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不法移民って、誰の事?

 俺たちが拠点としているロレンツォ教会に、マフィアのガンビーナファミリーにさらわれた娘を救出してほしいと頼みに来たカテリーナのため、あすかと共に向かったガンビーナの夜の店。そこで、偶然遭遇したモニカを葬り、ロレンツォ教会に戻って来てしばらくすると、教会周辺にパトカーと警官たちが集結し始めた。

 教会とは名ばかりで、ベルッチファミリーと関係が深い事は、公知の事実。そして、マフィアとは関わらないのが、この国の警察機構だと言うのに、今にもここに踏み込んできそうな状況だ。


「どうして、こんな事になったんだ?」


 聖堂の中、俺に近づいてくる神父服をまとった番人に言った。


「分からない。

 それよりも、君も隠れなくていいのか?

 レイさんもすでに地下に向かったが」

「そうだった」


 この国の人であるレイさんでさえ、ロベルトさんの配下だった事もあり、生きている事実が警察から、ベルッチにかかわる者たちに流れる事を避けようと、身を隠したらしい。としたら、異国人である俺なんて、なおさらだ。

 俺が慌てて奥に向かおうとした時、聖堂の重い扉が開く音が響いた。


 ギッ、ギッギギー。


 振り返った瞬間、開いたドアから大勢の警官たちが聖堂の中になだれ込んできた。

 遅かったか。

 後悔しても始まらない。

 このまま奥に行けば、警官たちを地下に導いてしまう事になる。諦めて、立ち止まっていると、警官たちは番人の男を取り囲んだ。


「お前たち、ここがどこだか分かってるんだろうな?」


 普段の番人の雰囲気からは想像できない口調で凄んだかと思うと、ずいっと一歩前へ出た。それに圧され、警官たちが後ずさりした。

 このまま、警官たちを追い出せるのでは?

 なんて、期待してしまう。


「フリオさん、俺たちも、困ってるんですよ」


 警官たちの中に、番人を知っている警官がいたらしく、名前で呼びかけ、警官たちの輪の中から抜け出し、番人の前に立った。


「何が起きてる?」


 番人がその男にたずねた。


「上からの命令で、逆らえないんだよ。

 ここにいる不法移民を捕まえろとの事だ」

「不法移民?」


 番人がふり返って俺を見た。

 最近、ヨーロッパに押し寄せてきている不法移民と俺は違うが、正規の長期滞在者でないのは確かだ。


「男じゃない」


 番人に対し、その警官は即答した。とすると、彼らの目的はあすかかさくらなのか?


「ともかく、この教会の中を隅々まで捜索し、生死を問わずその移民を連れてこいと言われている」


 警官の言葉は穏便じゃない。生死を問わずとはどう言う事なのか?

 しかも、教会の中を隅々と言うのも穏便じゃない。

 あすかはきっと地下に隠れているだろうが、それでも教会の中を隅々まで捜索されると、安心はできない。そして、さくらは?

 二人に予想外の非常事態だと告げるため、奥に向かおうとした俺の視界に、様子をうかがうかのように、ほんの少し開けた聖堂につながる奥の廊下のドアから、さくらがちょこっと顔を覗かせていた。

 警官たちがさくらに気づいていないのか不安になり、警官たちに目を向けた。警官たちの一部は番人の男に視線を集中させてはいたが、中には教会の中を観察するかのように、視線を移動させている者もいる。

 警官たちに見えないよう、体の前で右手を数回振って、さくらに奥に行けと合図を送ると、さくらが予想外の行動に出た。


「何?」


 ドアを開けて、そう言いながら出て来てしまった。


「ばか! 逃げろ!」


 警官たちに分からないように、日本語でさくらに言った。さくらは、ようやく自分の立場、正確には俺達の立場では身を隠した方がいいと言う事を悟ったらしく、慌てて奥に引き返そうとしていた。


「待て!」


 警官たちがさくらを追うのを止めようとする番人の威嚇気味の声がした。

 俺はさくらを守るため、さくらの後を追いつつ、警官たちの様子を確認しようと、駆けながら振り返った。

 当然だが、警官たちの視線はさくらに集中していたが、彼女を追いかける風でもない。


「俺たちが探しているのは、アジア人じゃない」


 番人と話していた警官が言った。


「そんな女、ここにはいないぞ」


 番人が言った。その口調は警官たちを進ませまいとするさっきまでの威嚇気味から、戸惑い気味に変わっていた。俺もさくらを追うのを止め、その場で成り行きを見守る事にした。ここには、レイさんの仲間、つまりロベルトさんの部下だった者たちがいるが、男ばかりである。女性と言えば。さくらとあすかしかいない。

 はっきり言って、ここには警官たちが探そうとしている不法移民の女性なんていやしないのだ。


「いるとか、いないとかじゃないんだ。

 俺たちは探せと命じられているんだ。

 形だけでも、捜索させてくれ」

「お互い立場があるんだろう。

 だが、地下には行くな」

「分かった」


 番人が妥協の条件を出すと、警官もすぐに飲んだ。板挟みの彼らとしても、問題なく、この場を納めたいのだろう。話がつき、番人が立ちふさがるのを止めると、警官たちは教会内部の捜索を始めた。

 聖堂、聖堂に隣接するいくつもの部屋。


「ここには目的の女性はいないらしい」


 形式だけの捜索を終えた警官たちが、そう結論を出し、無事に終わりそうな時だった。

 聖堂のドアが開き、スーツ姿の男が入って来た。


「お前たち、ここには地下室があると言っておいただろ!」

「し、し、しかし」

「行くぞ!」


 戸惑う警官たちを一喝すると、聖堂の奥に進み始めた。どうやら、スーツ姿の男が完全に力関係的に上らしく、警官たちもしぶしぶその後を追い始めた。

 ここに地下室があると、知る者がいてもおかしくはないが、断定的に言ってのけれる警官がいるのは、意外だった。


「待て!」


 番人が怒鳴ったが、警官たちは聞こえていないかのように、奥に進んで行く。


「待てと言っているだろ!」


 番人が最後尾の警官の肩をつかみ、怒鳴った時、先頭を歩いていたスーツ姿の男が、警官たち壁を逆行してきて、警官の肩を掴んでいた番人の腕を捩じ上げた。


「こんな事をしてただで済むと思うな」


 かなりの力で腕を捩じ上げられているらしく、苦痛の表情で番人が呻くように言った。


「おい。連れて行け」


 番人の脅し全く怯む素振りも見せず、スーツ姿の男は近くにいた警官に、そう言って番人を引き渡した。

 理由は分からないが、今回の捜索はかなり本気らしい。

 

 そして、スーツ姿の男はここの間取りを予め知っていたかのように、地下室を目指し始めた。

 地下室は焼失したベルッチ屋敷の地下、ヒューマノイド開発室跡につながっている。ここには彼らが探し求める女性の不法移民はいないが、ヒューマノイド開発室跡に向かわれると、さっき運び込んだヒューマノイド モニカを発見されてしまう可能性がある。

 できれば、それは避けたいところだが、ほぼ無理だろう。

 そんな事を思いながら、事態を見守るため、警官たちの後を追って、地下に続く階段を下りて行った先には予想外の光景が広がっていた。 

 

 照明に照らされた20m四方ほどの空間は、警官たちで満たされた袋小路だった。本来、ヒューマノイド開発室につながるトンネルの入り口があったところも、壁で塞がれていて、その前に行き場を失っていたらしいさくらがおろおろとした風で立っていた。

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