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オッタビアの最期

 あすかとクラウディアの戦いが終わると、地下に明りが灯された。

 が、その戦場だったロレンツォ教会とベルッチの屋敷の地下をつなぐトンネル内は照明が消されたままだ。


「照明器具が壊れているのか?」


 そんな事をつぶやきながら、頭上を見渡して見たが、原因は分からない。


「それを取れ。

 行くぞ。決着をつけに」


 外した暗視スコープを床に投げ捨て、銃を握りしめたままレイさんがオッタビアがいる空間を目指して歩き始めた。


「はい」


 付けていた暗視スコープを同じく床に投げ捨て、レイさんの後をついて行く。

 俺達の背後であるセキュリティルームからこぼれる適度な灯り、トンネルの闇が強烈なコントラストとなり、俺達の様子がはっきりと分からないオッタビアはトンネルの中の様子をうかがう素振りを見せながらも、中に入ってこようとはしていない。


 一方、照明が灯された部屋にいるオッタビアの様子は、はっきりと視認できる。

 破壊されたクラウディアの残骸をズリズリと引き摺って、完全破壊を行うためヒューマノイド開発室跡に向かうあすかとすれ違った。


「あんたたちのおかげで助かったよ」


 暗闇でその表情は見えなかったが、にこりとしているんだろう。


 トンネルに差し込むオッタビアの部屋の明りが、トンネルの床にくっきりとした境界を描いている。そこに近づくにつれ、オッタビアは俺達の正体を知るに違いない。

 先手必勝。

 そう言うことだろう。レイさんが銃の引き鉄を引いた。

 二発。

 一発はオッタビアの右足に。きっと、ここから逃がさないためだろう。

 もう一発は右腕に。きっと、オッタビアが反撃できないようにするために。


「ぐぁぁっ」


 オッタビアが悲鳴を上げ、身を反転させ、階段を目指し始めた。

 逃がすまいとレイさんがオッタビアを捕まえるため、駈け出した。

 足を撃たれたオッタビアをレイさんが捕まえる事など、容易だった。


 腕を捩じ上げられ、その痛みと銃撃の痛みで顔を歪めるオッタビアの懐に手を入れ、懐に忍ばせていたピストルを俺はとると、床に投げ捨てた。


「お前たち!」

「お久しぶりですね。

 オッタビア」


 オッタビアの言葉に、そう返したのはレイさんだ。


「生きていたのか!」


 感情からなのか、苦痛からなのかは分からないが、オッタビアの口調が苦々し気だ。


「私もね」


 トンネルの中から声がした。原の声だ。

 トンネルから現れた原は、サングラスも髭も外していた。その容姿なら、数度しか会っていない俺だって、原だと分かったはずだ。


「お前は原。なぜ、生きている?」


 原が話を始めようとしたのをレイさんが遮った。


「私からしましょう。

 オッタビア、私はロベルトさんから、原さんを海の上で殺すよう指示を受けていた。

 が、あなた方がコッポラファミリーと手を組み、ロベルトさんを亡き者にしようとしているのをあのさくらと言う少女から聞いていたんだ。

 ロベルトさんはその話を信じ切ってはいなかった。

 だが、保険はかけた。

 それは、原を予定通りには殺さず、一日遅らせる事だ。

 そしたら、彼女の言葉通り、お前たちは原を殺したはずの日に俺達を襲って来た」

「その復讐だと言うのか?

 じゃあ、聞くが、お前たちのところにいるあすかとは何者だ?

 ヒューマノイドだろう?

 ロベルトが亡くなってから作ったにしては早すぎる。

 我々に隠して最初からもう一体作らせていたのではないのか?

 つまり、お前たちの方が最初に裏切っていた。

 違うか!」

「違いますよ。この話は私の方からしましょう」


 原が言った。


「私は最初のヒューマノイド、つまりアーシアには、ある機能を付けていたのですよ。

 それは起動したボスの記憶を消去し、私の指示に従うと言うものです」

「意味が分からない。

 私の質問はこのあすかを隠れて作ったんだろうと言う事だ」

「答えはこれからです。

 その機能を働かすための装置を私はこっそりと作っていました。あなたたちに見つからないようにね。

 ただ、これを働かせるには、アーシアに接近しなければならず、使う機会がないまま私たちは殺されることになった。

 しかし、私はロベルトがベルッチの裏切りを不安がっている事を感じとった。そこで、私はロベルトに賭けてみることにしたんです。そして、その装置を彼に渡した。

 アーシアがロベルトを襲ったその時、彼はその装置を起動した。ただ運悪く、彼は救われず、その装置も炎の中に消えた。だが、アーシアは私達の所に戻ってきた」

「つまり、あすかは元アーシアと言う事か?」


 オッタビアはようやく話しが呑み込めた時、俺も初めて真実を知った。

 あすかはやはりヒューマノイド。そこまでは予想の範囲内だったが、アーシアと同一だったとは知らなかったし、気づいてもいなかった。


「正確には、元はではなく、アーシアそのものです」

「ばかな。肌や、髪、瞳、全て黄色人種ではないか」

「あなたたちは戦闘能力ばかりに興味を示しましたが、このヒューマノイドには諜報用の機能として、瞳の状態を変えれる事ができますし、外装の色を微妙に変えられることは開発段階で説明しておりますよ。

私の隠し機能が起動すると、全て黄色人種になるようになっていたのです。すなわち、我々の側についているのかどうかの判断ができるよう、外見に細工するようにしていたのですよ。それと、以後基本的会話が日本語になり、私を父と思うようにもなっています」

「俺たちのヒューマノイドは全てアーシアに葬られたと言う事か」

「最後のクラウディアが倒れた事で、私の目的は達成された。これで、私が作ったヒューマノイドが人に危害を及ぼす事は無くなった」


 原の顔には安ど感が漂っていた。


「だが、私の目的は達成されていない」


 レイさんが言った。


「私はお前をやらなければロベルトさんの無念は晴らされない」


 そう言うと、レイさんは銃口をオッタビアに向け、引鉄を引いた。

 ベルッチファミリー壊滅を望むレイさんと俺。

 ヒューマノイド壊滅を目指す原。

 これで、全てが終わった。

 そう思った時、別の声が聞こえた。


「お疲れ様。

 とりあえず、コッポラとコルレオーネと言うこの国の二大勢力も葬ると言うおまけも付いた事だし、今回の事にこの国の政府も目を瞑ってくれるでしょうね。

 でも、まだ私たちの本当の目的は達せられていないのよね」


 マシンガンで武装した男たちを従えながら、階段をゆっくりと降りてくるさくらの姿がそこにはあった。


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