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あすか強襲!

 ロベルトさんを失った俺たちが、一旦身を寄せたロレンツォ教会。そこから一人、外に出たさくらは、なぜだか謎の男たちに車に押し込まれ、俺の目の前で拉致られてしまった。


「大変だ!」


 ロレンツォ教会に俺は駆けこんだ。


「さくらが何者かに拉致られた」

「なんだって!」

「ファミリーの奴らか?」


 俺の言葉にみなが色めき立つ中、予想外の言葉が俺の耳に届けられた。


「あすか。助けに行ってくれるか?」


 そう言ったのは、サングラスの神父で、顔を向けている先にいるのは、セーラー服の少女だ。その子の名はあすかと言うらしい。だが、その子にさくらを助けに行けとはどう言うことなのか?


「分かりました」


 あすかの返事も予想外だ。さくらを助けに行く気なのだ。


「おい、何か誤解していないか?

 さくらを拉致ったのは、マフィアか何かだぜ」

「だから、何だって言うの?」


 俺の言葉に顔色一つ変えず、あすかは平然と答えた。


「まず相手を特定するか、あの子が連れて行かれた場所を特定しないと」


 そして、そう彼女は付け加えた。


「相手は分からない。

 だが、さくらの居場所を特定する方法はある。

 レイさん、いつも使っていたタブレットはあるかな?」

「ああ。持ち出してきている」


 レイさんが聖堂の片隅に置いてあった鞄の中から、俺が使っていたタブレットを取り出した。ロベルトさんが俺を拾ってくれた理由の一つは、俺のIT技術だ。

 日本での何もない生活に飽き飽きしていた俺は、インターネットの中でのいたずらに興味を持ち、その腕を磨いていた。タブレットの中に入れてある自作アプリを使えば、キャリアのシステムに侵入し、特定の携帯番号のおおよその発信位置を掴むことができるのだ。

 アプリを起動し、さくらの携帯番号を入力し、検索を開始すると、すぐにその場所が分かった。


「まだ車で移動しているようだ」

「だったら、すぐに追いましょ」


 あすかの言葉にレイさんが頷き、動き始めた。

 どうやら、レイさんもやる気らしい。少女一人だと心もとない。レイさんが加われば、少しは力になるだろうが、さくらを白昼堂々拉致るような輩相手では、それでも話にならないはずだと言うのに、レイさんに続いて歩き始めたサングラスの神父も堂々としていて、余裕ありな感じだ。その余裕の背景は分からないが、さくらの居場所を掴むことができるのは俺だけだ。俺も後に続いた。


 俺たちが乗ったのは大きめのSUVだった。運転するのはいつものようにレイさんで、助手席にサングラスの神父。後部座席があすかと俺だ。


「レイさん。コロンボ通りを西に向かっている」


 タブレットの画面を見ながら、レイさんにさくらの居場所を教えて行く内に、さくらが移動しなくなった。車が停車したのだろう。

 その場所にどんどんと近づいて行った。


「この辺りの筈なんだが」


 さくらが持つ携帯が受診しているGPS位置を元にしていないため、ざくっとした数百mでの特定しかできない。


「この辺りはコルレオーネと関係のあるランディファミリーの縄張りだ。

 ファミリーの屋敷も近くにある」

「なら、そこに行ってみるしかないでしょ」


 あすかは平然と言った。マフィアのファミリーの屋敷に乗り込むなんて、正気とは思えないが、やはり誰も反対しないでいる。

 黙って様子をうかがっていると、レイさんは高い壁で囲まれた屋敷の門の前で車を止めた。


「私も行こう」


 レイさんはそう言うと運転席から降り、車のバックドアを開けた。

 後部座席から降りたあすかもそこに向かうと、レイさんからマシンガンを受け取った。

 その表情に戸惑いも何も見えない。マジでやる気らしい。


「こんな事、前にもあったのか?」


 あすかの横に行き、聞いてみた。


「あなたの分」


 俺の質問は無視して、レイさんから受け取ったマシンガンを俺に渡して来た。

 俺は行くと決めてここに来た訳じゃなかったが、俺の同級生を助けに、無関係な女の子が行くと言うのに、俺が行かないと言う選択肢はあり得ない。

 半分どうにでもなれと言う気で、覚悟を決めた。


 ずしりと重いマシンガン。

 ここに来てからも、実際に自分がこんな銃器を手にしたのは、これが初めてだ。


「行くぞ」


 別のマシンガンをあすかに手渡し、バックドアを閉じたレイさんが言った。

 

 コルレオーネは、さくらに脅されている。コルレオーネと関係のあるランディファミリーなら、さくらを拉致る可能性は否定できないが、ここにいると言う確証はまだない。

 しかも、話し合いで解決と言う手段だってあるだろうに、最初から衝突する気満々にしか見えやしない。


 鋼鉄でできた大きな門扉の両側にある門柱には監視カメラが設けられていて、すでに俺たちの姿は捉えられているはずだ。だが、そんな事を全く気に留めてい無さそうに、あすかが門扉の前に立った。


「おい。

 もう迎撃準備に入っているかも知れないぞ」

「だから、何だって言うの?」


 平然と言ってのけたかと思うと、一瞬膝を曲げ、そのまま飛び上がった。

 俺は目を疑った。彼女の跳躍力は2m以上はありそうな門扉を越えて、屋敷の内側にその姿を消した。

 そして、そのまま激しい銃撃音が轟き始めた。


「レイさん!」


 彼女一人にする訳にはいかない。慌てずにいられない俺に対し、レイさんは落ち着いている。


「彼女が開けてくれるだろう」

「マジで?」


 鳴りやまぬ銃撃音は、彼女の無事を現わしている。そして、そんな彼女を信頼しているかのようなレイさんの態度から言って、あの子は歴戦の強者なのかも知れない。


 鋼鉄の門扉に阻まれ、何もできないもどかしい時間。

 長く感じた時間が、終わりを告げ銃撃音が止んだ。


「勝ったのか?」


 彼女の勝ちを祈りつつも、信じ切れず不安な時を過ごす俺の目に鋼鉄の門扉がゆっくりと動き始めた。

 

「行くわよ」


 開いた門扉の内側から姿を現わしたあすかの表情は平然としていた。

 無事でよかった。

 そんな思いを一瞬抱いたが、すぐに目の前に現実に一瞬恐怖した。

 あすかの背後に広がるのは、地獄絵図だった。ランディファミリーの屋敷の内側は、無数のソルジャーたちの死体が転がり、地面を血と損壊した肉塊が覆っていた。


「一体、何人を相手に戦ったんだ?」


 驚きの目であすかを見た。たった一人で、これだけのソルジャーを倒すなんて。

 まるで、ヒューマノイドじゃないか。

 白いセーラー服は返り血で所々赤に染まっていると言うのに、平然としている姿も、俺の頭の中では、初めて見たアーシアと重なっていた。


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