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ベルッチファミリー分裂の予感

 マフィアたちの抗争に直接干渉しないこの国の警察とは言え、派手な銃撃戦と火災となれば、出て来ない訳にはいかない。ベルッチの屋敷の周囲は消防と警察、そしてやじ馬でごった返していた。

 オッタビアたちは、当然彼らのボスが地下に逃げた事を想定し、地下のヒューマノイド開発室、あるいはロレンツォ教会にやって来ると考えた俺たちは、元々の番人の神父を残し、ロレンツォ教会を一旦離れた。

 とは言っても、サングラスの神父にオッタビアたちの様子を見届けるよう命じられたあすかは、やじ馬の中に紛れて残る事になっていたため、俺もやじ馬の中に身を置いた。

 もちろん、俺がここにいる事で、さくらも俺の横にいる。


 やじ馬の視線がベルッチの屋敷に向けられている中、俺たちの視線はロレンツォ教会に向いている。

 オッタビア、サンドロ、チェーザレの三人とヒューマノイドを中心とした、ベルッチファミリーの生き残りたちが、ロレンツォ教会に消えて、もう一時間ほどになる。

 この間、屋敷を覆っていたオレンジの炎も、消火活動の甲斐あって、今はその姿を見せなくなり、代わってうっすらとした白煙が立ち上る程度となっていた。


「さくら!」


 横にいるさくらに呼びかけると、「うん?」的な表情で、小首を傾げながら、俺を見た。

 もうこいつには騙されない。耳にしているヘッドフォン。聞いているのが音楽だなんて考えてはいけない。きっと盗聴器の音声なのだ。


「中の状況はどうなっている?」

「眼鏡かけてても、見えないよ」


 まるで、俺が馬鹿な事を言っている的な顔で、さくらが答えた。


「いや、そう言う意味じゃなくて、教会の中にも盗聴器しかけてるんだろ?」

「うん!」


 平然と、そして何も悪い事なんかしてないよ的な笑顔で、頷いた。自分がやっている事が悪い事じゃないと思っている時点で、どうしようもない。

 まあ、それで色々と助かっている訳だから、あまり文句を言える立場じゃないのだが。


「聞こえて来た会話から、要点だけまとめて教えてくれないか」

「いいよ」


 なぜだかあすかが冷たい視線で俺たちを見つめる中、さくらが対照的なにこやかな笑みで語った話はこうだった。

 ロレンツォ教会から通じる地下トンネルを経由して、ベルッチの屋敷の地下室にたどり着いたオッタビアたちが最初に目にしたのは、当然ヒューマノイド開発室の惨状だった。

 秘密裏に作り上げていた地下室まで破壊されていた事に衝撃を受けた彼らは、さらに保管していたヒューマノイド全てが破壊されていた事と、ボスがエレベータの中で殺害されていた事に落胆と怒りの入り混じった反応を示したと言う事だった。


「地下室は諦め、今は礼拝堂に戻ってるわよ。

 聞く?」


 さくらがヘッドフォンの片側を俺に差し出した。

 それを受け取り、耳に入れると、最初に聞こえて来たのはサンドロの声だった。


「これからどうする?」

「まずボスを決めなければならないだろうな」


 サンドロに答えたのはオッタビアだ。


「それはそうだが、まずは後始末が先だろう」


 チェーザレは、ボスの後継を急いで決めたがっていないらしい。今すぐとなれば、彼が後継になるのは難しい位置な訳だし、サングラスの神父たちの読み通り、彼は後継の座を狙う気らしい。


「ともかく、俺はおやじの仇を討つ」


 そう言い放ったチェーザレが、ロレンツォ教会のドアを開けて出て来た。

 それに従うヒューマノイド セレン。アーシアと同じくストレートの金髪に碧眼で、すらりとしてはいるが、出るところは出た体形。あの時見たアーシアと違い、教会内で血の汚れを洗い流し、着替えも済ましたらしく、華麗な女性にしか見えない。やじ馬の中の男たちがその美しさに目を奪われることはあっても、それが驚異の殺戮マシーンだとは思ってもいないだろう。


「なら、後継はいずれと言う事で」


 そう言い残して、続いて出て来たのはサンドロだった。

 弟が味方しないなら、自分が後継になる確率は五分五分と読んで、勝負を避けたのだろう。サンドロに従うモニカ。軽いウェーブがかかったブラウンの髪と瞳。セレンに比べ、少し背が低いとは言え、美形とその体形は男を虜にする素養を十分に持っている。


 二人が車に乗り込み、ロレンツォ教会前を立ち去ると、オッタビアがクラウディアと教会の番人と共に現れた。


「おぉぉ」


 やじ馬の男たちから、軽い羨望の声のようなものが上がった。三人が三人とも美形の女性を連れている事へのやっかみのようなものだろう。オッタビアが連れているクラウディアは、モニカよりも濃いブラウンの髪に瞳。


「あの髪の色って、変化させれるんだよね?」


 突然、さくらが俺に聞いて来た。


「いや、知る訳ないんだけど。

 そんな話を盗聴したのか?」

「ううん。

 そんな気がするだけ。

 あすかちゃんは、どう思う?」


 さくらに突然話を向けられたあすかは、ちらりとだけ視線をさくらに向けたかと思うと、何の返事もすることなく、視線を元に戻した。


「なんで彼女に聞くんだ?」

「知ってるかなぁって、思っただけだよ」


 さくらがそう言った時、オッタビアも車に乗り込み、ロレンツォ教会を後にした。

 集結していたベルッチファミリーのソルジャーたちが離れ始め、消防士や警官たちも徐々に引き上げ、やじ馬の姿も見えなくなると、俺たちはロレンツォ協会に向かい始めた。


 先頭はあすか、そしてさくら。背後から二人を見守りながら歩く俺に視界に、駆け寄って来る者の姿が入った。

 視線を向けた先にいたのは、一人の警官だった。


「おい、おい、待て」


 その言葉に、あすかとさくらが立ち止まった。


「旅行者か?

 私は警官のテオと言うものだ」


 どう見てもアジア人の三人連れ。しかも、あすかに至ってはセーラ服姿。現地の警官が旅行者と思っても無理はない。


「君たちは知らないだろうが、あの教会に近寄ってはだめだ」


 マフィアとつながりのあるロレンツォ教会。そこに旅行で来た外国人が近寄り、犯罪に巻き込まれるのを避けようとしているのだろう。

 どう言おうかと思っている内に、あすかは平然ととんでもない事を言った。


「私たちは、あそこに住んでるの」

「えぇーっと」


 彼女の言葉はつまり、自分たちはベルッチファミリーの身内だと宣言しているようなものだ。それが真実だと受け取れず、言葉の行き違いか何かかと戸惑っている警官に、さくらまでが同じことを言った。


「だよ。

 私たち、あそこに暮らしているの」

「えぇーっと、君たちはあっちの社会の人って事でいいのかな?」


 警官はそう緊張気味な表情で独り言のようにつぶやくと、俺達から離れて行った。やばい人々とは関わらないと言うことなんだろう。

 そんな警官の後ろ姿を見ながら、俺たちは再びロレンツォ教会の中に戻って行った。

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