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初心者冒険者の野営訓練

 翌朝、ナデシコは朝ご飯を頬張りながら熱く語り始める。


「わらひの、ばくらんは、」

「行儀悪いから、ちゃんと口の中の物を食べてから話すんだぞ」


 もぐもぐ、ごくん。


「これは失礼しました。私の作ったバクダンは完成度がまだまだということがわかりました」


 ナデシコはダメだと言ってるけど、あのバクダンの破壊力はすごかった。

 普通バクダンというと、小型なものは煙を出して相手を驚かせて転ばすぐらいの威力しかない。

 でも、ナデシコの異世界の技術で作ったバクダンは大型の樽バクダン並みの威力があった。

 あれだけでも十分すごかった。

 でも、デスティーションという大火力魔法を普段から使っていたナデシコはあの火力では納得して無いんだろう。


「一番の問題は信管につなぐ紐ですね。紐の届く範囲にしか使えません」


 まあ、大ミミズに関してはあの紐に助けられたんだけどな。

 あれが無ければミミズのいる場所とは全く違う明後日の方向にバクダンが飛んで行ってしまったはずだ。

 まあ、それを口にすると俺の投てき能力を問われるのが目に見えているので黙っておこう。


「私の理想として目指す爆弾はファンタジーなバクダン。例えるなら、遊白の暗黒武闘会編に登場した髑髏ドクロ兄弟の下っ端が使っていたようなカラス型バクダンのようなもの。自らの意思で敵に向かって行って爆破するような高性能バクダンなのです」


 ヒートアップしたのか、いつの間にか椅子の上に立って演説をしていたナデシコ。

 相変わらずなにを言ってるかわからない所があったけど、気にしない。


「ということで、しばらくの間バクダンの改良に取り込むことにします」


 ナデシコは2~3日バクダンの改良に取り組むとのこと。

 泊まり込みで頑張るらしい。

 朝ご飯を食べ終えるとすぐに、どこかへと出掛けてしまった。

 ナデシコが居なくなったのでミリモが寂しそうにしてるかと思ったが、そうでもなかった。

 俺に聞こえるか聞こえないぐらいの声で独り言を話すナデシコ。


「久しぶりにお父さんと二人だけで過ごせるのです。うれしいのです。もっと仲良くなれるようにがんばるのです」

「ん? なにをがんばるんだ?」

「いえいえ、なんでもないです」


 慌てふためいで手をブンブン振りごまかすミリモ。


「久しぶりにお父さんと二人だけですね。えへへ」

「昔を思い出すな」

「はい」


 昔とはいってもナデシコの来る数日前の話である。

 昨日は街に戻ってくるのが遅かったから、冒険者ギルドに依頼の完了報告をするのを忘れてたな。

 今日の朝一番の仕事は冒険者ギルドへの報告だ。


「よし、朝食も食べたし、冒険者ギルドに報告に行くぞ!」

「はい!」


 ミリモは俺の腕を取ると顔をもたれかけて来た。

 これって、恋人みたいな抱きつき方だな。

 俺のことをそこまで好いてくれてるのか?

 ちょっとうれしい。

 ミリモは男の喜ばせ方を本能でわかっているようだ。

 きっといいお嫁さんになれるだろう。

 でもな。

 何度も言ってしつこいけど、ミリモは嫁になんてやらんから。

 ミリモは一生俺の娘。

 誰にもやらんし、やるつもりもない。


 娘にベタ惚れされてるお父さん。

 あまりにも激しいミリモの好き好きアピール。

 通りをすれ違う人々の冷やかしの視線がこれでもかとこちらに向かって来くる。

 けっこう恥ずかしい。


 *


 冒険者ギルドで依頼の達成報告を済ます。

 窓口の担当はいつものメリッサさんだ。


「大ミミズ討伐依頼の完了を確認しました」


 報酬を受け取るが結構少な目。

 宿代換算で三人分三日ぐらいだ。

 難易度の低い依頼だったのでこんなものだろう。

 ミミズを倒すよりも地面に空いた大穴を埋める方が大変だった気がする。

 お金が足りなくなったら、薬草採りでもしないとダメだな。

 なんてことを考えていたら、ナデシコがいないことに気が付いたメリッサさんが聞いてきた。


「ナデシコさんの姿が見当たらないんですが、どうされました?」

「なんか、バクダンを作るとかいって泊まり込みをするとのことで、二~三日行動を別に取ることにしたんですよ」

「あら、そうなんですか……」


 心配そうな言葉とは裏腹に、メリッサさんの表情が突然明るくなった。


(こ、これはポータさんを落とす最後のチャンスかもしれない!)


 なにかを思い出したメリッサさん。

 カウンターの机の引き出しを漁って何かを取り出した。


「ところで、ミリモちゃんはまだ初心者講習を受けてないですよね?」

「初心者講習ですか? 受けてないですけど……」

「初心者は必ず参加しないといけない講習です。一泊二日の泊まり込みの講習なんですが、明日参加してもらえませんか?」

「明日じゃないとダメなんですか?」

「ダメです」


 ミリモが困ったような顔をして俺を見つめて来た。

 初心者講習なんて初めて聞くな。

 俺はそんなものに参加した覚えはない。

 メリッサさんは笑顔でパンフレットをミリモに押し付けた。


 メリッサは企んでいた。

 口うるさいナデシコはいない。

 あとは、いつもポータさんにベッタリのミリモちゃんを講習でどこかに追いやってしまえば、ポータさんと二人っきりになれる。

 食事に誘っていい雰囲気になれたら、人生最大のチャンスがやって来る!

 男と女の付き合いで、あんなことやこんなことが出来る!

 ポータさんに私の初めてを捧げて、手垢を付けられる。

 ポータさんの初めても頂いて、官能の世界に!

 うへ、うへへへ!

 おっと。

 声が出るとこだった。


 俺はミリモが講習を嫌がっているようなので、理由を聞いてみることにした。


「ミリモ、講習を受けたくないのか?」

「明日だけは、お父さんと離れたくないです」

「なんでなのよ?」


 俺が聞く前に、メリッサさんが問いただした。


「どうしても明日だけは嫌なんです……」


 消え入るような小さな声で続けた。


「せっかく、お父さんと二人だけで一日いられる日なので……」

「じゃあ、冒険者の資格は剥奪ですね」

「えっ?」

「はく奪とは、そりゃ厳しいな」

「冒険者は厳しい稼業なのです」


 強引にメリッサさんに押し切られた。

 講習の内容をパンフレットで見てみると、講習自体は簡単なものだ。

 荷馬車の護衛。

 護衛はあくまでも訓練のおまけであって、目的は野営の仕方の学習。

 熟練冒険者が一人指導につき、野営の訓練をするそうだ。

 俺が冒険者になった頃はこんな講習なんて無かったんだけどな。

 最近ギルドのルールが変わったのかもしれない。

 参加しないと冒険者の資格をはく奪されるので、ミリモは泣く泣く講習会の参加申し込みを済ませた。


 *


 ポータたちの帰った冒険者ギルド。

 メリッサは一人、カウンターに突っ伏して明日の夜の妄想をしていた。


「うへ、えへへ、ポータさん、胸板がたくましい……」

「しゅごいです! は、初めてなのに激しすぎます! 壊れちゃいます!」


 帰り支度をしていた周りの職員たちは、エロい妄想をしてよだれを垂れ流すメリッサを見てドン引きだ。


「明日からポータさんと二人っきり。必ず落としてみせますわ」


 そんな決意をしていたんだけど……。


「ちょっとメリッサ君、来てくれるか?」


 ギルド長に呼ばれた。


「キミが提出したこの初心者講習なんだけど、本当に明日やる必要があるのかね?」

「あります!」

「でも、初心者講習なんて二〇年ぐらい前に無駄といわれて、それ以来実施されてないんだが? 野営訓練なんて、現地で簡単に先輩冒険者から教えて貰える程度の内容だろ?」

「ギルド長! 先輩冒険者のいない新人冒険者は誰から教えて貰えばいいんですか?」


 ものすごい勢いでギルド長に食いかかるメリッサ。

 ギルド長もタジタジだ。


「一日でも早く講習を開かないと、初心者冒険者の生存率に関わります」

「ま、まあ、そういうこともあるな」

「これは冒険者を始めるにあたって必要な講習なのです」

「うむ、わかった」


 ギルド長が納得してくれたので一安心するメリッサ。

 これでミリモは出掛け、ポータと二人の夜を過ごせる。

 そう笑みを浮かべるメリッサであったが……。


「この明日の講習の講師、元冒険者であるメリッサ君に任せるから」

「え? ええーっ?」

「あまりにも急な事だったので、講師役の熟練冒険者を用意できなかったんだよ」

「でも、明日じゃないとダメなんですか?」

「ダメじゃな。明日にやらないといけない理由はキミが説明したじゃないか」

「そ、そんなー」


 ポータとの熱い夜を過ごすはずだったのが、ミリモと同行することになりガックリと肩を落とすメリッサであった。


 *


 一方、夕食を終えた宿屋の部屋。

 そろそろ就寝の時間だ。

 今日は小銭稼ぎで薬草取りで草原や森を走り回ったので疲れた。

 まあ、ミリモと色々話せたのは楽しかったけどな。

 ナデシコは爆弾を作る為に泊まり込みらしい。

 部屋にいるのは俺とミリモだけだ。

 ベッドで添い寝をしていたが、ミリモは寂しさで張り裂けそうな顔をしていた。


「お父さんと別れたくないです」

「俺もミリモと別れたくないけど、仕事だから仕方ないだろ?」

「でも……」


 ミリモは俺にヒシっと抱き着いてきた。

 まるで別れを惜しむ恋人同士。

 俺はここまで好かれていたのか。

 ならば、ミリモを安心させてやるしかない!


「俺に任せろ! 俺を信じろ!」

「お父さんを?」

「おう! 悪いようにはしない!」

「ありがとう、お父さん!」


 ミリモは俺にぎゅっと抱き着く。

 安心したのか、すぐにすやすやと寝息を立て始めた。


 *


 翌朝。

 馬車の発着場。

 そこには教官としてのメリッサさんと、生徒のミリモ、そして俺がいた。

 

「ポータさん、なんでここに? 保護者の同伴は禁止ですよ?」


 と、いいつつもちょっと嬉しそうなメリッサ。

 ミリモはメリッサんに俺を引き離されまいと、俺の腕を必死に抱きしめている。


「俺の天職は商人なので、商材の仕入れに行きます。今日の俺は保護者ではなく、あくまでも乗客です。メリッサさんこそ、なんでここに?」

「今回の初心者講習の講師をすることになりました」

「なるほどです」


 メリッサさんが来ていて驚いたけど、そういうことなら納得だ。

 これが切っ掛けでメリッサさんと仲良くなれたらいいが……まあ、貴族と結婚狙いのメリッサさんと仲良くなるのは無理だな。


「ミリモ共々、よろしくお願いします」

「こちらこそ!(神様ありがとう!)」


 メリッサは、ポータと同行できることになって運命の女神に感謝をささげた。

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