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リリア家の秘密 その二

「ナナの相手は条件に当てはまっている娘という事なのか……?」


 話の流れからそういう事なのかと考えたが、ナナは違うと首を振った。


「彼女の両親は確かに別の場所から移住してきた人たちですけど、ルフレム国の人ではありませんよ。確かルディランデ王国からの移住者だって聞きました」


 確かにルディランデ王国からの移住者はこの国には多い。そのルディランデ出身者は騎士だけでなく一般人もルフレム国を敵視している傾向にある。『国』というよりは『国王個人』と言った方が正しいだろう。何故なら、彼の国は滅ぼされる五年前に友好の証として王家の姫をルフレム国王に嫁がせていたのだ。それなのにルフレムの国王は友好協定を反故にしたばかりか、ルディランデ王国を領土拡大の目的で滅ぼした。それだけならまだしも、跡継ぎとなる王子を産んで王妃となっていたその姫をあろうことかルディランデ王国を滅ぼした三年後にその身一つで城から追い出したというのだから、王家を敬愛していたルディランデの民たちの怒りと憎しみは相当だと言える。


 そんな事情もある中で、ナナがルディランデの娘を妻に迎えて大丈夫なのだろうかと心配になる。

 ナナとその相手が不利益を被らないといいがそういう訳にもいかないだろうと思う。


 しかしそんな俺の考えを知ってか知らずか、ナナは至って普通に微笑んでいた。


「彼女の両親はそれはもうルフレムのバカ王の事を毛嫌いしていますからとっても気が合いまして。きっと義兄さんも会えば意気投合すると思います」

「俺はそこまでルフレム国王に関心はないんだが……」


 何故ナナまでもがルフレム国王を敵視しているのかは分からないが、俺としては余計な仕事を増やしやがってという恨みはあっても基本的にはどうでもいい部類に入る人物なので、あの王がこの先どうなろうと全く興味はない。


「リリとナナは婚姻の条件を満たさなくても良くなったという事ならその方がいいのだが……」

「残念ながら、そういう訳ではありません」


 答えを訪ねるようにナナを見れば、ナナは少しばかり翳りのある笑みを浮かべた。


「国が二つに分かれてもう五百年くらい経ったというのに、リリア家はずっとその条件に従って婚姻してきました。それが僕らの代になって突然なくなるわけがないんです。でも父さんは自らの意思でそれを破りました。だから僕もそれと同じ事をしているだけです。でも姉さんは女の子だからそれができなかった」


 あまり良い方法ではないが、リリア男爵殿やナナは好いた相手と結婚したとしてもその後で条件に見合った女性を第二夫人にでもすればそれで事態を収める事ができる。しかしリリは他家に嫁いでいく身だ。そんなリリが条件に反した婚姻をしようものなら双方の国が口を挟んでくる事は容易に想像できる。


「僕や父さんみたいな事をしたご先祖様もいたみたいなんですけど、それができたのは男だけ。リリア家に生まれた女の子は必ず条件に従って嫁ぐしかなかったんです。とはいえ、リリア家には滅多に女の子は生まれないみたいで、十代遡っても女の子が生まれた記録は残っていません。でも、滅多に女の子が生まれないからこそ、たまに生まれる女の子を両国は挙って欲しがるんです。この状況で好きになったからという理由だけで姉さんが両国とは全く関係ない人に嫁げると思いますか? もし条件に合わない相手で尚且つ出身がアムリア国でもルフレム国でもなかった場合、相手が可哀想な事になるのは義兄さんだって予想できるでしょう?」


 ナナがチラリと宰相たちの方へと視線を向けたので俺も同じようにそちらに視線を向ける。すると、陛下、宰相、殿下の三人は揃って俺からバラバラの方に視線を逸らした。


 ちょっと待て。条件を満たしている俺でも気に食わないというのかこの三人は!?


「別に何をしても構いませんが、それなりの覚悟を持って挑んで来て下さいね」


 とりあえず牽制だけはしておこうと思ってそれを告げると、殿下が言葉を返してくる。


「いやだなあ。僕たちはみんなディートルトがリリの相手になった事はちゃんと認めてるよ?」

「……それならいいのですが」


 殿下のニコニコ顔がこの上なく胡散臭く見える。

 認めていると殿下は言うが、心の底からそう思っているのかと言えば絶対に違う。


 リリア家の女性が両国にとって価値ある存在というのは確かだろう。滅多に女児が生まれないというし、リリア家に誰かを嫁がせるよりリリア家から嫁いで来てもらえる方が旧王家の血を取り込む事ができるのだから、殿下がリリを妃にしたがった事には納得できる。

 今尚条件に従っての婚姻がなされているというのなら、両国は今でも旧王家の末裔に拘っているのだろう。そうであるのなら、リリア家に娘が生まれた場合は王家に嫁ぐ以外の選択肢などなかったのではないかと思う。


 現在アムリア国、ルフレム国共にリリの年齢に見合った王子がいる。そんな中で王子たちを差し置いてリリを妻に迎える事ができる確率はゼロに等しい。そんな確率で俺はリリを妻に出来たのだ。

 リリを妻に迎えたばかりの頃は奇跡のような出来事だと思っていたが、本当に奇跡だったのだと今思い知った。


「確かに昔は王家だったかもしれませんが、今のリリア家は単なる下級貴族でしかないんです。それなのに古い因習だけが今尚残ってるのはおかしいと思いませんか? 何より、側近二人の条件を呑んだ王様は自分だけ好きな人と結婚したって言うのにその子孫の婚姻を限定しやがったんですよ。そんな理不尽がまかり通るかっていう話じゃないですか!」


 話ながら憤りを感じ始めたのか、ナナは陛下たちに向かい少々非難めいた視線を送っている。


「それを俺たちに言われてもな」

「そう言うならこんな因習さっさとなくしてください。伯父さんたちなら簡単でしょう?」

「そう簡単な話じゃない事はお前も知ってるだろうに」


 ナナの言い分も分かる。

 古の王は子孫の婚姻を犠牲にして自由を手に入れたのだから、その子孫であるナナが身勝手だと怒るのは無理もない。


 しかしながら、長く続いている因習というものはそう簡単には廃せない。アムリア国だけが関わっている事なら今この場で抗議すれば何とかなる可能性もあるが、事はルフレム国も関わっているため、そう簡単にどうこうできる問題でもないのだ。双方が納得して廃する事に合意しない限りは、この因習はこの先も続いてしまうだろう。


「そんな理不尽な因習のせいで、姉さんは生まれた瞬間にルフレムの王子殿下と婚約が決まってしまいました。王族だって生まれた瞬間に婚約なんて話はないって言うのに」


 予想はしていたが、それを聞いてしまうと嫌な気持ちになる。


 現在リリア家の血統はアムリア側に傾いている。そんな中でリリア家に女児が生まれてしまえば、必然的にルフレム側の誰かと婚姻する事になる。

 現在ルフレム王家には王子が一人いるだけだ。王子の年齢もリリより五つ上という事もあり、生まれながらにしてリリがルフレムの王子と婚約しなければならなかったという事は理解できる。理解はできるが、物凄く不愉快だ。


 リリは既に俺の妻となっているため、王子との婚約の話は既に解消されたのだという事は分かる。何故解消されたのかという部分はまだ分からないが、話の流れから何となくナナが言わんとしていることは分かってしまう。


「義兄さん。この婚約、今はもう綺麗さっぱり無効になったと思いますか?」


 真っ直ぐに視線が向けられ、やはりか、と胸の内で呟く。

 ナナが陛下や宰相を交えて話したいと言ったその理由は、そういう事だったのだ。


「義兄さんの方がよく分かっていると思いますが、ここにいる人たちは自国のためなら誰でも駒にするような人たちです。たとえそれが姉さんであっても」

「……」


 分かっている。

 俺もそうやって国を守ってきた一人なのだから。


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