作戦失敗
コルレオーネファミリーが企てたクラウディアとオッタビア暗殺のわな。
計画通り、オッタビアを乗せた車は渋滞の列の中に閉じ込められ、身動きできない状態となった。
動かない渋滞に痺れを切らしたオッタビアが、渋滞の先の状態を調べさせるため、クラウディアを車から降ろした。
歩道上に見える何人かの中に、レーザー銃を装備したコルレオーネのソルジャーがいるはずだが、今のところ怪しげな動きを見せる人物の姿は無い。
車を降りたクラウディアも、俺と同じでその場から見える光景からは、特に何と言うものも見つからないためだろう、その先に向かって歩き始めた。
クラウディアの後を追おうかと思い、一歩を踏み出した時、俺達の車の前に割り込んだ車から一人の男が降りた。
その男の手には、あのレーザー銃が握られていた。
駆けだした男はオッタビアを乗せた車を通り過ごした。
どうやら最初のターゲットはオッタビアではなく、クラウディアらしい。
背後から駆け寄る男の気配に気づいたクラウディアが振り向いた。
異常な速度で動くことができるヒューマノイドである。銃器が自分に向けられたなら、即攻撃に移り、その相手を瞬殺するだろう。
だが、その男が手にしているのは、見慣れた銃器ではなかったため、クラウディアは反応が遅れた。
男がトリガーを引く方が早かった。
クラウディアの背中付近のドレスが焼け焦げた。
クラウディアが自分の背中の異変に気付き、背中をじっと見つめている。
燃え上がるドレス。
男は容赦なく、レーザーを浴びせ続けている。と言うか、すぐに倒れないクラウディアに男は焦っている感がある。
ここに至り、クラウディアも自分に攻撃が行われたと認識したらしい。一瞬にして、姿が消えたかと思うと、レーザーを向けていた男は地面に叩きつけられ、潰れた肉塊となっていた。
それを見下ろすクラウディアの表情は、相変わらず無表情で恐怖を感じてしまう。
自分たちの車から降り、クラウディアを襲った男が逆襲にあい、倒されたとなると、自分たちにも危害が及ぶと言う可能性を感じ取ったのか、俺達の前に停車していた車が片側一車線の道で転回を始めた。
「クラウディア。
やれ!」
オッタビアの声の声にクラウディアは頷くと、転回しようと切り返していた車の前に立ちふさがった。
「乗れ!」
今度の声はレイさんだった。
このままでは巻き添えにあう可能性があるだけじゃない。オッタビアに顔を見られてしまう。
慌てて乗り込むと、後続の車がいなかった事を幸いにバックで下がると、向きを変え、その場を離れ始めた。
リアウインドウ越しに見えたのは、コルレオーネのソルジャーたちを乗せた車が後退した後、勢いをつけてクラウディアにぶつかる瞬間だった。
普通なら、ぶつけられた人が吹き飛ばされるものだが、クラウディアでは勝手が違っていた。その車を両手で受け止めた。タイヤは空回りして、煙を発しているが、クラウディアはぴくりとも動いちゃいない。
結果は見る事はできなかったが、予想は容易にできた。
全員皆殺しだ。
「これはあの女の武器ではないのか?あの女はガンビーナと関係があったのか?」
カースピーカーから聞こえて来たのはオッタビアの声だ。
「周波数をレーザー銃に仕掛けた盗聴器に変えた」
レイさんが言った。
どうやら、男が持っていたレーザー銃をオッタビアが回収したらしい。
「ヒューマノイドの腕に仕込まれている物と同じようだが。
クラウディア、腕のレーザーを見せてくれ」
「はい」
しばらく沈黙が続いているのは、クラウディアが腕を外しているのだろう。
「やはり、同じものか。
すると、これはモニカの物か? セレン? いや、アーシアと言う事もありえるか。
いずれにしても、この武器がヒューマノイドから取り出されたとすると、このレーザー銃が少なくともまだ二本あり、それがおそらく敵対勢力の下にあると言う事か。
なんとかしなければならないな」
オッタビアは危機感を抱いたようだった。
そして、この作戦は失敗したが、当然、関わっていたのは俺達の前に回り込んだ車だけじゃない。渋滞の車列の中にも多くのコルレオーネの者たちがいて、作戦の失敗が伝えられた。
「レイ。クラウディア襲撃が失敗した事を知ったコルレオーネが、その原因と再びレーザー銃を手に入れようと、こちらに向かって来ている」
サングラスの神父から連絡が入った。
「分かった。
急いでそちらに向かう」
レイさんがアクセルを踏み込むと、俺達の車は一気に加速した。




