コッポラファミリー動く!
カタラーニの支配域に現れた二体のヒューマノイド。モニカを葬ったあすかも二体同時に戦う事はできず、逃げ戻って来た。
俺的には、あの恐るべき移動能力を持ったヒューマノイドから逃げ切るだけでも信じられない事だが、ともかくあすかは戻って来たのだ。
「ともかくだ。
二体のヒューマノイドを分散させる」
「ヒューマノイドをおびき出すには、小者ではだめだ。
高みの見物を決め込んでいるコッポラくらいを引きずり出さねばならんでしょうな」
サングラスの神父の言葉に、レイさんが言った。
「そうは言うけど、コッポラは裏でベルッチとつながっているんだから、そう簡単にはいかないでしょ」
俺が言った。
「だったら、これ使う?」
俺に駆け寄って来たさくらが差し出した右の掌には、ICレコーダーが握られていた。
「これは?」
「ベルッチたちを盗聴した音声をコピーしたの。
いずれはコッポラも跪かせるって言ってる会話とかあるんだけど」
「お前、盗聴だけでなく、音声の保存もしてたって事か?」
「聞いただけじゃあ、証拠にならないでしょ」
「って、何の証拠だよ」
「色んな事に使えるじゃない」
「って、お前、何者なんだよっ!」
ちょっと怒気を含んだ俺の言葉にさくらは少しにんまりとした。
どんな言葉が返って来るのか?
実はどこかの諜報機関の人間とか、そんな言葉が脳裏に過り、ごくりと唾をのみ込んだ。
「高校生に決まってるじゃないっ!」
腰に手を当て、胸を逸らしてのけ反り気味に、威張り口調で言った。
「なんだよ。それは」
「それより、これ、要るの?
要らないの?」
「それは私がかつての伝手を使って、コッポラに渡そう」
レイさんがそう言いながら、さくらの手からICレコーダーを受け取った。
さくらが盗聴し、録音していたベルッチファミリーの会話は、コッポラをベルッチと敵対させるのに十分な内容だった。コッポラとしては自分たちがコルレオーネに取って代わる目的で、ベルッチと裏で手を組んでいたが、そのベルッチの野望はこのマフィア界の支配だったとなれば、自分たちの目的とは相反するものだ。
コッポラは本格的な攻勢をベルッチファミリーにかけ始めた。
この国で、コルレオーネに次ぐ勢力を持ったファミリーである。ソルジャー同士のぶつかり合いでは、ベルッチファミリーに勝機は無い。ヒューマノイドの投入は避けて通れないのだ。特にコッポラの本拠地に攻め込むとなれば、なおさらだ。
「予想通りだな。
オッタビアの性格から言って、裏切ったコッポラを許してはおけないのだ」
地下にあるセキュリティルームの中にあるモニタに映し出されるベルッチの車列を見ながら、レイさんが言った。
周辺地域の監視カメラの多くは、すでに制御が可能だ。今映しているのは、コッポラファミリーの支配域に通じる幹線道路に設置されているカメラの映像だ。
オッタビアの屋敷を出たベルッチファミリーのソルジャーたちを乗せた車列が向かっている先は、明らかにコッポラファミリーの支配域としか考えられない。
「あそこにヒューマノイドがいるのは確実だろうが、二体いるのか、一体なのかは分からないな」
サングラスの神父が言った。
「なら、どっちに仕掛ける?」
二体のヒューマノイドが不在なら、オッタビアを急襲する。一体だけが出撃したのなら、その一体を葬る。
「とにかく。出るしかない。
まずはコッポラの所に向かおう。
モニタでコッポラとの戦いにヒューマノイド二体が投入されている事が確認できたら、連絡をくれ。 我々の作戦は中止する。
そして、コルレオーネに伝えてやれ。オッタビアを襲うチャンスだと」
レイさんはそう言い終えると、セキュリティルームから出て行った。
俺もレイさんに付き従い、コッポラファミリーの屋敷に向かう。
奴らの狙いは一気にコッポラファミリーを壊滅する事に違いはない。とすれば、中途半端な小競り合いではなく、ボスの首を狙うに違いないと言うのが、俺達の読みだった。
「コッポラの屋敷の間取りの情報は無いか?」
サングラスの神父が俺に聞いて来た。
「探ってみる」
俺はタブレットを手に取り、ネットの中を探り始めた。
コッポラの屋敷はほぼ300年前に建てられた貴族の屋敷らしい。
「物は分かった。ネット時代になってから、売りに出された事があるなら、間取りも手に入れられる可能性がある。
いつからコッポラファミリーはそこにいるです?」
「残念だが、そう言う意味でなら、もう何代もあそこは奴らのものだ」
「仕方ないか」
残念そうにサングラスの神父が言った時、俺のスマホが鳴った。
発信者はさくらだ。
「どうした?」
「コッポラの屋敷の間取り図、メールで送ったから。
じゃあ、そう言う事で」
「待て。さくら!」
俺の言葉には答えず、さくらは電話を切った。つまり、さくらは俺達の会話を聞いていたと言う事だ。どこかに盗聴器が。
「さくらちゃんが送って来た間取り図を見せなさい」
盗聴器を探そうとしている俺から、あすかがタブレットを取り上げた。
「聞こえていたのか?」
あすかも俺の言葉には何も答えず、タブレットを操作し、勝手に俺のメールを開いた。
「どうだ、あすか?」
「これなら大丈夫」
「何が大丈夫なんだ?」
「はい。これ返すから」
これまた俺の問いに答えないまま、あすかはタブレットを差し出して来た。
「おい!」
「うるさいなぁ。
あんたには関係ない事でしょ。
それとも、あんたが戦うの?」
返す言葉が見つからない。今度は俺があすかの言葉に何も返さない番になってしまっていた。




