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拉致られたさくら

 ロベルトさんの屋敷を急襲したヒューマノイド アーシア。理由は分からないが、その事が示しているのは、ベルッチファミリーのボスがロベルトさんを切り捨てたと言う事だ。ロベルトさんはすでにその可能性を感じ取っていたらしく、対アーシアの策を用意していたらしい。

 その策を実行しようとするロベルトさんの後を追おうとした俺だったが、アーシアとソルジャーの戦いに巻き込まれ、意識を失ってしまった。


 そんな俺が意識を覚醒したのは、ロベルトさんの屋敷ではない見知らぬ部屋だった。

 金色に輝く十字架が掲げられた祭壇。外光を導く窓。ここはどこかの教会の聖堂らしい。そして、俺は生きていて、大きな怪我もなく、長椅子の上で寝ていた。


「おっ! どうやら、目覚めたらしい」


 体を起こした俺に気づいたそれは、レイさんの声だった。


「ここは?

 いや、その前にロベルトさんは?」


 レイさんは少し悲し気な顔で、首を横に振ってみせた。それだけで、答えは十分だ。


「ここはロレンツォ教会だ」


 そして、付け加えてくれたその言葉は、想定外だった。


「それ、まずいだろ」


 ロレンツォ教会とは、ただの教会じゃない。ロベルトさんを襲ったベルッチファミリーの屋敷と密かに抜け穴でつながるベルッチファミリーの緊急脱出用の建物だ。


「大丈夫です」


 新たな声がした。中年の神父の姿がそこにあった。


「あなたは?」

「彼はここの神父。正確にはこの建物の番人だ」


 レイさんが言った。


「だったら、この人はベルッチファミリー側の人間じゃないかっ!!」


 指さしながら、俺は言った。


「大丈夫だ。彼はロベルトさんに恩義があってな」

「私に任せてください。

 皆さんの事は、私が守ります」


 レイさんの言葉に、ここの番人の男が言った。


「そう言う事らしいよ」


 さくらの声だ。振り返るといつもどおりのにこやかな顔で、さくらが俺を見ていた。

 よかった。無事なさくらの姿に、俺は安堵した。


「ロベルトさんはアーシアには勝てなかったが、アーシア自身は葬った。

 だが、屋敷は燃え落ちたため、ここに身を隠していると言う訳だ」


 レイさんが説明を付け加えた。


「あの、ヒューマノイドを倒す方法って、知ってるのか?

 その方法は俺たちでも使えるのか?

 ロベルトさんの仇をうたなきゃ」

「無理だ」


 レイさんに向けた俺の質問に答えたのは、見知らぬ声だった。

 顔を向けた先には白髪で、もみあげから続くたっぷりとした顎髭と口ひげわたくわえた60くらいの男の姿があった。そいつは、「無理だ」と言った発音からも、ネイティブでない事は感じていたが、通っていない鼻筋、黄色人っぽい肌の色で異国人らしい。そして、教会には似つかわしくない濃いサングラスをしてはいたが、神父服を纏っており、教会の関係者らしかった。


「どうして無理なんです?」

「無理なものは無理なのよ」


 新たな声が俺のすぐ背後でした。

 突然、背後を取られた感に、少し驚きながら、振り向いた先にあった少女の姿は、あまりにも予想外だった。

 黒く肩までのストレートの髪に黒い瞳。だが、通った高い鼻筋だけは、どちらかと言うと西洋っぽい。さっきの言葉の発音と言い、日本人らしいのだが、その服装はなぜだか白のセーラー服なのだった。

 自分の目を疑いながら、その少女の姿を観察する。

 スカーフではなく、赤いリボンを盛り上げる胸の膨らみもそこそこあって、やはり女の子らしい。長めのプリーツスカートから覗く白くほっそりとした足。再び、視線を胸に戻し、その大きさを想像してみる。


「何見てるの?」


 再び、背後から女性の声がした。さくらの声だ。


「何って……」


 ついついさくらの胸と見比べてみた。小さめのさくら。そこそこのセーラー服少女。

 ちらり、ちらり見比べてしまった事をさくらに気づかれてしまったらしい。


「今、胸見てたよね?

 胸って、そんなに大事なの?」


 いや、そりゃあ大事だろ。とは思うが、そんな事は口に出して言えやしない。


「いや、そんな事はない、ない」

「知らないんだからっ!」


 俺の否定が口先だけだと敏感に感じ取ったのか、さくらは不機嫌そうな顔で、俺に背を向けて、すたすたとこの聖堂のドアに向かって歩き始めた。


「えぇーっと」

「追った方がいいんじゃないの」


 どうしたものか戸惑っている内に、セーラー服の少女が冷たい口調と冷たい視線で言った。


「だよね」


 一線を越えてはいない関係のさくら。ただの同級生なのか、恋人なのか、二人の関係もはっきりしていない事を思い出したが、追うと言うのは当然。そう結論を出した。

 俺が椅子から立ち上がり、視線をさくらに向けた時、さくらの後ろ姿は聖堂のドアの向こうに消えて行った。

 ドムッ。

 重い音と共に、ドアは閉じて、視界からさくらの姿を消し去った。


 走って追いかけると言う選択肢もない訳じゃないが、それはなんだかそれだけさくらの事を想っていると、セーラー服の少女に受け取られてしまいかねない。

 余裕もって、ゆっくりと歩いていく。

 たどり着いたさくらが出て行った大きな濃い茶色の木製のドア。金色のドアノブに手をかけて、ドアを押しける。さくらが閉じた時の音からも想像してはいたが、かなり重いドアだ。


 聖堂の先にはもう一つ狭い部屋があったが、もうそこにはさくらの姿は無かった。

 抜けて来たドアが再び重い音を立てて閉まったのを感じると、足早にその部屋の先のドアに向かった。 木でできた重いドアを押し開くと、そこはやはり見慣れたベルッチのボスの屋敷の前を走る通りだった。


 俺やさくらの姿をベルッチファミリーの者たちに見られるのはまずい。

 慌ててさくらの姿を探すと、少し離れた先に止めてある車の前で、さくらは怪しげな二人の男と何か話し合っていた。


「さくら」


 俺の声に振り返ったさくらだったが、すぐに視線を男たちに戻し、いくつか言葉を交わしたかと思っていると、一人の男は車の後部座席のドアを開け、もう一人はサクラの背中を押し、そのドアからさくらを車の後部座席に押し込んだ。


「助けて!」


 さくらはその言葉を残し、姿を車の中に消した。


「待て!

 何をしている」


 走って追いかけたが、男たちは素早く車内に姿を消すと、車を急発進させ、通りの彼方に消えて行った。

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