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クラウディアの最期

 クラウディアが降りていた階段も闇に包まれた。

 俺たちのいる空間と違い、そこには他に光源はなく、真の闇だ。

 照明が消えた時、その理由を探ろうとしているのか、頭上を見渡すような仕草を見せただけで、クラウディアはそのまま階段を降り続けている。

 やがて、クラウディアがトンネルの入り口付近に到達した頃、オッタビアも地下に続く階段に姿を現わした。

 クラウディアとは違い、生身の人間である彼は真の闇の中では、何ら視覚情報を得る事はできない。取り出したスマホのライトを使い、ゆっくりと階段を降り始めた。


 トンネルの一方の入り口には、あすかがいる。

 おそらくクラウディアは彼女の姿を認識しているに違いない。

 あすかがクラウディアを目指して駆け出した。クラウディアもあすかを敵と認識したらしく、同じくあすかに向かって駆けだし始めた。

 その速度は、今まで見て来たヒューマノイドのそれとは格段に違っていた。

 瞬間移動を思わせる今までの動きに対し、今のそれはスポーツ選手の数倍程度ではないだろうか。

 あすかが手にしていた銃のトリガを引いた。


 暗闇に煌く銃撃の火花。

 セキュリティルームに伝わって来るトンネルからの銃撃音の反響。


「クラウディアに銃弾なんて、効かないと思うんだけど、どこを狙っているんです?」

「目だよ」


 サングラスの神父がモニタを見ながら、答えた。

 何発もの銃撃が繰り返されたが、お互いの動きに変化がないまま、二人は激突した。


「クラウディアの速度が遅いとは言っても、やはりこの暗闇の中で目を狙うのは無理だったか」


 レイさんがつぶやいた時、クラウディアが銃を持つあすかの右手を右足で蹴り上げていた。

 蹴りあげた右足を着地させるとクラウディは体をひねり、後ろ向きに左足でバランスを崩しているあすの側頭部を蹴り飛ばした。

 あすかが闇の奥に吹き飛ばされ、床に倒れこんだ。


「あすかっ!」


 思わず俺は叫んだ。

 鋼鉄さえ捻じ曲げる破壊力を持つヒューマノイドである。

 今の一撃は致命傷に違いなく、そう叫ばずにいられなかった、

 が、俺の叫び声に反応したのは、クラウディアだった。

 まだ奥に人がいる。そう確信させてしまったらしい。

 クラウディアは俺達の側のトンネルの出口に向かって、歩き始めた。

 その次の瞬間、俺は信じられない光景を目にした。

 クラウディアから致命傷ともなる一撃を受けたと思われたあすかが、クラウディアの背後から襲い掛かっていた。

 今度は逆にあすかがクラウディアを梯子から蹴り飛ばすと、クラウディアがトンネルの壁に叩きつけられた。

 ほんのわずかだが、その衝撃が足元に伝わって来た気がする。

 重量のあるヒューマノイドがそれなりの速度で壁にぶつかったのだから、俺達の所にまでつたわるような振動が起きても不思議ではない。

 いや、そんな重量と頑丈なヒューマノイドを蹴り飛ばす事ができるあすかって……。


 クラウディアとあすかの力は拮抗しているのか、容易に決着はつきそうにない。

 すでにオッタビアがトンネルの入り口がある部屋まで降りてきている。


「このまま、俺達の運命をあすかに任せている訳にはいかない」


 俺はそう言うと、モニタの明りだけの薄暗い空間の中、ロッカーに向かった。

 そこには、万一に備えて置かれていた暗視スコープがある。

 俺は暗視スコープを取り出し、銃を手にした。


「待て、これは俺の戦いでもある」


 レイさんも暗視スコープを手にした。


「原さん」


 レイさんがサングラスの神父に呼びかけた。

 サングラスと髭で見事に変装していたが、この男は原だったんだ。

 としたら、ヒューマノイドの弱点を知り尽くしているはずだ。


「何をする気だ」


 原が俺たちに言った。


「今のあすかを見てください」


 俺がモニタを指さした。

 あすかとクラウディアは肉弾戦状態で、どちらがいつ勝つとも見えやしない。

 が、ポイントはあすかの手には銃器が無いと言う事だ。


「ヒューマノイドって、銃器を持っている者を先に倒すんだろ?」


 レイさんはそう言うと、振り返ってにこりと微笑んだ


「後は頼みますよ。必ずロベルトさんの仇を取ってください」


 レイさんがそう言い残してセキュリティルームを出るのに続いて、俺もセキュリティルームを出た。

 俺達があすかたちが戦っている空間に足を踏み入れた時、クラウディアがあすかを組み伏したところだった。

 レイさんがピストルを抜きながら、叫んだ。


「クラウディア!」


 俺たちに振り向いたクラウディアは、銃器を構える俺達を敵と認識した。それも、目の前のあすかよりも優先してたおさなければならない。

 クラウディアが俺たちの所に来ようと、あすかから離れた

 レイさんも俺も、クラウディア目がけて引き鉄を引き続ける。

 全ての処理能力が落ちているヒューマノイド。俺たちの銃弾はほぼ全弾命中しているはずだ。だが、そんなものはヒューマノイドの装甲の前には、無駄な抵抗でしかない。

 が、俺達が奴を直接倒す事が狙いではない。

 クラウディアは俺達を倒そうとしてきていて、背後はがら空きだ。

 しかも、暗闇の中で、銃弾をかわせないとは言え、全く無視している訳でもないらしく、向かって来る動きにはためらいがある。

 なにがしかのかわすための動きが混じっている風だ。

 そんなクラウディアに対し、その体自身が盾になっているため、銃弾をほとんど気にしていないあすかは素早い動きで、クラウディアの背後に迫って来ていた。

 右手を振り上げながら、左手でクラウディアの左腕を掴んだ。

 クラウディアが自分の腕を掴んだ者の姿を確かめようと、振り返り始めた時には、あすかは右手をクラウディアの顔面目掛けて、振り下ろしていた。

 突き出した人差し指。

 その人さし指の狙いは、クラウディアの右目だった。


「ぎゃぁっ!」


 きっと、それが人であったなら、そう叫んだであろう光景に、一瞬俺は顔をしかめた。

 クラウディアは痛みに顔を歪めるような事もなく、そのままあすかの右腕を両手で掴んだかと思うと、投げ飛ばした。

 鈍い振動が狭い空間に走った。

 軽い人間だったなら、もっと軽い衝撃だったはずだ。

 一度は消したあすかへの疑念は確信に変わった。あすかはヒューマノイド。


 クラウディアは再び倒すべき相手の優先順位を変えたらしく、俺達に背を向け、あすかに向かって行った。

 蹴りをくらわそうとしたクラウディアの足をあすかは掴み上げ、引き倒した。


「勝負あったな」


 まだ混戦状態にしか見えない俺には、レイさんの言葉の意味が分からず、レイさんに視線を向けた。


「クラウディアは片目を潰された。

 両眼でその距離を測れなくなり、狙いに誤差が生じる。

 もはや、クラウディアに勝ち目はない」

「だから、さっきもそんなような事を言ってたんですね」


 俺がそう言った時、クラウディアは残りの目も潰されていた。

 ヒューマノイドは両目を潰されると、大人しくなってしまうらしく、完全に動きを停止していた。

 そのヒューマノイドの腹部にあすかがレーザー銃を当てている。


「腹部には装甲がない。

 その分、そこには重要なデバイスは配置されていないんだが、ああやって腹部からレーザーを胸部内部に向けて照射する事で、ヒューマノイドを破壊する事ができるらしい」


 レイさんがそう言い終えた時、地下の照明が再び点けられた。

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