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制圧

 謎の男たちに占拠されたロレンツォ教会。

 人質にとられたさくら。

 そして、今、俺達はマシンガンを構えた男たちに包囲されている。

 いくら銃弾の雨を縫いながら、敵を殲滅する力を持つあすかと言えど、この状況では勝ち目はないはずだ。


「早く、そのヒューマノイドを渡してあげて」


 さくらの絶叫に答えたのは、サングラスの神父だった。


「断ると言ったら」


 サングラスの神父は、男たちの銃口を気にしていないかのように、ずいっと前に出た。


「まずはこいつを殺すまでだ」


 リーダーらしき男は、そう言いながら、さくらのこめかみに銃口を当てている右手に力を込めたらしく、さくらの首が押されてかなり傾いた。


「ほう。

 できるのかな?」


 挑発気味の男の言葉に、リーダーらしき男はその銃口をさくらから、サングラスの男に向けた。


「ほう。

 それもできるのかな?」


 これまた挑発気味だ。そんなサングラスの神父を守ろうと、あすかが駆け寄った。

 彼女が守ってくれると言う自信なんだろうか?


「あすか!」


 サングラスの神父が顔を振って、前に進めと言うような仕草をした。

 彼女はそれに頷くと、さらに前に進みはじめた。

 さくらの表情には焦りが見えている。きっと、あすかが歩みを止めない事で、自分の身に危害が及ぶことを恐れているに違いない。

 恐れていると言えば、この男たちの数もそうだ。

 あすかを恐れすぎているとしか言いようがない。

 そんな思いで、周囲を見渡した時、俺はある事に気づいた。

 その事に彼女も気づいているはずだ。

 としたら、俺は役立つ情報を持っている。


「あすか!」


 あすかは立ち止まり、振り返って俺を見た。

 あすかの所まで駆け寄ると、耳元で囁いた。


「祭壇の右側の燭台を倒すと、聖堂内は煙に満たされ、聖堂内の視界は奪われる」

「あんたいい事言うわね」


 

 あすかがにんまりとした表情で俺に言うと、さらに歩き始めた。


「止まってよ!」

「大丈夫だ。さくら」


 恐怖で絶叫するさくらを落ち着かせようと、俺は言った。


「あんたたち、囲みすぎでしょ?」


 あすかが付け加えた。そうなのだ。今の敵の布陣では、実際には同士討ちになって、銃撃ができないのだ。きっと、あすかの戦闘力に対する恐怖心が彼らに冷静な判断力を失わせたに違いない。


 あすかが駆け出した。

 リーダーらしき男はあすかの行動に恐怖したのか、銃撃を開始した。

 あすかの背後には俺やサングラスの神父がいる。

 少し狙いが狂えば、あすかに向けられたの銃弾は、俺達の所に飛んでくる。

 その事に気づいているのか、いつものようにかわさず、あすかは銃弾をすべて手で受け止めた。


「無駄なんだけど」


 そう言って、握りしめていた右の掌を開くと、受け止めた銃弾が床に落ちた。


「マジかよ」


 アニメかなにかでは見たことあるが、リアルな人間ができるなんて、信じられやしない。


「もう終わり?」


 そう言うと、あすかが一気に駆け出した。

 祭壇の右側まで一瞬の内にたどり着いたあすかが、燭台を倒すと、聖堂内は一気に煙に包まれた。


「なんだ?」

「どうした?」


 充満した煙に視界を奪われ、戸惑う男たち。

 そんな男たちの声はすぐに悲鳴に変わった。


「ぐぁっ」

「ぎゃあ」


 煙で視界を奪われた中、あすかが男たちを葬っているのだろう。

 移動しているあすかとは違い、男たちは壁に沿って立っていたのだ。

 視界が不十分でも狙おうと思えば、確かに狙えるのだ。

 仲間の悲鳴は恐怖を与える。そして、それは冷静な判断力を失わせる。

 突然、銃撃音が轟いた。


 ドバッ、バッ、バッ!


 同士討ちになってしまうと言う事より、恐怖からあすかを葬りたいと言う想いが勝ったらしい。男たちの誰かがマシンガン引き鉄を引いた。

 慌てて、俺は床に身を伏せた。

 一人の男の銃撃が、他の男の銃撃を誘発した。


 ドバッ、バッ、バッ!


 別の方向からも銃撃音が発せられた。

 もう後は雪崩のようだった。

 四方から発せられる銃撃音と、銃撃を受けたのかあすかにやられたのか分からないが、聖堂を揺るがすほどの男たちの悲鳴。

 やがて、男たちの悲鳴と銃撃音が止み、聖堂内に静けさが戻った。


 ギッ、ギッ、ギー。


 聖堂の扉の開く音がすると、煙が徐々に薄れていき、辺りの様子が明らかになって行った。

 壁に沿って俺たちを取り囲んでいた男たちの内、扉に近い側にいた男たちは、血の海に沈んでいた。

そして、扉を開いたのは、あすかだった。男たちはもうこの世にいないに違いない。

 彼女は無事だった。


「さくら、大丈夫か?」


 もう一人の気になるさくらの名を呼んだが、返事が無い。

 立ち上がると、まだ煙が流れ切っておらず、視界も確かでない中、祭壇に向かって走り始めた。


「さくら!」


 白い煙が遮る聖堂の中、あすかが扉を開けた事で視界を遮っていた煙りは吸い出されるように薄れていき、俺は視界にさくらを捉える事ができた。

 握りしめた両拳を口の辺りにあてがい、少し震え気味で、さくらは立っていた。


「よかった。無事で」


 そう言って、ついつい俺はさくらを抱きしめてしまった。

 小さく震えるからだ。

 きっと、それだけ怖かったに違いない。


「もう大丈夫だから」


 そう言いながら、さくらの頭を撫でた。

 とりあえず、さくらを人質にとり、ロレンツォ教会を占拠していた男たちを制圧した訳だ。


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