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急展開



幾度かの実務者協議を経て、遂に帝国から日本への視察が実現する日がやって来た。


再びトラク諸島にて双方の国の船が邂逅することとなったが、その間も諸島の基地化工事は昼夜を問わず進められ、簡易とはいえ飛行場の稼働も近日中に可能となる程であった。


島々の軍事区画だけでなく、貿易輸送の中継地としての港湾整備も順調に進んでいる。



日本側が帝国の行動の早さに改めて驚愕させられていると、巡視船に日本視察を行う帝国政府の代表者が乗船した。



「どうぞ宜しくお願い致します。」



最初に挨拶した視察団代表のエルリランス・ブローニル 外務省 総合政策局 政策企画課長を始めとし、当初の予定より参加者が増えて以下の役職の者が連なる。


外務省 領事局 政策課長代理

内務省 自治局 行政監督課長補佐

内務省 報道局 調査課長補佐

商工省 産業政策局 政策課長

商工省 通商局 貿易課長補佐

大蔵省 大臣官房 政策課長補佐

武官2名


各々の文官が一言づつ挨拶してから、武官の2人の自己紹介に入った。



「帝国軍参謀本部より参りましたナカハラ少佐と申します。」



日本人のような名前だが、頭からイヌ耳が生えている男性だ。しかし最も異彩なのが最後に名乗った人物だった。



「シャリア・ブラウバルド中佐であります。」



日本側の全員が反応に困ってしまった。何故なら目の前に居る存在はスーツを着てはいたが、どう見ても小学校低学年程の背丈の少女だったのだ。



「若干一名に困惑して居るかとは思いますが、この場に居る者は帝国政府を代表する者としてその能力を認められた者達です。ましてや年端もいかない幼女を派遣するなどあり得ませんので、ご安心を。」



ブローニル課長が説明を付け足す。年齢的には大丈夫だという事なのだろうが、日本側の戸惑いを拭うものではなかった。


その後、巡視船はゆっくりと動き出し、門へと船首を向けた。





◆◆◆





福島県いわき市の小名浜港より秘密裏に日本へ入国した一行は、日本政府の手配した車両で常磐自動車道を南下し、夕方には東京へと到着した。



「これが・・・日本・・・」


「日本人は嘘を言ってなかったという事だな。」



エルリランス達は存在感を大いに放つ高層ビル群に圧倒される中で、特に恐怖も緊張も含まない声を耳にした。



「・・・中佐、よく平然として居られますね。」


「別に戦争を仕掛ける訳でもないのだ。そこまで恐れずともいいだろう。」



国力差から今後の外交への不安を滲ませるエルリランスと、軍事衝突の可能性が低いからこそ心に落ち着きを保っているシャリア。


帝国という1つの国でも目的やその為の方策は属する組織によって異なり、それ故に脅威と感じるものも違うということを象徴している。


とは言ってもシャリアは、万が一日本と帝国が武力衝突した場合、自衛隊に対して帝国軍がいかに行動すべきかも思案しながら東京の景色を眺めていた。





◆◆◆





都内を回った後、一行を乗せた車両は日本の用意した歓迎会の会場へと向かった。



「ささやかですが、これから夕食も兼ねて皆様の歓迎会を行いたいと思います。」



帝国の存在はまだ非公式のため大っぴらに歓迎会を行うことは出来ず、日本側も参加者を絞って行われた。



「この様な粗末なもので誠に申し訳ないですが、貴国のことはまだ内密で有りますので・・・」


「とんでもない。寧ろこの様な配慮をさせてしまい、申し訳無く思います。」



双方の参加者にコップを行き渡せる中、ブラウバルド中佐へコップを渡そうとした日本側の参加者は戸惑った。



「あの・・・大変失礼だとは重々承知しているのですが、本当に成人なさっておられるのですよね?」


「中佐殿は小官よりも年上であられますよ。」



シャリアの代わりにナカハラ少佐が答える。



「私が歳を気にする女でなくて良かったな。そうでなければ、今頃は病院へ搬送中だろう。」



全員にコップが渡り、酒が注がれた所で日本側の代表者がブローニル課長に乾杯の音頭をとるよう促した。



「視察の受け入れだけでなく、この様な催しまで開いていただき、本日は誠にありがとうございます。帝国と日本、両国の発展と友好を願って、乾杯!」


「「「乾杯!」」」



最初は遠慮しがちな雰囲気だったが徐々に身の上話などもするようになり、打ち解けた空気となっていった。



「なるほど。お父上は軍人でらっしゃるのですか。」


「ええ。父は私を軍に入れたかったようなので、外務省に入省が決まった時は怒鳴り合って喧嘩したものです。」


「そうですか。実は私も親から家業を継げと言われていたのですが、公務員になると親に告げた時はふざけるなと叱られました。」



エルリランスは自身の話を話題として持ち出すなど、場をより盛り上げた。



ざわざわ・・・ざわざわ・・・



歓迎会が始まり暫く経過した頃、会場の一角が何やら騒ぎ出した。



「・・・あれだけ呑んで平気なのか?」



そこでは、シャリアが用意された酒類の半分以上を飲み干していた。



「どれも悪くない。ビールもそこそこ美味かったが、私は日本酒が好みだな。日本との行き来が簡単に出来るのなら、直ぐにでも休暇を申請して日本各地の酒を買い占めたいものだ。」



呆れ顔のエルリランスが近づく。



「ブラウバルド中佐、流石に飲み過ぎですよ。一応は外交の席だという事を自覚して・・・」


「そう言うブローニル課長こそ、随分と寿司を平らげていたではないか。外務省一の食欲女という異名をこんな所で発揮しなくてもいいだろうに。」


「そ、それは・・・何と・・・申しますか・・・」



結局その場は有耶無耶に終わり、歓迎会も終わりに近づいていた。



「本日は誠に有意義な1日となりました。本当にありがとうございます。」


「いえいえ。今後はお互いに苦労も多いとは思いますが、宜しくお願いします。」



双方の参加者が終わりを惜しんでいた時、シャリアは化粧室に足を運んでいた。



「日本は便所に凝り過ぎだろ。使い心地が良すぎるわ。」



軽くふらつきながら会場へ戻ろうとしたシャリアは、背後に気配を感じた直後、意識を失った。




◆◆◆




「ーーッ〜〜〜。」


「〜〜。〜ーーー〜〜。」



(・・・全く、只の人間に攫われるなど、私も鈍ったものだな。と言うか調子に乗って呑みすぎたか。)



常人が一晩に呑んだらアル中で病院送りになる量を飲酒しておきながら、シャリアは冷静に状況分析していた。



(何を話しているかは分からんが、荒事に慣れた者たちの様だ。)



周りを見渡すと、何かの廃墟の中に居るようだ。自分の体は手足に縄を掛けられているらしい。



(・・・仕方ない、か。)



魔力を集中させ、気付かれないように縄を切る。


側に立っていた男が異変に気付き、何か言葉を発しようとしたが、その前にシャリアは駆け出した。



「お招きどうも。そしてさようなら‼︎ 」





その日、都心から少し離れたある廃工場にて轟音と共に光が炸裂した。



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― 新着の感想 ―
あー!さては外国の介入だな!
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