とびっきりの夕飯
ご飯を食べたさに大穴を埋めるという重労働を成し遂げたナデシコ。
初依頼の完遂の打ち上げで、お腹が張り裂けるほどご飯を食べるつもりだったけど、店が既に閉まっていた。
ナデシコは店の前の大通りに泣き崩れてへたり込んだ。
「ああーん! 鉱山まで二往復もして、おまけに穴埋めも頑張ったのに、なんでご飯抜きなの? お昼もあんまり食べてないから空腹で餓死する!」
いやいやいや、ちょっと待て。
お前、昼は腹が張り裂けそうなぐらい串焼きを食っていたのを忘れたのか?
あれだけ食えば二~三日はご飯食べなくても何の問題も無いだろう。
どんだけ燃費の悪い胃袋してるんだよ!
ミリモだって食事抜きでも騒いで無いんだから、少しは静かにしろ。
「お父さん、お腹空きました……」
あ、ミリモも空いてたか。
今日は結構歩いたし頑張ったもんな。
なんとかしないとな。
娘にはやたら甘い俺。
「宿に帰ったら、ママリアさんに頼んでなんか作って貰うから」
「やった!」
「ありがとう、お父さん」
宿屋に戻って来た俺たち。
「この子たちに何か食い物を作ってやってくれないか?」
でも、返って来た返事は非常に残念なものだった。
「ごめんさね。あんたたち、今日は帰ってこないと思ったから、食材を全部調理して客に出したさね」
「えー、なんですって! 今夜一晩、飢えたまま過ごせというんですか?」
「ううう、ごはん」
二人は怒ったり泣いたりで大変である。
そんなナデシコとミリモをママリアさんは優しい笑顔でなぐさめる。
「スープとパンが少しだけ残ってるから今夜はこれで勘弁しておくれさね。明日の朝一番に食材が届いたら必ずご飯を作るから、これで我慢して欲しいさね」
「朝までご飯抜きなんですか? はーぁ……」
さっきまで怒ってたナデシコは肩をガックリ落とした。
ミリモもおなかが空いて泣き出す一歩手前。
「ううう、ごはん食べたい」
完全に葬式ムードである。
でも、食材が無いなら仕方ない。
たまには空腹を味わって食べ物に感謝する日も必要だ。
いや、待てよ?
その時、俺の頭の中に何かがよぎった。
俺はアイテムボックスの中を漁ってみる。
すると……俺は肉の塊を見つけた。
「これはなんの肉ですか?」
「なんか見たことのない肉です」
俺は誇らしげに、この肉の正体を明かす。
「これはドラゴン肉だ」
「ドラゴンの肉ですと?」
「高級食材さね!」
ママリアさんも驚いていた。
「こんなすごい食材、見るのは生まれて二度目さね!」
この肉は、以前勇者パーティーに所属していた時に手に入れたものだ。
手に入れたのは数年前だけど、時間経過のないアイテムボックスの中なので腐ってないはず。
薬品の材料として使えるんじゃないかと取っておいた物。
でも、低級や中級の調薬ばかりしていた俺はドラゴン肉みたいな高級素材を使うまで調薬スキルが上がらなかったので、使えずにそのままになっていた。
勇者パーティーを追い出されたことだし、食っちゃっても構わないよな。
俺はママリアさんにお願いをする。
「キッチンを貸してください」
「あいよ!」
俺は早速調理を始める。
不思議そうな顔をするナデシコ。
「ポータは料理なんて出来たんですか?」
「おうよ!」
「さすがお父さんです」
上目づかいでキラキラとした瞳で褒めたたえるミリモ。
娘にそんな目で見つめられるとちょっと照れる。
「こう見えても俺は、勇者パーティーで調理担当だったんだぞ」
「お父さん、すごーい!」
それを聞いて納得するナデシコ。
「ははーん」と口から言葉が漏れた。
「どうりで……。ポーターの実力で勇者パーティーに入れたのはおかしいと思ってたんですよ。調理人としてパーティーに参加してたんですね」
一人でうなずきまくるナデシコ。
違うから!
思いっきり勘違いしてるし!
俺は専属料理人じゃないから!
「ちゃ、ちゃんと戦闘でも役に立っていたし!」
「あの戦闘力で?」
「そうだよ! 料理や荷物持ちだけのメンバーじゃない!」
「荷物持ち兼調理人だったんですね」
「ち、ちげーから! 戦闘でもちゃんと役に立ってたし!」
「ドリルラビットや大ミミズに苦戦するぐらいの戦闘力なのに?」
「うぐぐ」
賢いナデシコにこれ以上弁解すると、突っ込まれまくってメンタル崩壊で再起不能になりそうなのでなにも言い返せない。
俺は理解ある仲間に助けられて初めて実力を発揮するタイプ。
理解ある仲間がいなければ、素人同然だ。
プレーンラビットどころかミジンコレベルの戦闘力である。
でもさ、俺のことを責めるけど、そういうナデシコはどうなんだよ?
俺に変わらぬぐらいの役立たずじゃないか。
「お前こそデスティーションしか使えない役立たずだろ?」
「それを言わないでくださいよ」
指の先っぽ同士をツンツン突いてもにもにするナデシコ。
「私だって、本当にパーティーで役に立っていたかと言われると、そうでもなかったんじゃないかと最近気が付いて悩んでいるんですから」
完全にいじけてしまった。
ちょっと言い過ぎたかな?
俺の一言で嫌な雰囲気になってしまった。
そんな嫌な雰囲気を察したミリモが、空気を入れ替えてくれた。
「お父さん、ドラゴン肉でなにを作ってくれるんですか?」
空気を読めるミリモ。
かしこい、かしこい。
「料理か。今夜はドラゴンステーキを作ろうと思ってる」
「ステーキですか。お父さんの料理が楽しみです」
「質のいい肉はステーキが基本さね」
「ステーキとは素材と調理人の腕だけで作る料理! ポータの腕を測るにはちょうどいい料理です」
自分じゃ料理が出来ないのにやたら上から目線なナデシコ。
ぶれない奴である。
「おうよ! 俺に任せておけ!」
俺はステーキの下ごしらえを始める。
ステーキは軽く叩いた後に、果物の汁かワインに漬けておいて肉を柔らかくしてから焼くのが基本。
だが、今は肉を漬け込む時間なんてない。
おなかを空かしてピーチク泣いている小雀が目の前にいるんだしな。
そこで俺は勇者パーティーで時間の無い時に使っていた裏技を使う。
香辛料を振りかけた肉に向かって……。
ブスッ! ブスッ! ブスッ! ブスッ!
グサッ!
これでもかと、包丁の先で突き刺しまくった。
それを見ていたママリアさんが青ざめる。
「高級ドラゴン肉に、なんてことをしてるさね!」
「これはですね、肉の筋を切っているんです」
「でも、そんなに切ったらバラバラになるさね!」
「そこはかげんをしてやっているので安心してください」
俺がやっているのは肉の繊維切り。
焼くと縮んでしまう原因となる肉の繊維を細かく切り刻んでいる。
こうやって下ごしらえをすると、焼き縮みが無くなって柔らかく焼きあがるんだ。
俺が説明するとミリモが感心していた。
「さすがお父さん、料理の事も詳しいですね」
常に男を持ち上げるのを忘れないミリモ。
きっと、年頃になったら男を立てるいい女になるんだろうな。
変な男には絶対やらんから!
「伊達に何年も勇者パーティーの料理番をしていないぜ」
「やっぱり、勇者の専属料理人だったじゃないですか」
うごっ!
自ら地雷を踏んでしまった。
まあ、俺が勇者パーティーにいられたのも、今考えるとそれが大きかったよな。
否定はせずに、事実として受け入れるべきだろう。
肉の下ごしらえは終わった。
俺は熱したフライパンで肉を焼き始める。
ステーキの焼き方は二種類あるって知っているか?
一つは素材の味を最大限に生かした焼き方。
強火で表面を一気にこんがり焼いて、予熱で中まで火を通す方法。
表面がこんがりカリッと焼けて、中は生に近いジューシーさ。
通好みの仕上がりで、ワインとよく合う最高の仕上がりだ。
でも、俺はもう一つの焼き方をする。
万人受けする焼き方。
弱火で中まで火が通るようにじっくり焼く方法だ。
だって、二人はワインを飲めない歳だから。
じっくり焼いていると、待ちきれないのかミリモとナデシコがステーキを焼いているフライパンにびったりとまとわりつく。
ママリアさんは興味はステーキにあるものの恥ずかしいのか流石にそこまでは寄ってこない。
「いい匂いです」
「こんないい匂い、この世界に来てから初めてかも」
「おいしそうな匂いさね」
「さすがお父さん、料理の腕も凄いんですね」
じっくり一〇分ほどかけてステーキを五枚焼き上げた。
表面がカリッとして、中まで火が通ってジューシー。
完璧といっていい仕上がりで、久々の自信作だ。
俺はナデシコミリモとママリアさんにステーキを振舞う。
「おいしいです。おいしいのれす!」
「こんな美味しいステーキは初めてです! なんだかわからないけど、目から涙が出てきます!」
二人があまりにもがっつくのでお代わりを渡し、結局俺は一かけらも食べられなかった。
まあ、二人の親みたいなものだし、仕方ないね。
ものすごい勢いで食べる二人に反して、遠慮がちなママリアさん。
食べる前から手が完全に止まっている。
「こんな高級なドラゴン肉のステーキ、私なんかが食べちゃっていいんさね?」
「いつもお世話になっているので、遠慮なくどうぞ」
「ステーキなんて亡くなった旦那に五年前に食べさせて貰った以来だよ。じゃあ頂くよ」
ステーキを口にしたママリアさん。
喜ぶかと思ったら、一口食べた後に沈んだ顔をした。
「どうしたんですか? お口に合いませんでした?」
「いや、すごく美味しかったさね」
「じゃあ?」
「いや、なんでもないさね」
ママリアさんは気になる言葉を残したが、いつもの笑顔を浮かべるとステーキを食べきった。
このママリアさんの言葉が無かったら、俺は後の事件の真相に辿り着けなかった。




