ミリモの思い
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メリッサは目を覚ますとガックリとうなだれた。
「あーあ、一生に一度あるかないかの既成事実を作るチャンスだったのに……」
すでにポータもミリモも起きていて、既成事実を作るタイミングは完全に逃してしまった。
ううう。
でも、まだチャンスは残されている!
帰りの馬車もあるわ。
きっと次こそは!
そう決意するメリッサであったが……。
*
朝早い時間に、ネバタリアの街に着いた。
この街はセンタリアの外周都市で外部からセンタリアを守る盾ともなる都市だ。
規模は比較的大きく、商業で栄えている。
当然センタリアに負けないぐらいの冒険者ギルドがある。
今回の旅の目的地はそこだ。
話は変わるが、何のためにこの講習をしたんだろうか?
確か野営の訓練と聞いていたけど、俺が小屋も食事も提供したのでなんにも講習をしなかったな。
これもしかしたら、再受講になるのかな?
なんてことを心配したけど、特に問題は無かった。
「ギルドに着いたら受講完了の刻印をギルドカードにするわ。みんなギルドカードを用意しておいてね」
それを聞いて表情の明るくなるドルトとタスバ。
「ということは」
「全員合格?」
「ええ。全員合格です」
「やったー!」
「やったね!」
飛び上がって抱きしめあうドルトとタスバ。
ちなみにこの二人は今回の講習が縁で恋人となりやがて結婚することになる。
ドルトは鈍感なポータと違ってタスバの好意をもった小さなしぐさを見逃さない抜け目のない男なのだ。
ミリモも喜んでいた。
「えへへ。これでランクアップに一歩近づきました」
俺はミリモの頭をガシガシとなでてやる。
「がんばったな」
「はい!」
ミリモは俺の手の中で、目を細めて気持ちよさそうにしていた。
ギルドへと行き、受付嬢にギルドカードと報告書を渡すメリッサさん。
ギルドカードの刻印はすぐに終わった。
でも、報告書の中身に目を通した受付嬢の顔色が曇り始める。
目付きが営業スマイルから厳しいものに変わった。
「この報告書の内容に間違いはありませんか?」
「え、ええ」
「これは大変なことになりました」
あまりにも真剣な受付嬢。
普段はクールなメリッサさんに動揺がはしる。
「私、なにかまずいことを書いちゃったのかな?」
きっと、講習をしなかったことがバレたんだろう。
ミリモの講習実績が取り消されるなんてことになったらどうしよう?
受付嬢は上司に書類を渡す。
すると、書類に目を通した上司も慌てふためいた。
すぐにメリッサさんの元に上司がやって来た。
「このセンタリアへの街道に野盗が出たという話は本当かね?」
「ええ。10人規模の野盗団です。もちろん、全員始末しておきました」
「うむー」
あごに手を当てて考え込む上司の人。
すぐに結論を導き出したようだ。
「完全にこの街は封鎖されているな」
「封鎖?ですか?」
「ああ、この街の補給路を断とうとしている勢力がいるらしい」
それで最近野盗が出まくりだったんだな。
なるほどね。
上司はメリッサさんを捕まえた。
「キミは午後の会議に出席して、今回の野盗の襲撃を報告したまえ」
「えっ? 会議に出席?」
「野盗襲撃の対策会議だ」
「でも、でも……」
俺の方を何度もチラチラ見るメリッサさん。
俺も参加しろと言いたげだ。
本来ならばここで俺も参加を名乗り出てメリッサさんのサポートをした方がいいのだろう。
野盗の掃討戦で武功を上げ、冒険者から勇者へと成り上がる。
そしてメリッサさんに一目置かれる存在となり、やがては……。
でも、俺は面倒ごとに首を突っ込まない主義。
おまけに野盗を退治できるだけの戦力を持っていない俺が参加しても足手まといなだけだ。
ここは華麗にスルーするのが最善手である。
「じゃあ、俺たちはここで」
「おばさん、さよなら」
「えっ!? 帰っちゃうんですか?」
「帰ります」
「なら、私も帰ります」
メリッサさんが帰ろうとしたら、上司の人に首根っこをガッシリ掴まれた。
「今どんな状況かわかってるよね?」
ものすごく凄みの効いた声だ。
メリッサさんが上司の人の腕の中で怯える。
「この街の危機なんだ。ギルド職員であるキミにそんな勝手が許される訳がないだろ」
「いやー! 残りたくない。ポータさんと一緒に帰って熱い夜を過ごさないといけないんです」
メリッサさんの悲鳴がギルドに響いた。
俺の名前を叫んでた気もするんだが、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なのであえて無視。
ドルトとタスバも完全にメリッサさんの叫びを無視していた。
「じゃ、おっさん! またな!」
「おっさんじゃねーよ!」
「でへへ。そうだったな、ポータさん」
「ポータさん、ありがとうございました。せっかくネバタリアに来たので私たちはしばらくこの街を見て回ってから帰ります」
「そかそか。またな」
みんなと別れると、ミリモが俺に微笑みかける。
「やっと二人だけになれましたねー。ふふふーん」
「寂しいのか?」
「いいえ。お父さんが居れば、全然寂しくなんてありません!」
「あはは、そっか」
腕を大きく開いてぶんぶん振り回して元気なのをアピールするミリモ。
かわいいな。
「じゃあ、俺たちも観光するか」
「私は早く帰りたいです」
「お店とか見なくていいのか? 美味しいご飯とか出す店があるらしいぞ」
「いりません」
ミリモは早く帰ろうと必死だった。
のんびりしていると、またメリッサと一緒に帰る羽目になる。
そうなったら、お父さんを取られてしまうかも。
お父さんとメリッサが一緒になってしまう。
きっとそうなったら、大好きなお父さんから離されて捨てられてしまう。
もう、お父さんの温かさを知った今は一人では生きていけない。
そう考えると恐怖で震えが止まらなかった。
ミリモが帰りたいというので、食料だけを買い込んですぐにセンタリア行きの馬車に乗り込む。
今回は少し奮発して貨物車でなく客車だ。
荷物狙いの野盗に襲われる貨物車はもうこりごり。
普段は混雑している客車だけど、今日は俺とミリモしか乗っていない。
御者がため息をはく。
「最近は野盗が出るようになったので、お客さんが減ってね……」
ネバタリア周辺の治安が悪いのが知れ渡ったせいで乗客が激減してるらしい。
貸し切り気分で乗る方としては快適だ。
「二人だけの馬車旅だな」
「はい! お父さんと二人だけで旅が出来て嬉しいです」
ミリモは満面の笑みを浮かべ俺の腕をぎゅっと抱きしめて来た。
かわいい、かわいい。
ミリモは上目遣いで俺を見つめる。
「今夜はお父さんと二人だけの夜ですね。その時、お話があるんですが、いいですか?」
お話?
なんだろう?
*
そして夜。
キャンプ場も空いていて、俺たちと御者さんのテントだけだ。
夜のキャンプ場は静まりかえって虫の音しか聞こえない。
ベッドに腰かけたミリモが聞いてきた。
「あのー」
「昼間の話か? なんでもいいぞ」
「お父さんは、私のことが好きですか?」
「もちろん好きだよ」
おまけにかわいい。
「やった!」
ミリモは俺に抱き着いてくる。
かわいい、かわいい。
おまけに、けっこう嬉しい。
「どのぐらい私のことが好きですか?」
「どのくらいって言われても……」
「私はお父さんと結婚したいぐらい好きです」
「俺も、俺も」
小さい子どもの見る世界なんて狭いので、異性なんて父親しか知らない子どもがほとんどだ。
だから、お父さんと結婚するという娘は多いらしい。
ミリモの「結婚したい」もきっとそれ。
大きくなるにつれて段々と父親の悪いところが見えてきて嫌悪感を抱く。
そして最後には「お父さんの靴下やパンツは汚物なんだから一緒に洗わないでよ!」とまで言われる。
先輩冒険者からそんな話を聞いたことがある。
お年頃になったら、お父さんのことを忘れてチャラ男を連れてくるんだろうけど、その時はお父さん、マジ泣きするからな!
「ありがとうお父さん」
ミリモは改まった顔をして聞いてきた。
「ミリモと結婚してください」
「いいよー」
「うれしい」
ミリモの目から嬉し涙が流れた。
今、パパは最高に幸せです。
今だけでもこのパパにラブラブな気持ちを味合わせてください。
これがやがて偽りの言葉となるとわかっていても。
今だけ幸せならばそれでいいんです。
成人するまでミリモのこの気持ちが続いたなら本当に結婚しちゃうからな!
「ミリモが成人したら、結婚しようか?」
「そんなに待たないといけないの?」
嬉しいこと言ってくれるね。
お父さん、幸せ過ぎてキュン死しそうだよ。
「じゃあ、冒険者ランクがCになったら、ミリモと結婚するぞー」
「やったー!」
冗談めかして言ったつもりだったんだけど……。
それが後にとんでもないことが起きるなんて……。
ミリモが本気で俺と結婚したいと思ってるなんて、思いもしなかった。
*
翌朝。
ミリモは今までに見たことのないぐらい上機嫌だ。
「さっ、お父さん。早く帰って冒険者ギルドで依頼を受けようね」
昨日のこともあってか、やる気満々みたい。
馬車がセンタリアのすぐ近くまでやって来た時に事件が起こった。
「野盗です!」
野盗が出たのだ。
その人数は四人。
リーダーらしい奴が腹の底から響く声をだす。
「ガハハハ! 逃げるならさっさと逃げな。生かして逃がすつもりはないがな」
好戦的な野盗だ。
多分冒険者崩れかなんかだろう。
人数は少ないんだけど、こちら側に戦える者は誰もいない。
「まさか、また野盗が出るとはな」
メリッサさんを置いて帰って来た事を激しく後悔した。
「お父さん、どうする?」
どうすると言われても……。
逃げるしかないよな。
でも、ここは平原にある開けた街道。
煙幕を使って逃げるには見通しが良すぎる。
おまけに緩やかだけど風が流れているし。
煙幕は使えない。
樽バクダンを作るには油が無い。
この前使って補充を忘れていた。
完全に詰んだ。
もう俺おしまい。
生まれ変わったら、またミリモと出会える人生でありますように。
――ぎゅいいぃぃん!
そんなことを考えたら轟音と砂嵐を巻き上げて何かがやって来た。
なにが来たんだ?
この緊迫した状態の時に。
どうやら楽には死なせてもらえないらしい。
俺はトコトンついていない運を呪った。
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