ベルッチの最期
圧倒的なヒューマノイドの力を背景に、この闇社会を裏で支配するコミッションに戦いを挑もうとしたベルッチファミリー。彼らが犯した最大のミスは、顧問だったロベルトさんを裏切り、抹殺した事だ。その仇を討とうと、立ちあがったレイさん。そこに集ったこの世からヒューマノイドを消去しようとする謎のサングラスの神父と少女 あすか。
あすかの攻撃に時を同じくして、襲撃して来たガンビーナファミリーのレオーネ。その攻撃の前に、ベルッチのソルジャーたちの多くはこの世から消え去り、屋敷も炎に包まれ始めた。
命の危険を感じたベルッチが数人のソルジャーたちと共に、地下に逃げてくる。
三階、二階、一階。
エレベータの表示が、地下に近づく。
俺の覚悟を決めるカウントダウンだ。
幸い、ベルッチは俺がここでマシンガンを構えているとは知らない。
正々堂々な戦いではなく、不意打ちと言うところが少し気に入らないが、そうでもしなければ勝てる相手じゃない。
地下にたどり着き、ゆっくりと開き始めたエレベータのドアの先のベルッチと目が合った。
なんで、お前がここにいる?
俺の存在に気づいたベルッチの驚きの表情は、すぐに苦痛の表情に変わった。
俺がマシンガンをぶっ放したからだ。
数多の弾丸を受け、ベルッチとそのソルジャーたちはエレベータの中で息絶えて行った。
「ロベルトさん。
仇は討ちましたよ」
エレベータ室内に広がる赤い血を見下ろしながら、俺は一人つぶやいた。
「やるじゃない」
予想外の近くで声がした。
振り返ると、すぐ後ろにあすかが立っていた。
「どこから来たんだ?」
「エレベータでなければ、地下通路以外に何があるって言うのよ」
「それはそうなんだが」
俺の疑問は速すぎないか? と言う事だが、彼女の行動の時間的なつながりをもう一度頭の中で検証しようとした時、彼女は突然スカートに手を入れた。
ぎくっと一瞬したが、彼女が何をしようとしたのか、すぐに気づいた。
俺の予想通り、彼女はスカートに隠された彼女の脚に装着しているレーザー銃を取り出し、保管してあるヒューマノイドの破壊に向かい始めた。
「どうして、ヒューマノイドを破壊せずに、上に行ったんだ?」
背を向け保管してあるヒューマノイドの所に向かう彼女にたずねてみた。
俺の質問に振り返った彼女の顔は、ちょっとうんざりしているかのようだった。
「あんた、ばかなの?
これは動かないんだよ。
いつでも壊せるんだよ」
「だから後回しにしたとしてもだな。
どうして、ベルッチたちを襲ったんだ」
「最初の計画だからじゃない」
彼女はとんでもない事を平然と言った。俺の知らいな事実だ。
「どう言う事なんだ!」
「あのヒューマノイド三体を同時に敵に回して、誰が勝てるって言うのよ」
そう言ってから、俺が聞かされていなかった計画を話し始めた。
彼女の話によると、三体のヒューマノイドが力を合わせられたら、倒す術がなく、お互いが独立した状態を作る必要があった。ベルッチファミリーの後継として、弟のオッタビア、長男のサンドロが考えられるが、次男のチェーザレは野望を抱いており、そう簡単に他の二人に従うとは考えられず、ボスが亡くなれば、三人は分裂状態になると言うのだ。
それを作り出すため、三体のヒューマノイドが不在のこの時を狙い、ボス抹殺を最初から狙っていたらしい。
それだけでなく、今攻めてきているガンビーナたちにこの屋敷の警護が手薄だと漏らしたのも、レイさんたちのルートを使っての事だったらしい。
それは、ここを攻めたのが敵対ファミリーだとオッタビアたちに思わせるためだったらしい。そして、屋敷に火を放ったのは、この屋敷を崩落させ、地下に彼らがたやすく来れる状況を無くすためだったらしく、全てはサングラスの神父が考えた策との事だ。
「しかしだな。
ベルッチはその前に逃げてくるじゃないか」
「そのために、私が戻って来たんじゃない。
でもまあ、その前にあんたが射殺してくれたから、それでいいんじゃない。
あ、それと、さっきはありがとうね」
「さっき?」
「後ろの敵を倒してくれたでしょ」
そう言うと、あすかはにこりとした笑みを残して、再び背を向けて、保管されているヒューマノイドの破壊に向かった。
一方のレオーネたちだが、三階まで攻め込みはしたものの、屋敷は階下から火の手が上がり逃げ場を失ったところに、オッタビアたちが多くのソルジャーたちとヒューマノイドたちを引き連れ、引き返して来た事で、戦況は一変した。
庭に残っていたレオーネ側のソルジャーたちを瞬殺すると、驚異的な跳躍力でまだ火の手が回っていない三階に飛び込んだヒューマノイドたちが、これまたレオーネたちを瞬殺し、ガンビーナの勢力を一掃した。
そして、ヒューマノイドたちにボスを探させ始めた時、屋敷は爆発音と共に崩落し、闇社会の頂上を目指そうとしていたベルッチファミリーの屋敷は、彼の野望の終焉を示すかごとく、地上に崩れ落ちたのだった。




