レーザー銃を持つ少女
さくらを奪還した俺たちは、ロレンツォ教会に戻って来た。
「お疲れさまでした」
ここの番人の男が、何ってこともなげに言った。
「これだけの人数で、成功するって思ってたの?」
正直な疑問をぶつけてみた。この男も何か知っているのかも知れないと思ったからだ。
「そりゃあ、これからベルッチの屋敷に殴り込みをかけるところだったんですから、ランディにだってできるでしょ」
この男もとんでもない事を平然と言った。
予想外の発言に、レイさんに視線を向けると、静かに頷いた。
「ヒューマノイドの技術をあの男の自由にさせる訳にはいかない。
知っていると思うが、ベルッチの屋敷のヒューマノイド開発拠点は、地下にあり、ここの地下とつながっている。そこを急襲し、全てを破壊する」
「人もね」
サングラスの神父の言葉にあすかが付け加えた。
「あんたたちの目的は、ヒューマノイドか?」
「レイたちの目的は、当然ロベルトの敵討ちだが、それにはヒューマノイドは邪魔な存在だ。
そして、私とあすかの目的は、開発拠点に保管されている起動前のヒューマノイドはもちろん、アーシア以外の起動済みの三体のヒューマノイドを破壊する事だ」
「どうやって?
さっき、その子は無理だって言ったはずだが」
「ロベルトが使った手は使えないと言っただけだ。
他の起動ずみのヒューマノイドはあすかが破壊する」
「マジかよ?」
確かに彼女は強い。だが、アーシアの動きは人では捉えられないほどの速さだ。あの速さに対抗できるとは考えられない。
「ヒューマノイドたちの実力を知って言ってるのかよ!」
「私じゃ勝てないって思ってる訳?」
すでに黒褐色に変色し始めている返り血に染まったセーラー服姿のあすかが、冷たい視線を向けながら言った。
「ねぇ、ねぇ」
返す言葉を見つけられない俺の背中をさくらがツンツンした。
「あの子のスカート、長いよね」
ふり返ると、小さな声でさくらが言った。
「だから?」
こんな時に意味不明な事を言っているさくらにちょっときつめの口調で言った。
「あの下に何が隠されていると思う?」
スカートの下?
足。そして、上に上がっていく。下着。その色は? 柄は? そして、その下に隠された……。
ちょっとむふふな妄想の世界に入っていた。
「今なんか、変な事考えてなかった?
私もセーラー服の方がよかった?」
「そう言えば、俺、お前の制服姿記憶ないんだが」
そうなのだ。てか、正確にはさくらと言う同級生の存在を知らなかったのだが。いや、てか、高校には三日ほどしか行っていないので、知らなくてもおかしくはないのだが。
「見たいの?」
すぐ近くで俺を見上げながらさくらに言われ、思わず生唾を飲み込んでしまった。
「やっぱ、変な想像してた?」
「私のスカートの中を見たいんだったら、そう言ったら」
さくらとの会話にあすかが割り込んできた。しかも、危ない発言でだ。
「見たいって言ったら、見せてくれるのかよ!」
彼女には押されっぱなしな気持だったため、ここは反撃のチャンスと感じた俺が強気で言った。
「まず見たいって言いなさいよ!」
「見たいんだよ!」
どうだ。見せれないだろ! そんな気分で言ってみた俺の目の前で、あすかは自分のスカートの裾に手を入れた。
何するんだ?
下着下ろしてから、見せてくれるのか?
なんて、自分の欲望に沿った期待をしている俺に、彼女はスカートの中から、何かを取り出した。
「なんだ?」
それは小ぶりなショットガン的な大きさで、形状的にはトリガーもあるんだが、銃口は何かガラス的な物で塞がれていた。
「レーザー銃よ」
「アーシアの腕についていたものを取り外して改造した」
サングラスの神父が言った。
「これかぁ」
思わず、俺は唸った。
鋼鉄の扉で守られた地下室に身を隠したエルカーンのボスを葬るため、アーシアが使った武器の威力は俺の記憶の中に鮮明に残っている。あの威力なら、ヒューマノイドを葬る事も可能なはずだ。
「ねっ。何か隠してたでしょ」
さくらが言った。もしかして、さくらは盗聴で、彼女が足にレーザー銃を隠している事を知っていた?
こいつは俺達の事も盗聴してるんじゃね?
そんな疑問と不安がこみ上げてきた。
「そう言えば、ベルッチファミリーの事を盗聴してたんだよな?」
「そうだよ」
そして、さくらはベルッチがロベルトさんを切る事になった経緯をザクッと話してくれた。それによると、コミッションの中でも最も力を持つコルレオーネの力を削ぎたいコッポラファミリーが、ベルッチに接触を図って来た。利害が一致した両ファミリーは密かに同盟を結んだ。だが、一つ問題があった。それがロベルトさんの存在だった。
ロベルトさんはコッポラと利害衝突するユリアーノファミリーとの姻戚関係にあったのだ。そして、ロベルトさんを切り捨てると言う要請が、コッポラファミリーから出されていたらしい。
その事をさくらはロベルトさんに伝えたらしいが、半信半疑で対アーシア戦の準備をするだけに留めていたらしかった。
「お前、俺たちの私生活も盗聴してんじゃないだろうな?」
全て話し終えたところで、さくらに聞いてみた。
「してないよ!
えっちな動画見てるところの声なんて、聞きたくないしぃ」
返す言葉が無いじゃないか。やっぱ聞いてるのか? と聞きたいが、単なる想像かも知れないし。
ともかく、俺の周りには、レーザー銃と言うとんでもない武器をスカートの内側に隠した無敵の少女と、盗聴器を仕掛けまくり、様々な情報を知りえているかも知れない怪しい同級生がいるのだった。




