決意
俺はママリアさんに付き合ってもらってやけ酒を飲んでいた。
「うっく、うっく」
「大の男がなに泣いてるんだよ」
「だって、だって、女将さん……」
「アドバイスは何も出来ないと思うけど、話してすっきりするさね」
「う、うん」
「で、どうしたんだい?」
「俺、八年間も勇者パーティーで働いてたのに、街の外にいるホーンラビットよりも弱わかったんだよ」
「そのウサギが強かっただけなんじゃないのかい?」
「いや、ただのホーンラビットだった」
「そうかい、そうかい」
「俺、冒険者を辞めたい」
「辞めるのは勝手だけど、何のために冒険者をやってるか思い出すさね」
「勇者パーティーを追い出されて、食べるために仕方なく……」
その言葉を聞いたママリアさん。
今まで怒った顔を見せたことがないのに、語気を強めて目を吊り上げた。
「違うだろ! ミリモちゃんを娘にするためだったんじゃないのかい?」
そうだ、そうだった!
俺は大切なことを忘れるとこだった!
ミリモを二等市民にして俺の娘にする為だ。
ホーンラビットに負けたショックで、大切なことを忘れるところだった。
俺は一瞬で酔いから醒めた。
「歯を食いしばってでも、ミリモちゃんを幸せにするさね」
「ああ、もちろんだ!」
俺は決意を新たにした。
*
決意を新たにしたものの、俺が弱いのは変わらない。
ミリモも子供なので当然弱い。
根本的な解決には何もなっていない。
ちなみに、ミリモはあの後ウサギを倒して晴れてFランク冒険者となれた。
俺は冒険者ギルド受付のメリッサさんに相談する。
「ミリモをCランク冒険者にしたいんですが、なにかいい方法はないでしょうか?」
「そうですね……。その戦闘力だと、どこかの冒険者パーティーに入れてもらうしか無いんじゃないでしょうか?」
パーティー募集の貼紙を見て応募してみるものの、皆断られた。
「うちは回復役の僧侶が欲しいんだ。商人は募集していない」
「アイテムボックスで大量の薬品を持ち運べますので、僧侶の代わりぐらいにはなります」
「薬品で回復をするとして、その薬品代はどうするんだい?」
「…………」
「商人と言うが、冒険者としてはどれぐらいの腕前なんだい? 最低限一人でワーウルフぐらいは倒せないとパーティーには入れられないな」
「街の外を歩いているホーンラビットに負けるぐらいでして……戦闘の方はちょっと」
「それじゃ話にならないね」
「…………」
「子どもが付いてくるの? おまけに商人? 冗談は止めてくれよ。こっちはガチで死闘繰り返してるのに、お前ら冒険者をなめ過ぎじゃね?」
「…………」
誰もまともに取り合ってもらえなかった。
ガックリと肩を落とす俺とミリモ。
「ふー……」
「みんなに断られちゃいましたね」
「ごめんな。俺が商人だから皆に断られてしまった」
「いえ、お父さんのせいじゃありません。私が子どもで初心者だから断られてしまったんです」
なんて健気な子なんだろう。
なんとしてもこの子を守ってやると誓ったのに。
俺がこんなことで挫けてどうする!
俺がなんとかしないと!
「二人だけでやろうか」
「はい!」
俺と二人で依頼をこなせると聞いたミリモ。
何故か嬉しそうに見えた。
「俺に出来るのは薬草集めだけだけどいいか?」
「お父さんと一緒に依頼が出来るのなら、薬草集めでも、ドラゴン退治でも、デーモン退治でもなんでもいいですよ」
「ドラゴンて……」
ホーンラビットに負けたのを見ていても、俺に対する期待感が半端ないミリモであった。
*
今回受けた依頼は上級麻痺煙幕の材料のマヒカリスの納品依頼。
さすがにこの材料はセンタリアの街の近くでは採れない。
俺も勇者パーティーに所属していた時はよく使っていた定番の補助薬だが、結局素材が買えなくて店で買っていたぐらいだ。
一番近い採取場所は街から二時間ほど離れた農村の近くの森。
生息数は少ないので探すのは大変だが【鑑定】スキルを持っている俺には問題ないはず。
俺たちは定期便の五台の馬車隊の荷物に紛れての移動となった。
ミリモは馬車の隅で胡坐をかく俺の膝の間に収まって嬉しそうにしている。
「ふふふーん。お父さんと旅行なのです」
かなり機嫌のよさそうなミリモ。
こんな窓もない馬車で楽しいのかな?
ここまで喜ばれるなら、いつかはちゃんとした馬車での旅行に出たいものだ。
なんてことを考えていたら、両側が切り立った崖の間の細い道を通った時に事件が起こった。
急に馬車が止まる。
崖の上から馬車の進路を塞ぐように木の柱が落とされる。
先頭の馬車の御者の焦った声が鳴り響く。
「野盗が! 襲ってきたぞ!」
相手は一〇人程。
王都周辺の街道なのでまさか野盗が出るとは思っていなかったので、こちらは護衛は付いていない。
戦っても勝ち目は無いだろう。
護衛が居ないのを確認すると、野盗たちは警戒をやめ馬車を取り囲む。
勇者パーティーにいた頃は、身の程知らずのこんな奴らが襲って来てもバッダスやクエイクが剣の一振りで薙ぎ払っていた。
だが、今の俺は勇者パーティーに所属をしていない、ただの商人。
歯向かえば一瞬で倒されてしまうだろう。
そこに大剣を担いで悠々とやって来る野盗。
どうやらボスらしい。
ボスは三〇代後半ぐらいの筋肉質な男。
正面から戦っても勝ち目は無さそうだ。
「おめーら、なにぼさっとしている? とっとと皆殺しだ!」
「へい!」
ミリモが心配そうな声をあげる。
「お父さん、どうなっちゃうの?」
やばい!
やばいぞ!
どうやら誰一人として逃がす気は無いようだ。
ここは俺の力だけでなんとかしないと。
あるのは聖剣とアイテムボックスに収納されたアイテム、そしてこの崖の間の狭い通路という地形だけ。
これでなんとか戦わないと。
聖剣は俺が離れれば爆発するが、それは盗人を一人を倒すぐらい。
一〇人の野盗に対しては明らかに火力不足だ。
そこで聖剣に仕掛けをほどこす。
準備はどうにかなった。
「ミリモ、いいかい? 俺がいいって言うまで絶対に馬車から出たらダメだぞ」
「はい!」
「それと、この布を口に当てておくんだ」
俺は煙幕を投げまくる。
通常の視界を見えなくする煙幕と、吸うと痺れる痺れ煙幕だ。
上ランクの物なので、ホーンラビットと戦った時の物とは吹き出す勢いが違う。
崖に挟まれた街道を、一瞬で煙で覆いつくした。
痺れ煙幕は本来は魔物用だけど、人間にも多少効果がある。
混乱させて足を止める位の効果はあるだろう。
予想通り、野盗が混乱を始めた。
「なんだ、この煙は!」
「な、なにが起こっている?」
「爆発でも起こったのか?」
「なんか、身体が……」
辺りを煙が覆ったことで御者たちは逃げ出す。
「よし、ミリモ、俺たちも逃げるぞ」
「はい」
俺たちもその場を逃げだした。
野盗のボスは混乱している下っ端を殴りまくって正気に戻す。
「なにお前ら、遊んでるんだ! 追手が来る前に馬車を森の中に運ぶぞ!」
「へい!」
馬車を出そうとしたところ、下っ端から報告がされる。
「親分、ちょっと来てください。とんでもないお宝です!」
「宝だと?」
「はい、多分聖剣です」
「なんだと! どこだ?」
「一番後ろの馬車です」
「どれ見せてみろ」
最後尾の馬車、つまり俺の乗っていた馬車に乗り込む野盗の親分。
薄暗い馬車の中で光る剣を見つけ、満面の笑みだ。
「でかした! これは間違いなく聖剣だ!」
「やはり聖剣ですか!」
「ついに俺たちにも運がまわって来たな! 売り払えば一生遊んで暮らせるぞ!」
野盗の下っ端たちから歓声があがった。
「ただ、ちょっとおかしなことがあって……」
液体の入った樽の中に、聖剣が入れられていた。
聖剣を手にする野党のリーダー。
だが、液体が手に滴って来ておまけに臭い。
「なんだこりゃ? 食用油じゃねーか? しかも煮立ってて煙迄出てるし」
「剣を油に漬けてあるなんて初めて見るんですが、錆防止なんですかね?」
「まあ、それだけ錆びやすい繊細な剣なんだろう」
そういって鞘に戻そうとした時……。
――ちゅどーん!
――ポータの聖剣の攻撃。大爆発!
――野盗リーダーは聖剣に倒された。
――野盗の下っ端も爆発に巻き込まれて倒された。
遠くで上がる、黒煙。
俺の仕掛けた罠が発動したようだ。
詳しく説明すると、神様より怖いヒナちゃんに怒られるので省略する。
そして目の前の地面に突き刺さる剣。
俺たちが馬車に戻ってみると……。
野盗たち全員がぷすぷすと煙を上げて延びていた。
「お父さんすごいです! 野盗を全員退治しちゃいました!」
「ど、どうだい? 俺もやれば出来るんだ」
俺に抱きついて胸に顔を埋てくるミリモ。
「お父さん、すごいです! カッコいいです!」
俺を必要とする人が目の前にいる。
心に満たされる充足感。
俺が求めていたものはこれなんだ!
俺はミリモを守る為に生まれて来たんだ!
俺はそっとミリモの頭を抱えた。
ストック切れたので、これからは数日に一度の更新となります。
極力早めに続きが読めるよう、頑張ります。
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