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接触2

帝国陸軍がロマニライ領内に踏み込んだ頃、シャウトフルク上陸作戦を実行すべく出撃した艦隊は目的地を目前にしていた。



「長官、総司令部より入電です。」


「読め。」


「はっ! 『陸軍ハ進軍ヲ開始。攻略計画ニ変更ナシ。作戦ヲ決行セヨ。』であります。」



艦隊を率いる龍人族のグラスト海軍中将は通信内容を聞くと即座に命令を下した。



「了解だ。砲撃用意‼︎」


「「「はっ‼︎」」」



各艦の主砲がゆっくりと旋回し、砲口を陸地へと向ける。同時に全ての艦が市街及びその周辺を狙えるように、港に対して弧を描くように艦隊の陣形が迅速に変えられた。



「全艦、砲撃準備が整いました‼︎」


「よし、撃ち方始め‼︎」



眩い閃光が一瞬視界を覆い、連鎖した砲声が幾つもの鉄の城を振動させる。


海軍軍人として何度経験しても高揚を抑えられない瞬間である。


目標が敵船でないことが些か残念だが、一個艦隊を動員した対地砲撃の壮観さはそう見れるものではない。


個々の軍艦が一糸乱れずに1つの意思を持つが如く砲撃を繰り出す様には、船に乗る誰もが興奮を隠しきれないだろう。


しかし軍務である以上は下された命令の遂行が優先だ。事前情報に基づき定められた目標に一通り砲弾がたたき込まれると砲撃の勢いが落ち、輸送艦から揚陸艇へ陸軍兵士が次々に乗り込んで陸地へと向かう。


さらに彼らの上空には、文字通り翼を羽ばたかせる飛行猟兵が見事な編隊を組んで陸へと飛行する姿があり、艦隊旗艦の艦橋からもその光景を見ることが出来た。



「長官、陸の方々が出立しました。」


「よし。以後の砲撃は上陸部隊からの支援要請に従って行う。味方に砲弾を打ち込むなよ。」


「「了解‼︎」」





◆◆◆





「司令、第一陣は上陸に成功。橋頭堡を確保したそうです。」


「後続はどうだ?」


「第二陣も間も無く出撃します。」



輸送船の一室にてシャウトフルク占領を担当する陸軍第三十八旅団司令官、ドワーフ族のロスター陸軍少将は作戦が順調な滑り出しで始まったことに笑みを浮かべいた。



「しかし勿体無い事だ。」


「は?」


「シャウトフルク領主邸はロマニライの初期に建てられた貴重な館だそうじゃないか。しかもあらゆる美術品の収集地だとも聞く。それを戦艦の砲撃で粉々に吹き飛ばすなど、芸術への冒涜と言うしかないな。」


「は、はぁ・・・。」



副官が戸惑い混じりに返答したところへ廊下から声がかけられた。



「仕方ないだろう。領主邸は軍の指揮所でもあるのだ。敵の指揮系統を混乱させるのに領主、いや王族領だから王子の側近の代理領主か、よりも効果的な目標があるのか?」



部屋の入り口に真っ白な海軍軍服を着た龍人族の男が立っていた。



「これはこれはグラスト艦隊司令長官殿。旗艦を離れてよろしいのですかな?」


「めぼしい目標には片っ端から砲弾を叩き込んだ。後は君ら陸軍が活躍する番であって、私の仕事は殆ど無いよ。」



帝国軍では士官候補生の教育を陸軍士官学校と海軍兵学校がそれぞれ担っているが、入学後一年間は同一の教育施設にて共同生活と共通課程の教育が行われる。ここで同窓となった者たちは陸海軍で離ればなれとなっても交流を保つことが推奨されており、ロスター少将とグラスト中将は同じクラスにて主席と次席の間柄であると同時に友人同士だった。



「そうか?少なくとも講話か首都占領の道筋が見えるまで本国から離れたこんな場所に居なければならんのだ。補給艦や交代の船の手配も片手間でできる事ではないだろう。」


「それを言うなら貴様こそ此処に居ていいのか?いくら敵が脆弱と言っても抵抗が全く無いわけでないぞ。それに多くの一般市民が居る中での上陸占領だ。障害物は多いだろう。」


「私が陣頭指揮を執らなければ行動出来ないほど部下たちは無能ではないぞ。仮に代理領主が生きていた場合だが、逃すことはまず無い。何せ上陸第一陣の先鋒はあの狂犬の部隊だ。一刻も早く優先義務を果たし、血の雨を降らせたくてたまらないだろう。」


「まさに吸血鬼の鏡とでも言うべきだな。アレを制御できる者などそれこそ彼女の弟か陛下ぐらいだ。」


「リーゼ近衛長官は・・・問題外だな。」


「あの二人の言い争いがエスカレートした結果が帝都騒乱事件での戒厳令の誤発だろ? 近衛憲兵庁や国防省に警察局、陸海軍司令部までたった二人に振り回される事態なんて、お偉いさん方にとっては悪夢だったろうな。」


「確かお前はあの時、航海演習で帝都に居なかったな。大変だったぞ、あの後の後始末は。」


「ははっ、愚痴はそのくらいにして陸に上がったらどうだ? 猟犬の手綱を握っているのはお前なんだからな。」






◆◆◆






「目標の身柄は抑えたか?」


「確保しました‼︎」


「よろしい。」



占領作戦を指揮する両指揮官が笑いを飛ばしているその頃、第一飛行猟兵連隊長シャリア・ブラウバルド中佐は部下の働き具合に満足し、背中から生える蝙蝠の羽を嬉しそうに羽ばたかせていた。


帝国軍内において狂犬、或いは吸血鬼の中の吸血鬼などと呼ばれている彼女は、幼い容姿とは裏腹に長い年月を闘争と破壊に費やしてきた生粋のウォーモンガーだ。


しかし彼女が軍に入ったのは比較的最近のことで、女児の姿で百数十歳という外見詐欺もいいところの年齢の割には、現場志向の本人の希望もあって階級はそれほど高くなかった。



「ん?」



そんなブラウバルド中佐は優先目標だった領主の確保を果たして上空監視に移った直後、郊外の丘に建つ屋敷に違和感を感じた。


記憶を辿り優先度の低い目標だと再認識するが、何故か抱いた違和感は拭えなかった。



「あの屋敷を捜索する。第一小隊は私に続け。残りは引き続き地上軍の援護だ。」


「「了解‼︎」」



飛行猟兵は通常、四名で分隊、三個分隊十二名で小隊、三個小隊三十六名で中隊、二個から四個中隊で大隊、二個大隊以上で連隊を形成する。

無論編成上の都合などによって人数は上下するが、それでも歩兵部隊と比べると少数精鋭と言って良い。


そんなブラウバルド中佐に率いられた飛行猟兵小隊は上空から一気に降下し、屋敷の正面玄関と二階部分から屋内に侵入した。



「何か見つけたか?」


「いえ、目ぼしいものは有りません。」



しかし一人の人影すら見つからない状況に、部下たちは中佐に戸惑いの目線を向けた。


だがその直後にブラウバルド中佐は一瞬硬直し、近くの扉をいきなり蹴破った。



「中佐殿⁉︎ どうされたのですか⁉︎ 」


「見ろ。」



そこには地下へ下る階段があった。



「行くぞ。来い。」


「はっ‼︎」



階段を駆け下り、下った先の扉も飛び蹴りで開けて地下室に踏み込むと、メイドや料理人らしき者たちに加えて、明らかにロマニライ人とは異なる男性達が居た。



「貴様らは何者だ?」



ブラウバルド中佐がロマニライ語で問い掛けると男達は戸惑う表情を見せた後、男の1人が意を決した様にゆっくり立ち上がった。



「我々はロマニライに来た外交官だ。抵抗の意思はない。」


「どこの国のだ?」


「日本という国なのだが・・・」


「ニホン?聞いたことも無いぞ。」


「その様な見え透いた嘘で我々を欺けると思っているのか!?」



部下が叫びつけて威圧するが、ブラウバルド中佐は腕を伸ばして部下を制止した。



「我々はヴァンセス帝国軍だ。シャウトフルクは我が軍が制圧しつつあるが、抵抗しなければ危害は加えないと約束しよう。拘束はさせてもらうが。」


「・・・分かった。」


「よし、ロスター少将に報告。目標2-16にて外交官を名乗る一団を確保、拘束した上で捕縛した領主と共に橋頭堡へ連行すると。」


「宜しいのですか、中佐殿?」


「私は余計な責任を負いたくない。またリーゼが出張ってくると面倒だからな。それよりさっさと報告を済ませろ。」


「はっ‼︎」



ブラウバルド中佐が振り返ると男たちは驚愕の表情をしていた。



「に、日本語を話して・・・・」


「貴様、公用語が分かるのか?」


「公用語?」


「帝国公用語が分かるとは驚きだな。まあいい、手首を縛ってさっさと向かうとしよう。」



シャリアの容姿は幼●戦記のター●ャの本物の吸血鬼バージョンの様なものを想像してます。

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