無一文となってしまった元勇者パーティーのメンバー
勇者パーティーを解雇になった俺。
いきなり無職になってしまって途方に暮れる。
おまけに退職金も無しだ。
八年間も働いたのに、無一文で追い出すってひどくない?
有り金をかき集めて拠点となるセンタリアの街にはどうにか戻ってこれたけど、馬車代で懐はすっからかんだ。
このままでは今夜泊まる宿代も無い。
戦闘力のない商人である俺は冒険者を廃業し、商業ギルドに加入して、通商をするのが一番なんだろう。
早速商業ギルドに行ってみたけど、商業ギルドには入れなかった。
商業ギルドの加入費は荷物の保証金を含めて金貨一〇〇枚。
そんな大金の持ち合わせなぞあるわけがない。
というか、金貨一〇〇枚なんて今まで生きてきて見たこともない大金だ。
金貨一枚が一〇万ゴルダなので、金貨一〇〇枚は家一軒分の保証金。
今日の宿屋の宿泊代の銀貨二枚二〇〇〇ゴルダも持ち合わせてない俺には金貨一〇〇枚の用立てなんて夢のまた夢。
仕方がないので、すでにギルド証を持っている冒険者ギルドで採取依頼でもして今日の宿代を稼ぐことにした。
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薬草採取
薬草を納品する。ただし、採取当日の新鮮なものに限る。
上薬草x10
上毒消し草x10
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【調薬】スキルを持っている俺には使い道がすぐにわかった。
この材料から推測すると、この依頼は上級HPポーションの材料集めだな。
上薬草と上毒消し草はセンタリア周辺の森の中ではかなり稀にしか見つからない。
本来は馬車で揺られて遠くの街まで行かなければ手に入らない物だ。
だが、生えてないわけじゃない。
俺のスキルを駆使すればセンタリア周辺の森でも集められる。
辺りの状況を細かく調べられる【範囲哨戒】と、物を調べられる【鑑定】スキル、アイテムを収納できる【アイテムボックス】を持っている商人の俺にはうってつけの依頼だ。
依頼は午後から始めたけど、特にトラブルも無く夕方前には終わった。
やはり俺のスキルは薬草採取に向いている。
少し多めに薬草がとれたけど、全てをギルドに納品することはしない。
納品して素材が余ったら、HPポーションや毒消しを調合して薬屋で売った方が儲かるからな。
【調薬】スキルを持っている俺の小さなお金稼ぎだ。
こんな小さなことでも塵も積もれば大きな額になる。
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採取に夢中で、気が付くと森のかなり奥まで入ってしまったようだ。
ここら辺の敵ならば商人とはいえ勇者パーティーで八年も戦い続けた俺にとっては雑魚同然。
魔物が群で現れない限り、命の危険はないだろう。
街へ戻ろうと【範囲哨戒】使って街の方角を確認した。
その時、奇妙なものを見つけてしまった。
街道から少し入った広場で死にかけの人間が二人。
HPは今にも尽きそうだ。
二人の周りにモンスターはいない。
これはどういうことなんだろう?
モンスターに襲われたんではないとなると、野盗にでも襲われたんだろうか?
でも、街道沿いじゃなく、なぜに少し入った広場?
明らかに気になる点が多い。
これは罠なんだろうか?
この地点に向かったら【隠匿】スキルを使い身を隠していた野盗の集団に囲まれる。
そんな可能性が無くもない。
無視した方がいいのだろう。
だが、俺はあえて助けに向かうことにした。
理由は簡単だ。
二人の命が危ない。
それ以外に理由はない。
今助けに行かなければ手遅れになってしまう!
万一これが罠で、野盗が現れたら現れたで考えればいい。
勇者パーティーに八年も在籍していた俺だ。
きっとなんとかなる。
俺は急いで助けに向かった。
*
広場では食べかけの鍋とともに、ドワーフの男とフェラインの少女が倒れていた。
外傷はない。
顔を青くして口から泡を吹いていた。
鍋を【鑑定】すると毒キノコ入り。
食中毒だな。
俺は罠でないことがわかり、ほっと胸をなでおろす。
ドワーフが顔に似合わない、か細い声で助けを求めてきた。
「たすけてくれ……」
「いわれなくても助けるさ」
俺は手持ちの材料で上毒消しを作ると二人に飲ませる。
余計に薬草を集めておいてよかった。
するとすぐに血色が戻る。
さすがは俺の作った薬だ。
二人は心からの感謝をしてくれた。
「青年から毒消しを振舞ってもらって助かったぞ」
「まさか、鍋に入れたキノコが毒キノコだったとはにゃ」
「だから、その色のキノコはヤバいといったじゃろ!」
ドワーフのおっさんが抗議をするが、フェラインの少女は悪びれた様子もない。
まるでいつもの事みたいな感じだ。
「まあ、なにごともチャレンジしてみないとわからないにゃ」
「それで死にかけていたら、命がいくつあっても足りんわ!」
長い口髭を振り乱し、ぷりぷりと怒るドワーフのおっさん。
これが女の子だったら確実に萌えるシチュエーションである。
でもここにいるのはおっさん。
そんなのに萌えたら気持ち悪いだけである。
ドワーフの男が改まって俺に礼をいう。
「さてと……青年に助けてもらったお礼をしないといかんのう」
ドワーフの男は俺に向き直すと、鍛冶台をアイテムバッグから取り出す。
街中の鍛冶屋でも見かけることのない、かなり本格的な鍛冶台だ。
あっという間に片手剣を打ちあげる。
こんな手際のいい鍛冶師を見るのは初めてだ。
流石、鍛冶に秀でるドワーフだな。
「ほれ出来たぞ。助けてくれたお礼だ」
「くれるんですか?」
「ああ、一〇〇年ぶりに本気で打った剣だ。聖剣レベルの自信作だぞ」
一瞬で仕上げた剣だけど、手抜きの剣ではなく刀身が自ら淡く光り輝く逸品だ。
鞘に入れた状態でも、鞘との剣の継ぎ目から光が漏れる位の明るさだ。
多分魔力を宿す鋼を使っている。
おまけに剣の握りや鞘には赤や青の宝石が埋め込まれていて、これでもかと高級感を漂わせていた。
勇者であるバッダスが持っていた剣よりも間違いなく質がいい。
本気で打ったというのは嘘ではないみたいだ。
「冒険者をしておるんじゃろ? この剣はきっと役に立つはずさ」
フェラインの少女がからかう感じで俺に言う。
「でも、こんないい剣を持っていると、野盗に盗られて殺されるにゃ」
「こ、殺されるんです?」
「売れば一〇億ゴルダぐらいになるからにゃ」
「ええーっ! じゅ、一〇億ゴルダ?」
俺は驚きのあまり腰を抜かした。
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