アーシア圧勝
アーシアは一瞬の内に、屋敷の塀を飛び越え、その中に入り込んだ。
緑広がる庭の中、侵入者であるアーシアに銃を向け、走り寄ってくるソルジャーたち。
容赦なくソルジャーたちの銃が火を吹き始めたが、モニタの映像ではアーシアの動きが速すぎて、何が起きているのか視認できやしない。ただ、動きが速いと言う事だけは、感覚として理解出来る。それはボスものようだ。
「銃弾を本当にかわしているようだね」
「アーシアの目に搭載されているイメージャーは通常の照度環境下では、10万分の1秒で撮像でき、その高速撮像された画像情報をリアルタイムに処理するプロセッサも搭載されています。アーシアは、自分に向かって飛んでくる銃弾さえ見逃さないばかりか、銃弾の弾道も一瞬で計算できるため、かわす事は容易です」
原の言葉が真実かどうか確かめたくて、黙って立っているアーシアに目を向けた。
どす黒く固まった血で固められたアーシアのドレス。銃痕によると思われる穴は一つとしてない。原の言葉通り、アーシアは人間を超える速度で、飛んでくる銃弾をかいくぐる事ができるらしい。
敵のソルジャーのアップがモニタに映し出された。銃弾を避けながら、一気に近づいたらしい。
敵の姿と共に映像の片隅に捉えられるアーシアの腕が、ソルジャーの頭部に命中すると、頭部だった部位の一部を周囲に大きく飛散させ、その本体は血しぶきを上げながら、吹き飛んで行った。
こちらに来てからも、まだ本格的な抗争を俺自身は目の当たりにはしていなかった。だが、今、見せられているのは、映像とは言え、まさに本格的な抗争であり、連続殺人の真実の現場である。
これまでも、アクション映画やドラマで銃撃シーンや殺人シーンを観た事は何度でもあったし、血しぶきや吹き飛ぶ衣服など、リアル感を持って見ていたが、実際の殺戮現場と言うものはそんな生易しいものじゃなかった。
吹き飛ぶ肉片と血しぶき、損壊していく肉体。皮膚の内側に収められている骨や内臓をさらけ出している肉体には、吐き気さえ覚えてしまう。
こんな凄惨な光景を大画面で見るなよ!
そう叫びたくなるのを抑えるのがやっとだ。
さくらは?
ようやく、さくらの事を思い出した俺が視線を向けると、さくらは食い入るようにモニタを見つめていた。やはり、これがさっきリアルに起きた殺戮の映像だと思っていないんだろう。
庭で銃撃していたソルジャーたちは次々にアーシアの手によって葬られ、もはや立っている敵は居なくなった。
アーシアの目の前の地面が、バッ、バッ、バッ、バッと音を立てて、砕け散った。
画面に映し出された屋敷の窓に、何人もの銃を構えた男とたちが映し出されていた。
まだ、屋敷の中には多くのソルジャーたちが残っているらしい。
迎撃のため外に飛び出して来ないのは、アーシアと広い庭で対決しても、この地面に転がる多数のソルジャーたちと同じ運命になるだけと判断しているのかも知れない。
映像の先に、マシンガンの銃口の先端が映し出された。
アーシアがマシンガンを構えたらしい。そこから、火花が飛び散り、銃撃音が轟くと、屋敷の窓ガラスが粉々に砕け散り、窓から銃撃していた男たちもそのままアーシアの銃弾の餌食となっていく。
一度静寂が訪れたかと思うと、別の窓から新たなソルジャーがアーシアに向かって、銃撃を始める。人間は一度戦い始めると、その攻撃が無駄な事だと分かっても、止めることができないのかも知れない。
またも映像が流れたかと思うと、モニタには屋敷の建物のドアが映し出された。
アーシアがエルカーンのボスがいる建物の玄関に移動したらしい。
アーシアがドアの取っ手に手をかけ、一気にドアを引くと、アーシアはその身を壁際に隠した。
ドアを開いた瞬間に銃弾を浴びせようと、内側で待ち構えていたのだろう、無数の銃弾が放たれた。
しかし、アーシアはすでに壁際に身を隠しており、全ての銃弾はむなしく空を切り裂いただけだった。
アーシアをハチの巣に。そんな期待を裏切られた敵のソルジャーたちが銃撃を止めた一瞬の隙をついて、アーシアが屋敷の中に飛び込んだ。
中で銃を構えていたのは5人。
彼らはドアからそれほど離れてはいなかった。一方、かなりの速度で飛び込んだアーシアは、敵の手前で止まることができなかったらしい。
アーシアが二人のソルジャーと激突したかと思うと、二人のソルジャーたちはそのまま弾き飛ばされ、壁に激突し息絶えた。
一方残る三人も、アーシアが瞬く間に殴り飛ばし、葬り去っていた。
アーシアが迷うことなく、視界に映し出されている階段に向かって行く。
「やつの屋敷の間取りの情報をアーシアに記憶させていたんだったな?」
ボスの言葉に原が黙って頷いた。原の顔がてかって見えるのは、目の前の光景の凄惨さに緊張し、うっすらと汗が浮かんでいるのだろう。
屋敷の間取りを知っているアーシアが目指すのは、エルカーンファミリーのボスの部屋。
屋敷の中のソルジャーたちが、武器を手にアーシアの前に立ちふさがるが、所詮は人ではヒューマノイドに対抗なんてできやしない。次々に秒殺されるだけで、アーシアは無人の野を行くが如きである。