俺が勇者パーティーを追放されるに至った理由
最弱商人が主人公のコメディです。
お楽しみください。
俺は夕食のまかないを作っている。
今日の料理はプレーンラビットのステーキだ。
ハーブとコショウで下味を付け、たっぷりのニンニク油で焼いている。
ついさっきまで愛用の両手斧の手入れしていた戦士のクエイクが様子を見に来た。
「今日は肉料理か。久々のごちそうで楽しみだな」
クエイクはそういって顔を綻ばせるが、つい最近嫁さんを貰ったばかりで毎日愛妻料理を食べているはずだ。
しかも嫁さんは一〇歳も年が離れていて、犯罪行為スレスレである。
「お前は街に戻れば毎日嫁さんにおいしい料理を作って貰ってるんじゃないのか?」
「俺の嫁は……いま妊娠中だろ。料理なんて全く作ってくれないよ」
クエイクはパーティーの魔法剣士をしていたミルクちゃんと三ヶ月前に結婚した。
ただいま妊娠七ヶ月。
つまり出来ちゃった婚てやつだ。
既にミルクちゃんは冒険者を廃業、絶賛出産準備中。
お腹の中の赤ちゃんは順調に育っているみたい。
ロリ系巨乳の完璧なスタイルだったミルクちゃん。
この前見た時は、ビールっ腹をしたおっさんみたいにお腹を大きく膨れさせていた。
本当にお腹の中に新たな生命が宿ってるんだなと、生命の神秘に感動したものさ。
クエイクは俺に苦笑いをする。
「ミルクは冒険者としてはかなり有能だったけど、実は家事全般さっぱりなんだよ」
ふう、とため息をつくクエイク。
知ってた。
このパーティーで一回だけ料理を作って貰ったことがあったけど、何とも形容しがたい黒い物体ダークマターが振舞われた。
リーダーのバッダスがそれ以降ミルクに一切料理に関わらせなかったことで、彼女の料理の腕を察してくれ。
俺が設営した小屋で、汗をかいた下着を取り換えたリンダも戻って来た。
「いい匂いがしているわね」
「あと少しで出来るから、席で待っていて」
「ポータがいると、こんなダンジョンの奥底でもおいしい料理を食べられるから本当に助かるわ」
リンダはダンジョンの広間に置かれたテーブルに座り、料理が出来上がるのを待っている。
もちろん、このテーブルや椅子は俺が持ち込んだものだ。
それ以外に、かまどや鍋、調理器具、薪、食材、調味料、パン。
小屋やベッドも含めて、全て俺が持ち込んだのだ。
なんでこんなにも大量の物資を運搬出来るかと、不思議に思わないか?
実は俺、【アイテムボックス】スキル持ちの商人。
しかも馬車三台分ぐらいの大容量の物資を運べる高ランクスキル持ちなんだ。
どうだい?
勇者パーティに所属しているだけあって凄いだろう。
まあ、商人と言いつつ商売なんてしたことがないけどな。
実質運び屋かもしれない。
安全確保ののために辺りを巡回をしていた、リーダーのバッダスが戻って来た。
バッダスが俺の調理を見て顔をしかめる。
「おいおい、こんなに煙を出していたら敵を呼び寄せて、俺の巡回が無意味になるだろ」
「ごめん。もうすぐ出来るから」
するとリンダが俺を庇ってくれる。
まあ、今日の夕飯の献立のリクエストはリンダなんだけどな。
「この辺りじゃ私たちの相手になりそうな敵なんていないわよ」
「ちげーねぇ。ガハハハ!」
クエイクが地面が揺れると思う程の笑い声をあげる。
すると、バッダスが目を細め闇を見つめた。
地響きはクエイクの笑い声では無かった!
「ほら見たことか! 敵さんが来たぞ!」
「スチールリザードだな」
現れたのはスチールリザード五匹。
鋼のような強靭な鱗を持つ大トカゲだ。
生半可な攻撃は通じない。
肉食で、今まで数多くの冒険者を喰らっている。
つい先週も抗夫が一〇人ほど襲われた。
今回の指名依頼のターゲットだ。
そんな強敵であるはずのリザードに俺たちは全くの恐怖を感じない。
「雑魚ね」
「雑魚だな」
クエイクとリンダが声を合わせて言った。
バッダスは何も言わず疾風のような速さで敵の群れに飛び込み一閃!
注意を引きつける!
クエイクは斧を掲げてリザードに突進。
渾身の力で斧を振り下ろし、トカゲの頭を叩き割った!
そしてリンダは魔法詠唱の準備。
残りは四匹!
俺はアイテムボックスから痺れ薬を取り出し投げつけた!
吹き上がる煙幕。
煙はまるで蛇のようにとぐろを巻き、トカゲたちを喰らうように襲い痺れさせた。
これでもう動く敵は居ない。
泡を吹き転がっているトカゲにリンダが氷の範囲魔法でトドメを刺す。
我が物顔で冒険者を蹂躙していたスチールリザードは一瞬で俺たちに無力化された。
「勝ったな!」
俺がガッツポーズをとるが、他のメンバーたちは勝って当然といった顔をしていた。
さすがは勇者パーティー。
やがて、国を救う英雄となる者達だ。
俺はこのパーティーが上手く廻っている。
そう思っていた。
だが、リーダーであるバッダスはそうは思っていなかったようだ。
*
俺が村を出て冒険者を始めて八年目。
首都のセンタリアに拠点を移し、勇者パーティーで冒険者として働いている。
冒険者とはモンスターと命の駆け引きをする厳しい仕事だ。
戦闘でモンスターに蹂躙され恐怖に慄き引退する者。
負傷をし戦えなくなり廃業する者。
中には致命傷を負い命を落とした者もいる。
開業した冒険者のうち、半年後には四分の三が廃業して去るといわれる厳しい仕事である。
そんな中で、冒険者歴八年の俺は既にベテランと言ってもいいだろう。
しかも俺の天職は非戦闘職の商人である。
商人の俺が勇者パーティーで働いているなんておかしいと思うかい?
俺もおかしい思うぐらいだから、君らが不思議に思っても仕方のないことだ。
それには理由がある。
俺は商人と言っても、レアスキルの【アイテムボックス】持ちの商人だからなんだ。
しかもスキルランクがAなんだよ。
【アイテムボックス】のスキルランクAと言えば荷物の運び屋、いや大商会を開業できる程の実力なんだ。
荷物の運び屋として俺がいることで、冒険の難易度が大幅に下がる。
普通の商人の【アイテムボックス】は大きいと言ってもバケツ五杯ぐらい。
頑張れば両手で持てるぐらいの量しか運べず、正直居ても居なくてもあまり変わりない存在だ。
むしろ戦闘力の無い商人がパーティーに参加することで足手まといにしかならない。
それに対して、俺がアクセスできる【アイテムボックス】は馬車三台分の容量とかなり大きい。
バケツ五杯の何百倍も持ち運べる俺の倉庫。
まさに無限と言ってもいい容量だ。
補給路が断たれるダンジョンの攻略では潤沢な資材は圧倒的なアドバンテージになる。
運搬するアイテムの中には回復薬も当然入っているよ。
しかも大量にね。
その大量に持っている回復薬を使って僧侶代わりの回復役もこなせるんだ。
荷物も運べて回復役代わりにもなる。
すごいだろう?
こんなことは普通の商人や、僧侶や聖人や聖女には出来ないよ。
ダンジョン攻略で役に立つ商人。
それが俺だ。
そしてそれが、商人の俺が勇者パーティーで働いている理由なんだ。
俺が商人になった理由?
皆と同じさ。
一六歳となって迎えた成人の日。
田舎から首都センタリアの街へやってきて受けた成人の儀。
街の神官に天職を鑑定してもらった時に、レアスキルである【アイテムボックス】所持者であることが判明した。
しかも、さっき言ったようにスキルランクはA。
規格外に使える商人だ。
当然なんだけど、様々な団体からの求人が殺到した。
大手冒険者チーム、王国騎士団、魔導騎士団。
聞いたことのない団体からも勧誘が来たもんさ。
もう、もみくちゃにされて大変だったよ。
宿屋に綺麗な奴隷のお姉ちゃんを連れて来て、俺への誘惑という区画外風俗営業を始めた悪徳商人もいたぐらい。
そんな奴は衛兵に突き出してやったけどな。
しばらくたってその時のお姉ちゃんと出会ったら、悪徳商人が有罪になったおかげで無事に奴隷から解放されたって感謝された思い出。
そんな引く手数多の求人の中、勇者の従者になることを決めた。
当時、設立したばかりの勇者パーティー。
リーダーであり勇者であるバッダスの「魔獣を倒して世界に平和をもたらしたい」という熱い思いに感銘を受けたからだ。
俺は、荷物運び兼ポーションを使っての回復役として活躍。
数々のダンジョンを攻略し勇者装備を集め、あと少しで魔獣たちを束ねている魔獣王の攻略に乗り出すところまでやって来れた。
皆の頑張りのお陰さ。
でも魔獣討伐を目指す旅の途中、享楽の街ギャブルで三日の夜を過ごすと状況が変わった。
*
リーダーのバッダスが野太いながら冷たい言葉を言い放つ。
「ポータ! ちょっと来い!」
バッダスが俺を見つけると呼んだ。
「ポータ、今日からこのパーティーにお前の居場所はない。お前は勇者パーティーのメンバーとして失格だ!」
「えっ? それってどういうことなんだよ?」
「一言でいえばクビだ!」
手には紙を持っていて、雑に渡してくる。
見てみると王宮出張所の割り印付きの書類だ。
『勇者従者資格剥奪決定書』
この紙切れ一枚で俺は勇者の従者をクビになった。
バッダスが何を言っているのか、わけがわからない。
俺は回復役として十分頑張ってきた。
ポーションを使い、魔法の詠唱の必要な僧侶よりも素早く回復。
状態異常も薬を使い、悪影響が出る前に即治療。
ケガや状態異常を一瞬で回復出来るのが商人である俺の回復職としての特徴。
【アイテムボックス】スキルにより、ダンジョンの奥深くでもふんだんに薬品を使えるからなせる業だ。
魔法の詠唱に時間のかかる普通の僧侶よりもよっぽど役に立っていたはず。
それに僧侶には出来ない荷物持ちも頑張った。
回復でも、荷物運びでもミスをした覚えはない。
なのに、なぜにいきなりクビなんだ?
回復役の俺なしで、この先どうやって冒険を続ける気でいるんだ?
わけがわからない。
重戦士のクエイクもバッダスの言っていることが理解できないようだ。
「ポータはこんなにも頑張ってきたのに、どうしてクビなんだよ?」
魔法使いのリンダも抗議をする。
「ポータがいなくなったら回復はどうするのよ? 回復役無しでパーティーは成り立たないわ」
リンダのいうことは正しい。
回復役無しでモンスターに挑むのは蛮勇。
無駄死にするのと同意だ。
その心配を吹き飛ばすように笑うバッダス。
「大丈夫だ、ポータの代わりに新しい回復役を用意した」
バッダスに呼ばれて女の人がやってきた。
聖女だ。
バッダスに腕を絡ませる聖女。
「聖女のマミーラです。皆さんよろしくね」
張り裂けんばかりのムチムチした胸がバッダスの腕にこれでもかと押し付けられる。
ムチムチっぷりが半端ない!
まさに魔乳!
バッダスは裂けるんじゃないかと思う程、鼻の下を伸ばしやがった。
あー、これか。
理由はすぐに分かった。
バッダスは大の巨乳好き。
巨乳という悪魔に心を惑わされたんだ。
それを誤魔化すために屁理屈をこねる。
「薬品でしか回復出来ないお前は金が掛かりすぎる。依頼で稼いだ報酬のほとんどが薬品代で消えてしまうじゃないか!」
バッダスの言うことも一理ある。
俺が使う薬品代で、報酬の四~五割は消えている。
それがなかったら報酬は倍増だ。
俺は少しでもパーティの役に立つように、初級や中級の薬品は材料から自分で作るようにしていた。
でも、結局は足りない材料を買うことになり、全てがタダという訳にはいかない。
そのせいでバッダスの指摘通り、報酬の多くが薬品代で消えていた。
赤字ではないが、余裕は無い。
それがこのパーティーの台所事情だ。
僧侶を入れれば回復薬代は掛からない。
でも、魔力回復の薬品代が掛かるのを忘れてないか?
しかも魔力回復薬のマジックポーションは体力回復薬のポーションに比べ非常に高価。
そのことは完全に無視だ。
バッダスは自分の都合の良いことだけを主張し続ける。
「だから俺たちはいつまで経っても金が貯まらず、従者であるお前らの装備がろくに買えやしない。初心者用装備に毛が生えた物を騙し騙し修理してしのいでるのはお前のせいだ!」
バッダスに対し、リンダが怒りをぶつける。
「言い過ぎよ! ポータはなんにも悪くないわ!」
クエイクもツバキをまき散らす程の大声でそれに続いた。
「そうだ、ポータはちゃんと仕事をしている!」
それに対し、バッダスも負けずに反論だ!
「いや、ポータのせいだ! 金が無いから、こんな街で燻り続ける羽目になるんだ!」
それについては全員で総ツッコミ!
この街に居続けたのってバッダスの意思だろう!
「そんな理由でこの街にいたんじゃないよな?」
「この街に滞在し続けたのって、バッダスが決めたのよね?」
「そうだ! 冒険者ギルドでいい依頼票を見つけたのに、討伐に行かないと決めたのはバッダスだろ?」
「そうよ! 昨日もそのお姉さんと一日中酒場に入り浸って依頼に行かなかったじゃない!」
「俺が依頼票を持っていったらその女と飲み続けていて、気が向かないって無視したじゃないか」
それを聞いて激怒したバッダス。
「黙れ! ポータの代わりに聖女を入れることはもう決めたんだ! 嫌ならポータと一緒にこのパーティーを抜けてくれ」
バッダスは、俺だけじゃなくクエイクとリンダにも辞めろと言い放つ。
それを聞いたクエイクとリンダは青ざめた。
「抜けろって……俺たちは仲間だろ? 俺の家族を飢え死にさせる気か?」
「そうよ! ここで仕事がなくなったら私も困るわ!」
再び高笑いをするバッダス。
「結果がなかなか出なくて今にも勇者免許を取り上げられそうな二流勇者と言えど、勇者業登録されているのはこの俺だけだ。国からの補助金なしに今まで通りの生活レベルを維持できると思うなよ」
とっても悪そうな眼をするバッダス。
まずはクエイクにパワハラを始めた。
「クエイクの嫁は、そろそろ臨月だったよな? お腹の中の赤ちゃんがだいぶ大きくなってきたんじゃないか?」
「ああ、うん」
バッダスがなにを言い出すのか探るように聞いているクエイク。
表情に困惑がにじみ出ていた。
「こんな時期に無職にでもなったら、ショックで流産でもして大変なことになるぞ」
唇を噛みしめ、パワハラを耐えるクエイク。
クエイクに上から覆いかぶさる勢いでバッダスが言い放つと、クエイクはその重圧を必死に押し返す。
「ちょっと待ってくれ! たのむ! 解雇だけは止めてくれ!」
完全にマウントを取った状態のバッダス。
勝ちを決めたのにパワハラはなおも続く。
「俺は昔からお前の事が気に食わなかったんだよ」
いきなり、腹の中をぶちまけるバッダス。
よっぽど思うことがあったんだろう。
俺たちはなだめるように黙り続ける。
「なにが気にくわないかって、お前の嫁だ」
なにが気にくわないのかが、その言葉でわかった。
バッダスが目をつけていた、パーティーのアイドルのミルクちゃんをクエイクが寝取ったからだ。
「ロリ巨乳剣士のミルクちゃんを寝取りやがって! 勇者パーティーなんだから、普通はリーダーである俺が味見するまで手を出さないのが勇者業界の常識だろ?」
そんな常識初めて聞いたんだけど。
それに勇者業界ってのも初めて聞いたぞ。
「なんでリーダーである俺が手を出す前にお前が傷物にするんだよ!」
バッダスがわけの分からないことを烈火の勢いの如く語り始めた。
火に油を注がないように、クエイクが慎重に言葉を選ぶ。
「そう言われても……俺からは手を出してないし」
「じゃあ、なんで寝取ってるんだよ?」
「バッダスに媚薬を盛られたせいで発情して、ミルクから襲ってきたんだし……」
「ふん!」
寝取られの原因が自業自得と知ったバッダスは、ターゲットをクエイクからリンダへと変える。
バッダスは悪い目をしながらリンダを見つめる。
「リンダも、このパーティーに加入するために買ったその杖のローンをまだ払い終えてないんだろ?」
「そうよ! だから無職になるのは困るの!」
「困るだけならいいんだけどな」
「えっ?」
「その借金の保証人はだれだ?」
一瞬でリンダの顔が青ざめた。
「俺が保証人を降りてもいいんだぞ」
リンダに怯えた表情が浮かぶ。
「保証人がいなくなれば、当然ローン契約は破棄。全額一括返済をしないといけないな」
「じょ、冗談は止めて!」
完全にマウントを取ったバッダス。
そこでやめずに更に攻撃を続ける。
弱いものにはとことん強い。
容赦のない男である。
「新たな保証人を立てたとしても、突然仕事がなくなったら借金を払えなくなるんじゃないか?」
うつむくリンダの頬を指先でなでると再び悪い目をする。
「犯罪者奴隷になるしかないな。この顔なら性奴隷でも十分いけるだろうよ」
「なによ、それ! やめてよ!」
「それに俺はお前も気に食わない」
「なんでなのよ?」
「ミルクとクエイクがくっついたんだから、普通はパーティーのリーダーである俺とくっつくのが勇者業界の常識だろ?」
いや、そんな常識無いから。
でも、バッダスはそれが当たり前のように語り続ける。
「それなのに、なんで俺の誘いを無視するんだ? 俺のことがそんなにも嫌いなのか?」
「き、嫌いじゃないわ」
必死に訴えるリンダ。
でも、それは嘘だ。
俺はリンダから相談を受けたことがある。
バッダスの舐めるようにネットリと見つめてくる目が気持ち悪いと、相談を受けたことがあった。
リンダはバッダスに対する嫌悪感を隠し、必死に弁解する。
「あなたのことは好きよ」
バッダスはそれを聞き目を細めると冷たい視線になる。
その言葉が真実であるか試すかのようにリンダに告げる。
「ほう。本当に俺のことが好きなら、今すぐ結婚するか? 好きな相手と結婚出来て嬉しいだろう?」
「で、でも今はダメ!」
求婚を拒絶されたバッダス。
そりゃ、目つきが気持ち悪いと言ってる相手に恋愛感情が湧くわけもない。
拒否して当然だな。
バッダスもリンダの言葉が嘘と確信し、さらに冷たい視線に変わる。
このままでは解雇されてしまう!
リンダは怯えた表情をして、必死に弁解する。
「ミ、ミルクみたいに子供が出来てパーティーを抜けることになったら、は、働けなくなって、しゃ、借金を返せなくなるからよ」
「じゃあ、その借金を俺が肩代わりしたら結婚してくれるのか?」
「そ、それは……」
リンダは視線を大きく逸らし黙ってしまった。
「どうせ俺と付き合う気なんて無いのは最初から知ってるさ。お前はポータが気になってるみたいだしな」
そうだったの?
リンダが俺のことを気になってるなんて初耳なんだけど?
俺は長年仲間として一緒にいたリンダのことが好きだ。
出来ればお嫁さんにしたいぐらい。
でも借金苦に喘ぐリンダは、英雄となった功績で貴族や大金持ちと結婚し人生の一発逆転を夢見る少女だ。
「び、貧乏なポータが好きなわけがないじゃない!」
うぐっ!
即否定された!
さっきの気になってるって情報はなんだったの?
「あんなお子様は嫌いなのよ」
お子様って……。
恋愛対象以前の存在じゃないか。
完全否定だよ!
「ぐはぁ!」
心に重いボディーブローを喰らった俺。
思わず声が漏れてしまった。
好意を持ってる人に「好きじゃない」とここまでキッパリ否定されるのは結構きついものがある。
「私が好きなのは年上のお金持ちの人なの!」
そんなリンダを見て、バッダスはアイテムバッグから小さな魔道具を取り出した。
これは見たことがある。
声を録音をする魔道具だ。
魔音機。
大切な契約を結ぶときに証拠として使う魔道具だ。
「じゃあ、この魔道具の録音を聞いてみるか? ポータの名前を口にしながら、夜な夜な一人で喘いでいる声なんだが、今スイッチを入れるから聞いてみ――――」
「や、止めてよ!」
リンダは残像が残る程の速度でバッダスの手から魔道具を奪い取り、オークでも一撃で即死するんじゃないかって勢いで何度も踏みつぶしていた。
足元には粉々になった魔音機。
そしてリンダは肩で息をしていた。
バッダスは高らかに言い放つ!
「俺だってな、そろそろ彼女が欲しいんだよ! いいかげん童貞を卒業したいんだよ! 二八で童貞なんて笑えるだろ? 俺は彼女を持ちたいお年頃なんだよ!」
はあ?
なにいってるの?
さらに続けるバッダス。
「俺を好いてくれる聖女をパーティーに入れたっていいじゃないか!」
来たよ!
心の声が!
俺の薬品代とか、全然関係ないじゃん!
「俺の恋のライバルになる可能性のあるポータをパーティーから追い出すからといって何が悪い!」
本音ぶちまけだよ!
バッダスはキッパリと私欲、いや色欲で聖女をパーティーに入れると言い切った!
そして私情で俺をパーティーから追い出すとも言い切った!
清々しいぐらいに男らしく……心の声をさらけ出した!
目に涙を溜めてマジ泣きしてるよ!
ここまで心の声をさらけ出し男泣きをするバッダスを、男として責めることはできない。
男として許される欲望だ!
これは認めざるを得ない!
それに、ここでゴネ続けてクエイクとリンダの二人に迷惑をかけるわけにもいかない。
俺はバッダスの解雇通告を受け入れる。
バッダスは俺のポケットに何かをねじ込み俺だけに聞こえる小声で囁く。
「ポ-タ、おめーが使えないのは自分が一番わかってるんだろ? 駄々コネて俺の顔をつぶそうとせずにとっとと身を引いてくれ。餞別の王都までの今夜発の馬車のチケットだ。とっととこの街から消えやがれ」
俺がキョトンとしていると、今度は大声を張り上げた。
「今すぐ、なにも言わずに俺の前から消え去れ! あと金と装備と薬品……持っているものはすべて置いていけ!」
装備を剥ぎ取って追い出す俺に対して餞別?
意味がわからない。
こうして俺は勇者パーティーを追放されたのだった。
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