りホッとした俺。

 でもさ、装備一式を揃えながらなんで靴だけ買わないの?

 異世界人のすることはよくわからん。


「あとさ、冒険者ギルドにも登録してやったんだよ」


 いやいやいや、とんでもない爆弾発言が来たぞ!

 これ!

 普通ウサギを冒険者に登録するか?

 しかも、わが友は普通のもふもふしてるだけの人畜無害なウサギじゃなく、魔物だぞ?

 そんな奴をギルド登録していいのか?

 って、登録出来ちゃったんだからいいのか?

 あとで怒られても知らんぞ。

 そんな俺の心配をよそに、タモツは野盗討伐の精算を終えた騎士を俺に紹介する。


「こいつは俺の友で騎士のウサタロウだ、よろしくな」

「おおう、よろしく。俺の名前はポータだ」


 俺と騎士は固い握手を交わす。

 まあ、既に友なんだが。

 正体を明かしたくないみたいなので、静かに別れようと思ったんだが……。

 あれ?

 握手を止めようとしても、ウサタロウが俺の手を握るのを止めてくれない!

 すげー握力!

 俺の手のひらがギシギシと悲鳴をあげてる。

 しかも、鎧のスリット越しに目をうるうるさせてるのがわかる。


「なんか、お前になついちゃったみたいだな」

「ぷぐー!(俺とお前は既に友だもんな)」

「仲間にしてやったらどうだ?」

「ぷぐぐー!(仲間にしてくれ!)」

「え、ええー?」


 相手はドリルラビットだぞ。

 言っちゃ悪いが魔物だ。

 そんなものを仲間にしていいのか?


「魔物を仲間にする冒険者なんて聞いたことがないんだけど?」

「おい、ポータ! ウサタロウは魔物ではない! 騎士だ!」

「ウサギさんは騎士なのです!」

「ぷぐー!(騎士です! けしてウサギではない!)」


 お、お前ら!

 ウサギとか、魔物とかわかってるんじゃないか!

 それなのに、なんで仲間にさせようとする?


「お前のパーティーは聞いた話じゃ前衛が居ないんだろ? ちょうどいいじゃないか」

「ですねー。お父さん入れてあげたら?」

「ぷぐぐぐー!(そうだそうだ! 俺とお前の仲だろ?)」


 ということで、一〇分ほど説得された末に、騎士のウサタロウが仲間になった。

 けして魔物ではない……って頭から角が生えてるし!

 足はウサギだし!

 どう見ても魔物だろ!


 本当に魔物を仲間にしていいのか俺?

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