プロローグ
こんにちわっす! 俺の名前は藤堂社。どこにでもいる高校2年生だ。ある日いつものように日常を過ごしていた俺だが、ふとしたことがきっかけで異世界へと呼び出されたんだ。異世界は、俺の祖父である藤堂疾風が語っていた夢物語な世界で、聖剣と魔法と勇者が存在するファンタジーな世界だった。そんな世界で俺は早くも危険に晒されてしまうが、色々なことがあって、色々とあって、色々としちゃって! 何とか撃退に成功して今に至るわけだ。
「ここまでが前回までのあらすじだ」
「……ヤシロ。そっちには誰もいないぞ。誰に話しかけているんだ」
「誰だって? それは俺にもわからないよ。これは儀式のようだからね」
「さっき食べたきのこがダメだったようだな。だからあれだけ、拾い食いはしない方がいいっていったのにな」
途中、色々と端折ったのは面倒だからではない。内容を知っている方に、同じ内容を読んでもらうのは不憫だと思ったからだ。決して面倒ではない。これだけははっきりと事実だと伝えたかった。
「あれはキヌメリガサ。食用として扱われる安全なきのこだよ。だから、俺は極めて正常だよ」
「はぁ、それは余計に心配だな」
「え……? なんで? ちょっと待って。お願い、先にいかないでッ」
俺がこの世界に来てから大体三日経っていた。大体というのは、この世界の二日が現実世界での二日と同じであるかわからないからだ。朝日の出が上がり、日が沈んで夜になる。そういった時間の流れを考えれば、二回体験して、今日が三回目の日の出を体験したことになるというわけだ。うん、ちょっと自分でもめんどうな説明をしているなと思う。でもそれはしょうがないことだ。俺は、この世界のことを知らなすぎるから。じいちゃからちょっと話を聞いているからって、玄人ぶるのはよくないだろう。あくまでも憶測。この考えが大事だ。
「それにしても、意外と体力があるんだな」
セリンさんが後ろを振り向かずに言う。ずっと彼女の後ろをついて歩いているが、後ろ姿もとても綺麗で眺めていて飽きがこないものだ。しっかりとした銀色の鎧に全身が覆われているために、ほとんど露出が少ないが、見破るを使ったため、彼女のスリーサイズはばっちりと把握している。だからこそ、妄想が捗り飽きがこないのだ。なんといっても、セリンさんは見たことが無いほどの褐色肌の美女なのだ。
「まぁ、こういう山道は子供の時からよく歩いてからね。だから、こういう足場でも苦痛には思わないよ」
前置きが長くなったが、これが本当の理由だ。伊達に毎日ランニングも小学生の頃から続けていたわけではない。同年代の男よりも身体能力に優れている自信は十分にあった。もちろん最初は、勇者になるためなんていう恥ずかしい動機に違いなかったが。
「そうか。スキルポイントで強化されていなくとも、人間でそれほどだったとは。本当にもったいなかったな……」
「それは過大評価だよ。それに俺はこのスキルをちょっとだけ気に入ってるからね」
「……む? ヤシロ、さっきからどこを見ている」
「へ? い、いや。セリンさんのお尻なんて見てないよ、うん。退屈だからって、お尻を見て妄想なんかしてない!」
「はぁ」
セリンさんが大きなため息をつく。呆れてものも言えない、といった様子が伺える。ちょっとまずいかな、とさすがに思う。若干そわそわしながら彼女からの判決を待っていた。
「それで気を紛らわせられるなら、多少はいいが」
判決はまさかの白! しかも、圧倒的な許可まで出るほどの白! 俺は歓喜に酔いしれた。
「えっいいの!?」
「だが、私はお前を斬りたくは無い。ほどほどにしろよ」
が、やたらと冷めた眼差しで見られ俺は反省することにしたのだった。
「……すいません。以後気をつけます」
それ以降、俺はセリンさんの下半身を見ることは無かった……なんてことがあるはずも無く、辺りの景色が変わるまでひたすらに拝み続けたのだった。眼福眼福、と言わんばかりに。自分に言い訳などせずに堪能したのだ。そのかいもあってか、特に苦労を感じなかった。
「……おっ」
気がつけば、俺達は森を抜け、開けた草原へとたどり着いていた。なんかアフリカとかで良く見る光景だな、と思った。もちろん俺は、アフリカなんて行ったことなどないわけだが。この景色は今の日本で見ることができないだろうな、という自然に満ちた世界であった。
「もう少しで村へと着く。そこで一休みしよう」
「村、か」
俺の認識が間違っていなければ、村ってのは集合体のことだろう。これが元いた世界であれば特に悩むことも無く足を進めたんだろう。
だけど、この世界は違う。同じような人が同じような暮らしをしていることは無い。緊張感でいえば、中学の受験が終わり新しい高校に入った初日のような緊張感。不安でいえば、これまでに無いほどの不安を一身に感じる。
自然と足が止まる。音の違いを敏感に感じ取り、セリンさんは振り向く。
「どうした?」
「いや、別に。その」
「そうか。変わった奴だから、大丈夫かと思ったらそうでもないんだな。なぁ、ヤシロ。お前はいくつになる?」
「17才だよ」
「私の6つ下か。なら、無理も無い。私が無頓着だったのかもしれないな」
そう言って手を伸ばして俺の頭の上へと乗せた。手は左右に動いて、俺の頭を撫でる。
「心配するな。何かあれば私が守ってやる。言ったはずだ。私はお前の聖剣だと」
「……ッ!?」
何か得体の知れない気持ちがぐるぐると回りに回って、何て言っていいかわからない感情に襲われる。おまけに顔がやけに熱い。
照れているのだろうか、俺は。こういう感情は正直言ってあまりないし、認めたくない。これが男の性何だろうか。
「もう大丈夫だから! それよりも先を急ごう。日が暮れる前に村に付きたいから」
「そうだな、急ぐとしよう。ちなみに、そっちは違う道だからな」
「……わかってるよ」
セリンさんのおかげで、不安は無くなったわけだが、俺は村に着いてこの世界の問題とぶつかることになる。
なぜなら、この世界はひたすらに俺に優しくて。反対に、人ならぬ彼女に対して。どこまでいっても辛辣で、可哀そうになってしまうほどに厳しい世界であることを知ることになったから。