あすかvsモニカ
何の関係も無い俺たちのロレンツォ教会に自分の娘の救出を頼みに来たカテリーナ。ガンビーナファミリーに連れ去られた彼女の娘 ルチアーナを救い出すため、俺達はガンビーナの縄張りの中にある彼らの夜の店にやって来た。
その店に単身乗り込んだあすかが、ルチアーナを見つけた時、偶然サンドロたちの襲撃が始まった。
しかも、その襲撃部隊の中には、あすかが破壊を狙うヒューマノイドの一体 モニカの姿があった。
当然だが、最初の戦闘は店の入り口で起きた。
轟く銃撃音。明らかな敵襲に、あすかが引き起こした異変に、気を取られ始めていた店の男たちが身に着けていた銃を取り出し、反転し入り口を目指し始めている。
「いいか! 女は大事な商品だ! 傷つけるなよ」
銃撃音が止んだ一瞬を突いて男の声がした。
サンドロ側の狙いは、この店の破壊と女性たちを奪う事らしい。
それを防ごうと、店側の男たち、当然一般人なんかじゃない、その彼らの反撃が始まった。
店側と襲撃側の者たちの数はやはり店側の方が多い。だが、この戦いの行方を決めるのは、人の数じゃない。
店の中にあすかもいれば、たった今、ホールに姿を現わしたヒューマノイドのモニカも驚異的な戦闘力を持っている。
そして、そのモニカはすぐに戦闘に参加した。
降り注ぐ銃弾の雨をかいくぐり、一瞬の内にモニカはサンドロの襲撃部隊を迎え撃っている店側の男たちの背後に移動した。
人の視力では、その動きを完全に把握する事はできず、自分の背後にモニカが立ったことに、店側の男たちは気づいてさえいない。
こんな化け物を相手に、あすかは勝てるのか?
あすかの戦闘力を知ってはいても、ヒューマノイドはやはり格が違いすぎる。
「こんなところに立ってるんじゃない!」
ようやく、自分たちの背後に立つモニカに気づいた一人の男が怒鳴った。
それが敵側のヒューマノイドだと知ってはいないだけじゃない。相手が女性なので、油断しきっている。
モニカはそんな男に、にんまりと微笑んだかと思うと、その首を刎ね飛ばした。
血しぶきを上げ、崩れ落ちる男の胴体。
噴水のように吹き上がった血の雨の中、平然とたっているモニカの姿は、あの時のアーシアと重なり、背筋が凍ってしまう。
突然の事態に店側の男たちの動きは止まった。
ここから殺戮が始まる。男たちの最期を思い描いた時、監視カメラの片隅に新たな火花が発した。
そこはあすかがいた細い通路の入り口であり、そこにピストルを構えたあすかが立っていた。
モニカに向けて発砲したらしい。
「なんで、そんなしょぼいもので?」
マシンガンを持つ人間でさえ、瞬殺するヒューマノイドを相手に、ピストルで歯向かうあすかの姿に疑問を抱かずにいられなかった。
そして、モニカの方だが、理由は分からないが、標的を目の前の男たちからあすかに切り替えたらしく、男たちの背後から姿を消した。
「あすかっ!」
向かった時は、あすかがいるあの通路。
そんな思いで、カメラを通路の監視カメラに切り替えた。
そこの光景は意外なものだった。
暗闇。そして、その中で煌く、マシンガンの火花。
火花が煌くたびに離散的に映し出されるマシンガンを構えるあすかの姿。
さっきまで照明が付き、明るかった通路は何故だか真っ暗となっていて、その中を彼女はゆっくりと後退している。
そこにモニカの姿は無い。どうやら、細い通路の中にあすかが弾幕を張っているため、モニカも侵入できないでいるらしく、通路の前でモニカはあすかが放った銃弾をかわし続けるだけで、通路に入ろうとすらしていない。
いずれはあすかのマシンガンの弾は切れる。その時、どうするのか?
そんな思いで、後退していく彼女を注視していると、彼女は突如横の部屋に姿を消した。
当然、通路の中に張られていた弾幕は無くなり、モニカにとって侵入が可能となった。
あすかが身を隠した部屋の前まで一瞬の内に移動したモニカが立ち止まり、部屋の中の様子をうかがっている。
一方、部屋の中から攻撃する気配は無さげだ。
どんな作戦なんだ?
相手がヒューマノイドだけに、少し不安になってしまう。
無敵。そんなヒューマノイドだけに、攻撃の中に策と言うものがあるのかどうか分からないが、動いたのはモニカだった。
部屋の中に飛び込んだ。
それと同時に、通路の監視カメラはガラスが割れる音を拾った。
そして、すぐにその部屋の中で発せられる光が映し出された。
ここからでは何が起きているのか分からない。
しばらく続いた光が消えた時、その部屋から何者かが出て来た。
暗すぎてそれがあすかなのか、モニカなのか分からない。
その頃には、ホールで行われていた銃撃戦に決着がついていた。
ついさっき仲間の首を刎ね飛ばしたモニカが消えた通路に銃口を向けながら、ゆっくりと進む男たち。 それは警戒していると言うより、怯えていると言う方が強そうだ。
やがて、男たちの前に暗い通路から、人が現れた。
あすかだった。
「倒したんだ」
思わず、そんな言葉を口からこぼし、安堵した。
それは男たちもだったようで、向けていた銃口を少し下げて、あすかに言った。
「おい。その中はどうなっている?」
あすかが店に入ってくる姿を見た者もいれば、見ていない者もいるだろう。だが、いずれにしても、多くの女たちの一人だと思っているに違いなく、警戒する素振りを見せていない。
あすかは男に何も答えないまま、通路を出てすぐのところで立ち止まった。
「おい。聞こえないのか?」
男の言葉には答える気配もなく、彼女はゆっくりと辺りを見渡している。
「四人か」
あすかはそう言うとほぼ同時に、ピストルを抜き、四人の脳天を一瞬の内に撃ち抜いた。
銃器で武装した者が皆無となった店から、あすかはルチアーナを右肩に担ぎ、モニカを左手で引きずりながら、出て来た。男たちの血を浴びまくったモニカの服には、まだ乾ききっていない血がたっぷりと含まれていて、彼女が引きずられた後には血の痕が続いていた。
彼女の負担を軽くしようと、車から降り、彼女の下に向かった。
「お疲れ。
モニカは俺が運ぶよ」
「できるの?」
「当たり前だろ」
俺だって男だ。ばかにするな! 的な口調で返した。
「なら」
あすかがそう言って、掴んでいたモニカの腕を離した。
ゴトン!
道路に力なく落ちたモニカの腕が、重そうな音を立てた。
その腕を掴もうとしゃがみ込んだ俺は、モニカが着こんでいた血塗られた服の腹部だけが握りこぶしくらいの大きさで焼け焦げている事に気づいた。
他に損傷らしい損傷はない。
「持てないの?」
俺たちの車まで、すでにたどり着いていたあすかが、モニカの状態を確認している俺に言った。
「んな訳ないだろ」
そう言うと、モニカの腕を掴んで立ち上がった。その時、嫌な予感がした。
持ち上げた腕の重量感が半端なかったのだ。
ぐいっと、その予感に従い、力を込めてモニカを引っ張ると、ズリッと音を立てて、モニカの体がほんの少しだけ移動した。
重いのだ。
金属をベースに形成されたボディ。そう考えれば、当然の重量なのだろうが、さっきあすかはルチアーナを肩に担ぎながら、このモニカを引きずってきたのだ。しかも、あの店から階段も上って来ている。
どうやら、あの子は銃の腕だけでなく、素手での格闘だけでなく、力もあるらしかった。
カテリーナを後部座席に押し込み終え、俺を見つめるあすか。その腕は筋肉隆々なんてものではなく、普通の女の子のような細くて白い、そして柔らかさを感じさせる風なのだ。
一体、どこから?
そんな事を想いながら、モニカを引きずって車まで、俺はなんとかたどり着いた。




