チェーザレの最期
コッポラの屋敷の間取り図。そこにヒューマノイドを倒せる場所があると言う。
地上三階、地下一階建ての建物。そこには大小さまざまな部屋がある。
大きな場所が戦いやすいのだろうか?
前回セレンと戦った場所は幹線道路であり、それなりに広かったはずだ。
それよりも広い部屋なんて、ここには無い。
逆で狭い部屋なのか?
確かにモニカと戦ったのは、狭い通路だったはず。
そんな思考を巡らせている内に、コッポラファミリーの屋敷が目に入る位置まで車は到着していた。
俺たちの車が停車した先には、監視カメラに映っていたベルッチのソルジャーたちを乗せた車列が停車している。
すでにベルッチのソルジャーたちはコッポラの屋敷内に侵入しているらしく、止む間の無い銃撃音と、怒声に悲鳴が聞こえてくる。
「まあ、待ってくれ」
ドアを開け、降りようとしていたあすかを引き留めたのはレイさんだった。
「どちらも消耗させたい」
「だったら、コッポラのボスが殺され、全てが終わった頃に行く?」
この屋敷の中に何人の人がいるのかは知らないが、それらの人々が皆殺しになるのを止めずにいると言うとんでもない提案を平然とあすかが言った。
「それは人としてどうかと思うぞ」
「だったら、やっぱり行くのは今でしょ!」
俺の言葉にあすかが即答した。あすかとしても、今すぐに行って、無毛な殺戮を最低限にとどめたいのだろう。
「いや、ここでマフィアの力は削いでおこう」
神父服だと言うのに、人が死ぬことを厭わぬ発言をサングラスの神父が言った。
「分かりました」
あすかは、この神父の指示には忠実だ。開けかけていた車のドアを閉じ、椅子にどっかりと座り込んだ。今しばらくは打って出ない。そんな事を態度で示している。
「あすか!」
車を開けたあすかをさっき引き留めたはずのサングラスの神父が、慌てた口調で言った。
あすかがマシンガンを手に、車の外に飛び出して行った。
「何があったんだ?」
俺の問いかけに、誰かが答える必要もなく、すぐに理由が分かった。
あすかは車を降りるや否や、マシンガンをぶっ放していた。
その先には、肉片と血しぶきをまき散らしながら、銃弾の雨の中、身をくねらせているベルッチのソルジャーらしき男たちの姿があった。
どうやら俺達の車の先で停車しているベルッチのソルジャーたちを乗せて来たと思われる車列には、人が残っていたらしく、さっき車から降りようとしたあすかの姿に気づき、俺達を襲おうとしてきていたのだろう。
「だとすると、あの車の中には、オッタビアか誰かがいるはずだ」
レイさんが言った。コッポラの屋敷に攻め込まなかったソルジャーたちの役目は、きっとベルッチファミリーの幹部の警護についている。そう読んだに違いない。
「あすか!
殺ってきてくれ」
レイさんが、ベルッチの車列を指さしながら言った。
ちらりとレイさんに視線を向けただけで、ゆっくりとあすかがベルッチの車列に近づいて行く。
あすかが向かう先の車列の最後尾に止まっていた車の後部座席のドアが開いたかと思うと、一人の男が飛び出して来た。あすかに戦いを挑む。そんな事が脳裏に浮かんだが、男の行動は全く違っていた。
運転席に移ろうとしているらしく、運転席のドアを開けた。
「チェーザレだ!」
その後ろ姿に、レイさんはそう言いながら、ドアを開けた。自分の手で殺りたいのだろう。が、そんな余裕をあすかは与えなかった。
あすかはいつの間にか持ち替えていたピストルで、チェーザレに向けて銃弾を放った。
彼女の攻撃は一発必中だ。
頭部からちを吹き出し、チェーザレは地面に転がり落ちた。
コッポラの屋敷の中で、セレンは暴れているはずだが、そのマスターは今、この世を去った。
「マスターを失ったセレンはどうなるんだ?」
「大丈夫だ。
セレンもここで終わりだ」
俺の問いに、あっさりとサングラスの神父が答えた。一対一、そしてヒューマノイドを倒せる場所と言う条件が揃えば、あすかならヒューマノイドを倒せる。そう自信をもっているらしい。
チェーザレを襲おうとしていたレイさんは、出る幕も無いまま運転席に腰を下ろした。
他の車には、誰も残っていないのか、あすかがベルッチの車列の横を進んで行く。
そんな彼女の姿をじっと見つめていたサングラスの神父は、あすかが車列を通り過ぎても、何も言わずにいた。彼女をこのままコッポラの屋敷の中に乗り込ませる気らしい。
「俺も」
あすかのヒューマノイドとの戦いを見たいと言う衝動を抑えきれず、マシンガンを手に車を飛び降りた。




