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セレン襲撃

 ベルッチファミリーの縄張りは、支配者を失ったエルカーンファミリーの縄張りだけでなく、カタラーニファミリーの縄張りとも接している。

 さくらが仕掛けた盗聴器で、コルレオーネに続く勢力を持つコッポラファミリーがベルッチファミリーへの制裁を保留するよう取りなした事を知ったベルッチのボスは、全面戦争への突入は時期尚早として、ガンビーナに対する通常の抗争だけに留めておくことにした。が、次男のチェーザレは、そのカタラーニに抗争を仕掛けたがっていた。

 そして、ついに決行。それを嗅ぎつけた俺は、さくらをロベルトさんの部屋に残して、一人チェーザレの車に乗り込み、引き返すよう説得していたのだが、それも虚しく、カタラーニファミリーの縄張りの中にある繁華街の片隅に車は到着してしまった。


 襲撃の目標は、繁華街のはずれのパブの中に設けられたカジノである。

 チェーザレは自分に従うヒューマノイド、セレンの力を自分の目で確かめたがっていて、今回の襲撃の一番の目的はそれであり、すでにそのカジノに従業員として送り込んでいた。


「坊や、残念だが、もう着いてしまったようだ」


 チェーザレは、車のドアを開け、にんまりと時間切れと言わんばかりの不敵な笑みを残して、車外に出て行った。

 その後を追うように、車を降りた俺の目に、マシンガンを構えた大勢のチェーザレ配下のソルジャーたちが何台もの車から降りていく姿が飛び込んできた。

 有無を言わさず、目標の店になだれ込んでいくソルジャーたちの後を追って、事の始終を見届けるため、俺も後に続いて、店の中に飛び込んだ。

 

 明りが煌々と部屋の中を照らし出す準備中だったと思われる店内中に、激しい銃撃音が響き渡る。

敵の襲撃であると察した男たちは一斉に迎撃するための態勢に入ったとは言え、先制攻撃をかけたチェーザレたちに一分の利があった。ドアの先に広がる部屋にいた男たちの多くは、最初の銃撃で多くが命を落としていた。


 そして、今、敵の反撃はこの部屋につながる細く、少し薄暗い廊下の先から行われていた。

 敵の弾幕が激しく、チェーザレのソルジャーたちもそこに飛び込むことはできないでいる。

 チェーザレがどんな作戦を立てているのかは知らないが、止む間もなく飛び交う銃弾から言って、まだヒューマノイドのセレンは参戦していないらしい。


 弾が当たらないよう柱の陰に身を隠している俺としては、銃撃が始まってしまった以上、さっさとセレンを出してこの戦いを終わらせて欲しいのが、本音だ。


「きゃあー」

「助けてぇ」


 銃撃を避け、どこかの物陰に身を隠しているこの部屋の中の女たちの悲鳴は、さらに激しくなってきている。


「お願いぃ。

 撃たないでぇぇ」


 女たちの悲鳴がおさまらぬ中、一人の女の絶叫が響くと、銃撃の音が静まり始めた。

 物陰から覗いてみると、一人の女が両手を上げて立っていた。

 その顔に見覚えがある。セレンだ。


「私たちを逃がして!」


 チェーザレ側の銃撃がおさまると、カタラーニ側の銃撃も止んだ。

 攻めて行かなければ、攻めてこない。どうやら、敵は俺達を排除する気はなさそうだ。

 つまり、敵は時間を稼いで援軍が来るのを待つと言うことだろう。

 有利な場所で守りに入った敵を殲滅するのは容易ではない。


 静けさを取り戻した部屋の中、セレンの罠とは知らない女たちが次々に物陰から、両手を上げて姿を現わした。怯えきったその表情に、哀れさを感じずにはいられない。


「分かった。

 行け!」


チェーザレのソルジャーの誰かが言った。


「ありがとうございます」


 セレンはそう言うと、両手を上げたまま廊下に向かい始めた。

 それに続く女たち。


「助けてください!」

「早く入って来い」


 セレンの言葉に、カタラーニ側の誰かが廊下の奥で言った。

 セレンを先頭に廊下の中に次々に女たちが消えて行ったかと思うと、女たちは男たちの醜い悲鳴を背に次々に逃げ出して来た。


「きゃぁぁぁぁ」


 半狂乱に近い姿から言って、あの奥ではセレンによるカタラーニのソルジャーたちへの虐殺が始まっているに違いない。

 そして、すぐにセレンは廊下の奥から姿を現わした。


「ミッション、コンプリート」


 あの奥に何人の敵が潜んでいたのか知らないが、アーシアの戦闘力と同じとすれば、一瞬の出来事で敵を殲滅したに違いない。が、そのセレンが無数の銃弾が飛び交う廊下には飛び込まなかった。

 つまり、あの戦闘力も無敵ではない?

 俺はふとそんな事を考えていた。




 カタラーニの援軍到着前にチェーザレの作戦は完了した。

 この事件に関し、ボスは不機嫌そうだったが、黙認する事にしたようだった。一方、言葉にはしなかったが、長男のサンドロは怒り気味のようだった。

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