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ハイラット王国エスペルダ岬沖



「岬を通過すれば亜人共の土地は目と鼻の先か。」


「提督、その言いようでは亜人が治めているかのように聞こえます。奴らは王国が統治すべき土地を不当に占拠する野蛮な連中ですよ。」


「はいはい、了解いたしました。」



ハイラット王国海軍の主力は国家から承認された海賊、つまり私掠船であった。王国は敵対国への海賊行為に対するパトロンとなる代わりに略奪品の3割程を献上させ、国家予算の貴重な財源としていた。


これは大航海時代の英国と少し似ている。その頃のヨーロッパでは海賊行為が当たり前のように行われており、各国のは規模の違いこそあれど互いに略奪しあっていた。その中で英国は海賊行為を国家事業として進め、私掠船の承認を受けた海賊達は略奪した物資の20パーセントを国庫に納める義務を負っていた。

かのスペイン無敵艦隊を打ち破った英国海軍のドレイク提督も元は海賊だったが、エリザベス女王に重用されて提督にまで上り詰めている。エリザベス女王はドレイクの海賊行為をバックアップし、時には1回の海賊航海で国家予算1.5年分の富をドレイクから手にした事もあるのだ。





「前方に船影を確認‼︎」



報告を聞いた乗組員達はいつもと同じ様に略奪と殺戮を期待して獰猛な笑顔を浮かべたのだが、直後に凄まじい弾着音と水柱に襲われた。






◆◆◆





帝国海軍 第三艦隊旗艦・重巡洋艦『クレナイ』



「砲術科の連中は随分と張り切ってるな。」



旗艦の重巡洋艦を含む各艦の主砲や副砲から次々と砲撃が行われる中、帝国軍の中では数少ない人間の高級将校である第三艦隊司令長官のユウト中将は軽く笑いながら蜥蜴人族の幕僚に話しかけた。



「久々の実戦ですからね。張り切り過ぎて暑苦しいぐらいです。」



帝国と長年敵対していた海洋国家を打ち破って以来、海軍には華々しい活躍が無かった。


そのため日々の厳しい訓練の成果を実感出来る戦争は不謹慎であると分かっていても、船乗りにはある意味で喜ばしいものだった。



「敵艦隊が進路反転‼︎ 逃げる気です‼︎」



見張員の報告を受けてユウト中将が双眼鏡を覗くと、確かに生き残っている帆船が必死に旋回・逃亡しようとしていた。



「駆逐艦を先行させ退路を断て。帆船の敵をとり逃がしたとなれば我々の評判はガタ落ちだという事を忘れるなよ。」


「「はっ‼︎」」



ユウト中将の命令に参謀達は笑みを浮かべながら答えた。






◆◆◆






ハイラット王国最大の要塞都市である首都ユラステルは、表面的には変わらぬ日常が繰り返されていた。




「それはどういう事だ?」


「申し上げた通り、王都を一度離れるべきです。父上。」



首都の中心に鎮座するユラステル城。その主人である国王の執務室に2人の人間の姿があった。


1人は当然のことながらハイラット王だが、もう1人はその娘で第二王女のエミリエだった。



「ヴァンセス帝国と名乗る彼らは単なる亜人の集合体などではありません。最悪の場合、王都は一月で落ちます。」



エミリエは国王である父に向かって真摯な表情で言い切った。



「本気で言っているのか?」


「冗談の類いで王都を離れるべきだと私が口にするとお思いですか?」


「・・・・・・・理由を言ってみよ。」


「昨夜、王国北東の都市グラバンに居る友人より通信具にて連絡があったのです。」



通信具とは魔法の存在するこの世界での長距離通信機器の事だ。


伝令や伝書鳩が主流の時代にあって画期的な通信手段だが、材料の貴重さや高度な魔法技術が必要などの理由で軍隊ですら普及していなかった。



「それによれば、既にグラバンは帝国軍の手に落ちたそうです。」


「何・・・⁉︎」



この時点でハイラット王は、王国軍が帝国領内に深く入り込んでいるものだと考えていた。



「帝国は中規模の城郭都市を数日で陥落させる程の兵を優先度の低い都市に差し向けたのです。」



グラバンは鉱山採掘の拠点として築かれた都市だが、僻地である事と採掘量の減少が重なって最近は重要性が薄れていた。



「これの意味するところは・・・・少なくとも侮れない規模の兵力と統率力を備えているという事です。」



直接口に出すのは控えたが、帝国領への侵攻軍が退けられ、更にグラバンを占領した軍勢とは別の主力が王都へ向かっている可能性があるとエミリエは父に警告した。



「将軍たちは余に何も報告を上げておらんが?」


「恐らくは伝令が未だ王都に来ていないのでしょう。そうでなくとも数万の軍勢送りながら撃破されたなどと父上に申すでしょうか?」


「・・・・・・・・」


「国王陛下!」



二人の沈黙を打ち消すように側近の男が駆け込んできた。



「何事だ。」


「そ、それが先ほど・・・帝国へ攻め入った我が軍が敗走し、艦隊も壊滅したとの知らせが・・・」


「馬鹿なっ!?」



ハイラット王は思わず立ち上がった。



「父上・・・」


「・・・分かった。直ぐに支度をするぞ。」




ハイラット王が一族と重鎮の貴族達を引き連れて海へと出た半月後、帝国陸軍はユラステルを占領した。



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