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マフィアを狩る少女

 ボスを失ったベルッチファミリーのソルジャーたちは、それぞれ親しかったオッタビア、サンドロ、チェーザレたちに従いはじめ、分裂の色が濃くなってきた。ボスの後継に最も遠い次男のチェーザレに付いたソルジャーの数が当然、最も少なかったが、それに反比例するかのようにボスの後継を狙う野望は、他の二人より大きかった。

 それゆえ、他の二人に比べチェーザレは功を上げる必要に迫られていたため、果敢な攻撃に出ていた。


 その一番のターゲットはすでに抗争に突入していたカタラーニファミリーだった。カタラーニを殲滅すれば、その支配を巡って対立している旧エルカーンの支配域と合わせて、広大な領域を支配下に置くことができ、オッタビアたちよりも優位に立てると踏んでいるようだった。


 ただ、今のところヒューマノイド セレンを使ってはいない。

 それはオッタビアたちもだった。その理由は、アーシアが行方不明になった事だ。

 ロベルトさんを抹殺し、屋敷に火を放つと言う作戦が完了したにも関わらず、アーシアは戻って来なかった。そして、焼け落ちたロベルトさんの屋敷跡からも、アーシアの残骸を発見できなかった。つまり、彼らの推測ではアーシアは勝手にどこかへ行ってしまったと言う事であり、その原因が掴めない状況では、あまりヒューマノイドを使いたくないのだ。もっとも、詳しい話を教えてもらえていないのだが、アーシアはロベルトさんが相討ちし、その残骸はサングラスの神父たちが回収し、その腕からレーザー兵器を取り外し、小型なレーザー銃を造り上げているのだから、実際の所、アーシアが勝手に行方不明になったと言うのは事実ではないのだが。



 そして、現在の状況だが、エルカーンを滅ぼした勢いも味方したのだろう、チェーザレ単独だと言うのに、旧エルカーンの支配域はほぼチェーザレの手に落ち、チェーザレとカタラーニの戦いの場はすでにカタラーニファミリーの支配域に移っていた。

 そんな戦いにサングラスの神父とあすかは時折介入していた。

 目的はチェーザレのヒューマノイド セレンの破壊だが、今のところ姿を現わさず、ほぼ徒労に終わっている。


 その二人の戦いに、今日は俺も加わり、助手席でチェーザレが荒らしている地域に向かっていた。

 もっとも、俺が加わっているのは特別な理由や目的があっての事じゃない。

 二人といつも共に行動するレイさんの配下の者の都合がつかなかったと言うだけの事だ。



 カタラーニが支配する中心街を東西に貫く広い道。多くの夜の店を思わせる看板を掲げた店が並んでいる歩道に沿うように車を止めた。

 昼間の今、この通りには人通りはほとんどないが、その理由はこの通りが夜の街だからと言うだけではない。しばしばチェーザレのソルジャーたちが街を荒らしにやって来るので、マフィアたちの抗争に巻き込まれるのを避けようと、この通りを人々は避けているのである。


 何か異変を敏感に感じ取った運転席に座るサングラスの神父が、エンジンを切り窓を開けると、閉じられた車内では感じられなかったものが伝わって来た。遠くで起きている銃撃音とガラスの割れる音。

 サングラスの神父がエンジンを再びかけ、その音の方向に車を進めていくと、はるか先の対向車線に一台のマフィアらしい車を発見した。

 サングラスの神父がゆっくりと車を路肩に寄せ、後部座席に座るあすかに言った。


「あすか、街中を騒がす奴らを片づけてきてくれ」


 その言葉に、あすかが頷き、ドアを開けて車から降りた。

 近づいた事もあって、ドアを開けるとエンジン音さえかき消すほどの銃撃音が車内になだれ込んできた。

 あすかは乗ってきた車の横に立つと、右手にピストルをかまえた。

 あすかの獲物であるチェーザレのソルジャーたちを乗せた車は、店に向かってマシンガンを乱射する事に気を取られているのか、あすかの存在に気づいていない。

 徐々に距離を縮めてくるチェーザレのソルジャーたちを乗せた車。


 いつ彼女が攻撃するのか?


 そんな俺の思いを裏切るかのように、車は俺たちの横を通り過ぎた。


 えっ?


 そんな思いであすかとチェーザレのソルジャーたちを乗せた車の後ろ姿に視線を行ったり来たりさせる内に、あすかが銃を構え、走り去る車のタイヤを撃ち抜いた。

 タイヤが軋む音とブレーキ音を立て、チェーザレのソルジャーたちを乗せた車は蛇行を始め、コントロールを失い、歩道に乗り上げて停車した。

 敵襲と言う事を感じ取ったのだろう。

 チェーザレのソルジャーたちがそれぞれの銃器を構え、敵を迎撃するため、停車と同時に飛び出してきた。

 最初に勢いよく飛び出したのは後部座席に座っていた二人のソルジャーだった。

 この地域では、自分たちが圧倒的に優位。そんな気分が二人のソルジャーたちを油断させていたのだろうか、ソルジャーたちは居場所も分からぬ敵に、生身をさらした。

 一方のあすかは、これまでの行動からも分かっているが、非情である。マフィアと言う本業ではなく、彼らの目的に手を貸していると言うだけの技術者たちも、平然と抹殺しているのだ。

 不用心なほど生身を晒そうと、彼女は容赦などしない。

 彼女が放った二発の銃弾が二人のソルジャーたちのそれぞれの側頭部を貫通した。目を見開き、口を開け、崩れ落ちる二人のソルジャー。まさに瞬殺だ。


 仲間が瞬殺された事にようやくここが戦場である事を思い出したのか、車内のソルジャーたちは動きを潜めている。

 きっと、敵の人数と居場所を何とか探れないかと考えているのだろう。

 かと言って、座席に身を伏しているだけでは、外の様子を掴むことなどできやしない。

 いつかは動き出すしかない。

 雉も鳴かずば撃たれまいと言うやつだ。

 まさしく、その言葉通りの展開となった。

 一人のソルジャーが外の様子を探るためだろう、窓から外を覗こうと少し頭を上げた瞬間を彼女は逃さなかった。

 彼女が放った一発の銃弾が、そのソルジャーの頭部を車のガラスごと貫いた。


 車にあと何人のソルジャーが身を潜めているのかは分からない。だが、今の一発で完全に戦意を喪失してしまったのだろう。動く気配すら見せなくなっていた。


 それに対し、辺りは騒がしくなり始めていた。

 チェーザレのソルジャーたちとあすかの戦いを遠巻きに見ているのだ。


「あすか、今日のところはこれで引き揚げよう」


 目立つことを嫌ったのか、サングラスの神父の言葉に、あすかが車に戻って来た。

 後部座席に乗り込む瞬間、その顔を見たが、やはり人を殺した事への悔悟も悲しみの表情はしていなかった。幸いなのは、そこに狂喜の表情もなく、単に仕事を終えたくらいにしか感じていなさそうなところだろうか。


 そして、こんなことを繰り返していると、当然のことだが、マフィアを狩る謎のアジア系少女。

巷にはそんな噂が流れ始めた。

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