剣術修行
ミリモと狩りをした。
依頼とは関係のない狩りだ。
目的は剣術の修行。
さすがに商人とは言えど、元勇者パーティーの所属メンバーだった俺がウサギや馬車を襲う程度の雑魚な野盗に負けるのは恥ずかしい。
前回は運よく野盗が間抜けだったので仕掛けた罠に掛かってくれたが、次も掛かってくれる保証はない。
せめて野盗のボスと一対一のガチバトルしても勝てるようにならないと!
今のままでは大切なミリモを守ることも出来ない。
と、いうことで俺は剣術の修行をするために、センタリアのすぐ隣の草原ではぐれゴブリンを狩ることにした。
はぐれゴブリンとは群れに属さないで一匹で行動するゴブリン。
普通のゴブリンよりも少しだけ強いが仲間を呼ばないので非常に狩りやすい敵だ。
駆け出しの冒険者の戦士なんかがソロで相手をする敵。
ホーンラビットよりもはるかに弱い。
俺ははぐれゴブリンに戦いを挑んだ。
結果から言おう。
はぐれゴブリンつえぇぇ!
攻撃が当たらないし、バシバシ攻撃を当ててくる。
とてもじゃないが勝てる相手じゃない。
「ミリモ! 逃げるぞ!」
「はい、お父さん!」
毎度の如く、煙幕を投げつけて逃げ出した。
*
俺たちはまたまたセンタリアの噴水横で反省会だ。
「死ぬかと思ったぜ!」
「ゴブリン強かったです! きっとゴブリン魔王なのです!」
ウサギ魔王に、ゴブリン魔王。
そんなに魔王がいたら、世界がめちゃくちゃだ。
「逃げ足はだいぶ上達しましたね。ゴブリン魔王でも逃げるのは余裕です」
逃げ足が速くなっても敵を倒せないんだけど……。
なんとかしないとな。
それにあいつは魔王でもなんでもない。
ただのゴブリンだ。
俺はミリモの誤解をとく。
「あれは、雑魚だ」
「ゴブリン魔王も雑魚なのですか? さすがお父さん!」
「いや、そういう意味じゃないんだ。あのゴブリンが雑魚なんだ」
「あの強さなのに、ですか?」
「鑑定をしたので間違いない」
明らかに失望の表情を浮かべるミリモ。
俺が弱いということに薄々気が付き始めているようだ。
「せめて、私が戦えれば良かったんですけど……」
いじらしい表情を見せるミリモ。
なにこの可愛い娘は?
誰の娘だよ?
って、俺の娘なんだけどな。
わかってて言いました。
それにしても……かわいい。
ぎゅっと抱きしめたい。
「気持ちは嬉しいけど、ミリモはまだ成人の儀を受けてない子どもだろ?」
「子どもだからこそ、お父さんの役に立ちたいんです」
「その気持ちは嬉しいけど、成人の儀を受けないと正式なジョブに就くことが出来ないんだ」
異世界からやって来た勇者は別として、この世界じゃ成人の儀を受けるまでは皆無職であり子供だ。
女神さまの祝福を受けて初めて職業に就ける。
それまではスキルが無いから、どう頑張っても戦いをするのは厳しい。
俺たちだけで狩りが出来ないことはわかっている。
ここはなんとしてでも、どこかのパーティーに入るしかない。
ということで、メリッサさんに相談しに来た。
「どこかに俺たちを入れてくれるパーティーがありませんか? 荷物持ちでも肩もみでも何でもしますから!」
戦闘で役立つスキルが無いからと言って、肩もみをすると言ってしまうなんとなさけない勇者パーティーの元メンバーだろうか。
でも、ミリモのレベル上げの為なら世間体とかプライドなんて気にしてられない。
メリッサさんは困り果てた表情を浮かべる。
「このセンタリア周辺は比較的穏やかな地域ですので、荷物持ちが必要になるような本格的な迷宮探索をしているパーティーは居ません。なので荷物持ちの募集は無いと思います」
まあ、そうだよな。
俺が勇者パーティーに入っていた時も、センタリアにはあまり戻って来なかったし。
知ってた。
「そうですか」
やはり迷宮都市へ行かないと、仕事はないのかな?
でも、そこまでの旅路で野盗や魔物に襲われミリモにもしものことがあったら……。
考えるだけでも恐ろしい。
肩をガックリと落として冒険者ギルドを後にしようとしたところ、メリッサさんが俺を引き留めた。
「でも、パーティーを探している人ならいます! 雇ってみませんか?」
「俺が雇うんですか?」
「ええ!」
俺に紹介するような冒険者だ。
きっと、どこのパーティーでも断られたポンコツだろう。
でも、街のすぐ外にいるゴブリンやウサギにも負ける俺たちを超えるポンコツなんて居るのか?
いや、いるまい!
俺はそう断言する。
「紹介を受けてみませんか?」
「ちなみに、どんな人なんでしょう? やはり初心者ですか?」
「勇者パーティーに所属していた元メンバーですよ。それもSランクの」
なんと!
そんな人がパーティーを探してるのか!
Sランクパーティーの元メンバーだ。
きっと筋肉隆々で、クエイクを超えるマッチョだろう。
ウサギ魔王だろうがゴブリン魔王だろうが一撃で木っ端みじんだ!
勇者パーティーの元メンバーと聞いてミリモの瞳が輝いた。
「お父さん、すごいですよ! 勇者パーティーのメンバーらしいですよ。ウサギ魔王もイチコロです!」
まあ、俺も勇者パーティーの元メンバーだったんだけどね。
ゴブリンすらも倒せないけど。
でも、なんか引っかかるな。
引く手数多のはずの勇者パーティーの元メンバーが職を探している?
しかも、パーティーのランクや規模を不問で?
きっと俺と同じ臭いを持つ奴だ。
なにか原因があるはずだ。
異常に喧嘩っ早くて、勇者パーティーを追放されたのかもしれない。
怒らせたらきっと怖い奴だ。
きっと元リーダーは今頃病院の集中治療室で虫の息なんだろう。
俺の頭の中で、『ワーニング』やら『パターン青』やらの警告音がこれでもかと鳴り響いている。
これは関わってはダメな奴だ。
俺が断ろうとすると、メリッサさんがグイっと顔を近づけて逃げ道を断つ。
強引に押し切ろうとしているのがみえみえだ。
「一度会ってみませんか? 決めるのはそれからでも遅くありませんよ」
メリッサさんの吐息が掛かる程の距離で目を潤ませながらそう言われると、俺も断るに断れない。
結局、強引に押し切られちゃいました。
そしてやって来た新たなパーティーメンバー。
こう言ったら怒られるかもしれないけど、現れたのは意外とまともそうな人だった。
片手剣を帯刀しマントを羽織った少女。
きっと剣士だ。
髪が真っ黒なのに透き通るような肌の色をしている。
見た目はかなり真面目そう。
顔の作りを見た感じ、どこかの遠い国の人間のようだ。
少女はマントを翻し名乗りを上げる!
「私の名はナデシコ! 魔道を生業とする者なり!」
剣使いで魔道をたしなむとは。
俺の剣士の見立ては間違えていた。
魔法剣士か。
でも、これはいい。
魔法剣士ならば前衛として十分やって行けるはずだ。
回復役の俺と前衛のパートナーなら間違いなく相性がいい。
Sランクの勇者パーティーの元メンバーと聞いていたので、どんな猛者がやって来るのかと戦々恐々としていたけど、女の子なら怯えることも緊張することも無い。
あとは、賃金交渉だけだな。
きっと安くはないんだろうな。
限りなく無一文に近い俺にはたぶん払えない。
はぁー。
「報酬ですか?」
少女は言いにくそうにして、メリッサさんをチラチラと何度も見る。
俺には高額な報酬を払えないのがわかっているみたいだ。
メリッサさんが少女に代わって「後は私に任せて下さい」と言わんばかりに答えた。
「それなら、ご安心ください。費用は冒険者ギルドで負担するので無料です」
「なんと!」
「この前の事件のお詫びです」
事件とは野盗に襲われた時の事だろう。
これは決めるしかない!
もちろん、答えは決まっている。
「よろしくお願いします!」
新たな仲間の魔剣士ナデシコが増えた。
これで俺のパーティーに弱点はもう存在しない。
俺とミリモの目の前には輝かしい未来が待っている。
そう期待に胸を膨らませる俺たちであった。
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