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帝国へ2




帝国海軍の最大拠点であるサクラハマ軍港を目にした面々は、予想を超える軍港と艦隊の大きさに驚愕した。


軍港内には数隻の戦艦クラスの軍艦に加えて多数の巡洋艦や駆逐艦も停泊しており、更に造船ドックや砲台も視認できる。


日米の横須賀基地を合わせてもなお上回るのではと疑いたくなる程の規模だ。さらに埠頭と隣接する海軍工廠と思しき工場群も遠目に見えるが、下手をするとかつて東洋一と呼ばれた旧日本海軍の呉海軍工廠にも匹敵するのではと思える。



「・・・壮観だな。」


「帝国を過小評価し過ぎていたと言うべきでは?」



副長に指摘された小野田艦長は自虐的に笑った。


艦長のみならず艦の大半の人間が、異世界では最先端国家でもヴァンセス帝国は日本より劣っていることに変わりないと多かれ少なかれ思っていたことは否定できない。


確かに技術レベルの差が歴然である以上は帝国が日本と敵対しようとも対処は可能だ。


しかしこの光景を見て帝国海軍と積極的に交戦したいとは誰も思わないだろう。最大の港とは言え1つの軍港にこれだけの軍艦が集まっている事を考えると、帝国海軍の総力は想像を絶する。


自衛隊から見れば装備も組織も旧式の更に旧式と言って良い帝国海軍だが、これだけの量的戦力と真正面からぶつかり合う、つまり帝国との決定的な対立は可能であれば避けたい。


しかしその様に小野田艦長達が分析していたところへ、甲板から艦橋に戻ってきたウルス中佐がある意味で爆弾を投じた。



「どうやら空母はサクラハマ港を離れているようですね。」


「ッ!? 」


(空母まで造っているのか!?)



艦橋に居た自衛官は一様に驚愕した。考えてみれば航空母艦だけでなく戦艦を建造している時点で、二〇世紀初頭の地球なら列強の一員としての地位を占めている。


自衛隊と帝国海軍が衝突しても自衛隊の優位は揺るがないだろうが、仮に水上艦艇や潜水艦に加えて空母艦載機や陸上機などの航空戦力も考慮するならば、単艦での戦闘は厳しくなり、少なくない数の護衛艦を投じる必要があるだろう。



「ふふっ、空母の存在にはそれ程まで驚かれるのですね。」



ウルス中佐はまるで獲物をなぶる猫のような目つきで自衛官たちに微笑み、小野田艦長は軽い冷や汗をかいた。






◆◆◆






『はつせ』が接岸した埠頭には縁に沿って多数の軍人が敬礼しながら整列しており、その光景は下船しようとした外務省の職員や自衛官をたじろがせた。


気後れしつつも外交団と『はつせ』の主だった幹部がタラップを恐る恐る降り、ウルス中佐達帝国海軍士官も下船したところで、階級の高そうな猫族の軍人が歩み寄って来た。



「ようこそお越しくださいました。自分はサクラハマ鎮守府司令長官を務めるマルディロ・ウルス海軍中将です。」


「ど、どうも。出迎え感謝いたします。」



いきなり海軍中将の出迎えを受けて困惑する外交団に対して、ウルス中将は真面目な表情から急に笑顔になった。



「ところで、そこの娘っ子たちは何か粗相をしませんでしたか? 年が若いので何か失礼をしていないか心配でして。」



質問の意図を読み取れない日本側だったが、『はつせ』の副長が返答した。



「そのようなことはありませんが。」


「それを聞いて安心しました。特にそこの三毛猫娘は昔から周りを揶揄うような所がありましてね。内心ヒヤヒヤしていたのですよ。」


「フフッ。閣下、そのような言い方は不愉快極まります。」



ウルス中佐は心外だと抗議するが、その顔はおふざけを楽しんでいることが分かる。



「おや、そこの中佐と私についてお聞きにならないのですか?」



中将と中佐のやり取りにどう反応して良いか分からずに呆然としていた外交団は抱いていた疑問が一つ解けた。



「ということは、やはり・・・」


「御察しの通り、私はそれの父です。外交団の皆様がお戻りになるまでの間は娘が貴船との連絡係を務めるので、何かありましたらそれに用件を申し付けて下さい。」



佐官で自分の娘を使いっ走りにするというウルス中将の言葉に若干驚いていると、彼の背後から声が掛けられた。



「中将閣下、よろしいでしょうか?」


「ああ、後は諸君らの仕事だ。」



ウルス中将の後ろから黒い軍服のような制服に身を包んだエルフの青年が入れ替わるように前に出る。



「外交団の皆様の案内と警備を仰せつかりましたルーキンスと申します。これより帝都皇城までお連れします。どうぞ此方へ。」



日本外交団はルーキンスというエルフに乗用車の車列へと案内され、車列に沿って彼と同じ黒軍服姿の集団が直立不動で整列している光景に再びたじろぐ。


戸惑いつつも外交団一行は乗用車に乗り込み、サクラハマ鎮守府を後にした。





◆◆◆





「ようこそ帝国へ、皆様の来訪を心より歓迎します。私は外務大臣を務めるサトナカと申します。」



皇城の正門で儀仗兵と共に外相が出迎えたことに何度目か分からない衝撃を受け、外交団は皇城の敷地内へと案内された。


庭園を横目に先頭をサトナカ大臣、周りをルーキンスたち黒軍服が歩く。





皇城の中に入ると、其処はまさに豪華絢爛を具現化した空間だった。


玄関ホールには巨大なシャンデリアが吊るされ、床から壁や天井、階段の手すりにまで職人の手によるであろう精細な趣向が施されている。



「どうぞこちらへ」



誘導された廊下を進み、一際大きく細部まで彫刻が彫られた両扉の前で大臣は歩みを止めた。



「此処が謁見室となります。」



この奥に皇帝が待ち構えている。外交団が息を呑んで身構えた直後、扉がゆっくりと開かれた。




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