接触
「またしても負けたというのか!?」
ロマニライ王国第一王位継承者、カートル王子は報告をしてきた側近の男に怒鳴り散らした。
亜人の集団だと見下していた存在に次々と敗北、旧ハイラット領から事実上退却した事実に王子の怒りは頂点に達していた。
「相手は醜い亜人の集まりだろう⁉︎ ハイラットを解放するどころか追い返されるなど、軍はそれほどまでに無能なのか⁉︎ 」
カートル王子は武勇に秀でた次期国王として有名だった。政治に関しても全くの無能ではないのだが非常に癇癪持ちであり、己の期待する答えが返ってこなれば怒鳴る蹴るどころか抜刀することさえあった。
「とにかく兵だ‼︎ 貴族どもが出し渋る兵をもっと掻き集めるのだ‼︎」
王子はその唯我独尊な性格で貴族達から少なからず反感を買っており、ヴァンセス帝国との開戦も独断に近かった為に積極的な出兵が拒まれるようになっていた。
◆◆◆
ロマニライ王国 港湾都市シャウトフルク
「・・・・うまく友好関係を築けたと思いきや、いきなりきな臭くなってきたな。」
ロマニライ王国から貸し与えられた屋敷にて日本国外務省の職員、黒田晴信は憂鬱な気分になっていた。
彼のような日本の外務官僚が異世界に居る理由は、半年ほど前に福島県沖の太平洋上に西洋風の鳥居とでも表現すべき巨大な門が突如として出現した所から始まる。
大型客船でもくぐれそうな大きさの門が何の前触れもなく現れただけでも大騒ぎとなるのだが、その門からドラゴンが出てきた時には世界中が腰を抜かしただろう。
ドラゴンは手負いの状態で出てきたのだが、何と付近を航行していた船に炎を吹いたのだ。幸いにして炎は船を傷つけることはなく、ドラゴンは力尽きたように海面へと落下した。
とても放置出来るような代物でなくなった門の調査を徹底的に行った結果、異世界と繋がっている事を知った日本政府は門の向こう側への調査団派遣を決定。
大気や海洋の分析を進める一方でロマニライ王国との平和的な第一次接触に成功し、外交関係の構築に乗り出した。
護衛艦は混乱を避けるためにシャウトフルクから離れた海岸の沖に停泊し、外交団はそこから陸に上がって市街地郊外の丘の上にある屋敷に入っていた。
交渉は驚くほど順調に進み、近々試験的な貿易も始められるかという段階まで辿り着いた矢先に、ロマニライ王国軍のハイラットへの出兵が始まった。
「この前まで日本の軍事的な関与を拒もうとしていたのが、最近になって手のひらを返したように協力を求めてきました。」
日本の技術力の一端を見ていたロマニライ王国には自国が取り込まれるのではと危惧していた節があり、余計に武器輸出の解禁や限定的な参戦を求めてきた時は日本政府を困惑させた。
「それだけヴァンセス帝国とやらが手強かったという事か。」
「しかし戦争への関与など我々には許されるはずもありません。」
「当たり前だ。日本政府は此方の世界で自衛隊が軍事行動を取る事を望んでいないと王国側には改めて伝えたが・・・」
詳しい戦況は分からないが、今後の流れ次第では日本も戦争と無関係ではいられなくなる。
そんな危惧から外交団の一時引き上げも含め今後の方針について上役に提案する稟議書を作成しようと黒田が席を立った直後、複数の爆発音と地面の揺れに見舞われた。
「な、何だ!?」
その場に居た全員が慌てて窓に駆け寄る。
「おいおい、洒落にならんぞ‼︎」
複数の煙を登らせるシャウトフルク市街、その沖合からは第二次世界大戦時代の軍用艦に酷似した艦船が艦砲射撃を行なっていた。