弾道上のさくら
元々は繁華街だったはずだが、今は人通りも無い通り。
俺たちはコルレオーネファミリーのソルジャーたちが現れるのを通りの端に止めた車の中で待っていた。
「そろそろだ」
コルレオーネのソルジャーたちが現れる時刻はすでに調整済みだ。時計を確認していたレイさんが言った。
時刻にルーズな国民性だと言うのに、この手の組織は一般と違ってきっちりしているらしく、ほぼ時刻通りに、通りの先に車列が現れ、無人となった店舗に向けて銃撃を開始した。
「来たぞ」
ゆっくりとした速度で俺たちの方に近づいてくるコルレオーネのソルジャーたちが乗る車列。
窓から突き出したマシンガンの銃口が火を噴き続けていて、通り沿いの建物に銃弾の雨を降らせている。
「これでは、店を復興させることもできないわなぁ」
率直な俺の感想だ。が、今日の目標はこのコルレオーネのソルジャーたちではない。彼らは、ベルッチのソルジャーたちを呼び寄せるただの餌だ。
俺たちが求めるのは、ベルッチのヒューマノイド セレンだ。
ベルッチ側が現れるまで、俺達は待ち続ける。そのつもりだったが、意外と早く彼らは現れた。どうやら、即応体制を取るため、俺達と同じように近くで待っていたらしい。
タイヤをきしませ、エンジンを咆哮させながら、数台の車が俺たちの背後から通りに現れた。
リアウインドウの先に目を向けると、爆走してくる車は、窓から対向車線側に銃口を向けていた。狙いは明らかにコルレオーネのソルジャーたちだ。
「あすか」
サングラスの神父の言葉に、静かにあすかは頷くと、車のドアを開け、歩道ではなく車道に出た。
「マジで?」
向かって来る車に向かって、構えているのはピストルだ。
自分たちに向けられている銃口に気づいたベルッチのソルジャーたちが、あすかに向かって銃撃を始めた。
轟く銃撃音。だが、それに紛れて、あすかも引き鉄を引いていたらしい。
先頭の車はフロントガラスが砕け散ったかと思うと、コントロールを失い蛇行をはじめ、歩道に乗り上げて建物の壁にぶつかって停車した。過去の戦闘から言って、運転手はすでに脳天を撃ち抜かれているに違いない。
「凄いね」
だめだと言う俺の言う事を聞かずついて来たさくらが言った。
その頃には、先頭車両が道を外れた事で、あすかの前に現れた後続の車の運転手も撃ち抜かれたていた。
立て続けに、運転手を倒していく。
その中の一台は、対向車線側にはみ出した。
向かって来ていたコルレオーネの車列が急ブレーキを踏んで停車した。
お互いの停車した車からソルジャーたちが飛び出し、銃口を向ける。
「セレンはいないみたいだな」
サングラスの神父が言った。レイさんや俺の目的はベルッチファミリーの壊滅だが、あすかやこの神父の目的は、ヒューマノイドの破壊だ。
彼らにとって、人間のソルジャーとの戦いはあまり意味の無い事だけに、少しがっかし感が言葉に滲んでいる。
あすかはと言うと、ソルジャーたちの争いでつぶし合いを期待しているのか、積極的な参戦はせず、歩道で様子をうかがている。
「それはそれで、困るんだよな」
ハンドルを握るレイさんが、あすかの様子に少し苛立った口調で言った。
コルレオーネはベルッチのソルジャーたちをおびき寄せる餌ではあるが、食べられてしまえば、コルレオーネたちとの連携に支障が出ると言う事だろう。
「あすか」
サングラスの神父が車のドアを開けて、あすかを呼んだ。
「ベルッチのソルジャーたちを一部を残して、片付けるんだ。
一方的な、圧倒的な力の差を見せつけるんだ。
逃げ帰った奴がオッタビアに、とても勝てる相手じゃないと訴えるようにな」
「それで、セレンをおびき出すんですね」
あすかは静かに頷くと、車から足早に離れて行った。
目的は違えど、ここでベルッチのソルジャーを殲滅すると言う事は一致した訳で、レイさんの表情も柔らかくなった。
「もっと、近くで見たい」
あすかが再び銃撃を始めると、さくらがそんな言葉を残して、車を飛び出して行った。
「ばか!」
慌てて、俺も車を出て、さくらを追いかける。追いかけて初めて知ったのだが、さくらは意外と速かった。さっさと捕まえて、車に連れ戻すはずだったのに、差が縮まらないのだ。
「待て!」
俺の言葉に振り返ったさくらは、なんだかにんまりとしている。俺に追いかけられてうれしいのか? なんて、思った時、さくらの手にピストルが握られている事に気づいた。
「死ねぇぇぇ」
わざわざ大声を出さなくてもいいのに、ベルッチのソルジャーたちにそう叫びながら、銃口を向けた。
あすかの銃弾に次々に倒されていくベルッチのソルジャーたち。そんな彼らにも、さくらの声は十分に届いた。
勝てない相手より、まずは勝てそうな相手。
一瞬の判断が、さくらに銃口を向けさせた。
「危ない!」
そう叫んだ時には、やつらの銃口はすでにさくらに向けて、火を噴いていた。
銃口の向きから言って、さくらに命中する確率は高い。よくても腕とかに被弾、普通に言って胸辺りに被弾、最悪なケースでは心臓に被弾だ。
さくらに向かって、全力でタックルをくらわし、その位置を変えさせるしかない。
「わぁぁぁ!」
喊声を上げ、さくらに突進していった。
間に合わないとこみ上げてくる悲観的な想いを抑え込みつつ。




