わな
コミッションの有力ファミリーであり、この国でコルレオーネに次ぐ勢力だったコッポラファミリーは、ベルッチとコルレオーネをぶつけてお互いの力を削ごうとしていた事がばれ、ベルッチファミリーの襲撃を受けた。
そこにあすかと俺も参戦し、コッポラファミリーのボスは俺がこの手で葬り、コッポラファミリーは事実上消滅した。
コミッションに生じた欠員を埋めるため、コルレオーネは、新たなファミリーとしてベルッチファミリーを選んだ。その動きはさくらが仕掛けまくった盗聴器や、コルレオーネに渡ったレーザー銃に仕掛けた盗聴器で、俺達には筒抜けになっていた。
実際の所、コルレオーネは、ここまで抗争を続けて来たベルッチをコミッションの一員にする気など無い。コミッションへの参加を餌にオッタビアをおびき出し、オッタビアのヒューマノイド クラウディアを葬る事を計画していたのだった。
「出たぞ」
コルレオーネがクラウディアを叩く日である今日、俺達はコルレオーネの動きを監視し続けていた。今、コルレオーネとのコミッションへの参加に関する話し合いのため、オッタビアはクラウディアを連れて、コルレオーネの支配域にあるホテルに向けて車で出た。
俺はレイさんと共に、オッタビアの動きを監視し、動きがあればあすかたちに伝える事になっている。そして、そのあすかとサングラスの神父は、ユリアーノファミリーのソルジャーたちとクラウディアのいないオッタビアの屋敷を急襲する作戦になっているのだ。
「やあ。よく来てくれたね」
カースピーカーから流れて来たのは、話し合いの場でオッタビアを待っていたコルレオーネのボスの声だ。
「いえ。こちらこそ」
二人とも口調はにこやかで、和やかムードだ。
「連れて来ていいのは一人だけと言ったが、えらく綺麗なお譲さんを連れて来られたもんだ」
この話し合いに連れて来ていいのは、護衛一人だけと言う事になっていた。クラウディアをおびき出すために、コルレオーネが考え出した条件だろう。それだけに、今のコルレオーネの言葉が嬉しそうに聞こえるのは、その策がうまくいったために違いない。
その場で交わされたのはコッポラファミリーが抜けたコミッションの一角に、ベルッチファミリーを据える事を、コルレオーネからコミッションに提案すると言うものだった。
また、コミッションの五大ファミリー間での戦争は禁止されており、この確認も行われた。ベルッチファミリーにとっては、勢力拡大の足かせにもなるものだったが、無敵と考えていたヒューマノイドが次々に葬られ、クラウディア一体となっている今の状況では、一旦戦争を終結させ、足元を固める絶好のチャンスと、オッタビアは考たに違いなかった。
その頃、オッタビアの屋敷は妨害電波で無線封鎖された上に、電話線も切断され、外部との連絡が付けられない状態の中、ユリアーノファミリーとあすかたちの襲撃を受けていた。あすかとサングラスの神父としては、ヒューマノイドではないベルッチのソルジャーたちを殲滅する事に意味を見出してはいないだろうが、クラウディアとの戦いの邪魔となるソルジャーたちの掃討と言う事で、参加してもらっている。
あすかが参戦している以上、結果は当然、大勝利となった。チェーザレに続き、この襲撃でサンドロもこの世から去った。
俺達の目標はオッタビアを残すのみ。そして、あすかたちの目標はクラウディアを残すのみだ。
「今日は有意義な話し合いでした」
「いやいや、こちらこそ」
自分の屋敷が急襲され、壊滅的な被害を受けた事を知らされていないオッタビアは、コルレオーネとの話し合いを終始和やかに進め、二人はつい先日まで抗争していた仲とは思えないほど、友好的な笑顔で締めくくった。
路肩に停車した車のフロントガラス越しに、ホテルから出てくるオッタビアの姿が見えた。寄り添うクラウディアはドレス姿であって、戦闘用ヒューマノイドと言う雰囲気ではない。
「では、ここで」
オッタビアがそう言うと、見送りに出ていたコルレオーネがオッタビアに手を差し出した。笑顔でかわされる握手。だが、二人の心の中は真逆のはず。特にコルレオーネは、オッタビアをこの帰路で襲う計画をたてているのだから。
オッタビアとクラウディアを乗せた車が静かに走り出した。レイさんがその車の後を追うため、車を発進させた。ホテルの前でまだ立っているコルレオーネの顔は、にんまりとしていた。
オッタビアを乗せた車はコルレオーネの支配地域を抜け、旧カタラーニの支配地域に入って行き、やがてその中でも一番の大通りに入った。
「パッシング?」
ハンドルを握るレイさんが言った。
振り返ると、リアウインドウ越しに、猛スピードで迫って来る車が見えた。
その車はそのまま対向車線にはみ出したかと思うと、俺達の車を一気に追い越し、俺達の前に割り込んだ。
「コルレオーネの奴、本気のようだな」
「今のはコルレオーネの?」
「おそらく。
それだけじゃない。
対向車が来ないだろ?
この先にわながあるに違いない」
そうレイさんは言い終えると、ブレーキを踏んだ。
さっき、俺達を抜き去った車が目の前で停車している。
「どうしたんです?」
「おそらく、車を止めさせて狙うんだろうな」
レイさんの言葉に、俺はドアを押し開くと、車を降りた。
歩道から、その先に視線を向ける。
赤いテールランプを光らせた車列はずっと先まで続いていて、動く気配など無い。
歩道には何人かの姿があるが、特に不自然な動きは見えない。
車が全く動く気配を見せない状況に、オッタビアの車のドアが開いた。
降りて来たのは、クラウディアだった。




