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ドレスの事情

 ディー様との呼び名問題も解消された数日後、青い顔をしたライル様が私を訪ねていらっしゃいました。


「夜会ですか?」

「そう。今度俺の家でやるの。それに夫婦揃って参加して欲しいんだ」


 ライル様から受け取った夜会の招待状をまじまじと見つめながら、私は少々胸の高鳴りを覚えました。


 ディー様と一緒に夜会に参加するという事は、私はディー様の妻として参加するという事です。ああ緊張します。でも楽しみです。


「私は参加したいのですが、ディー様に伺ってみない事にはお返事できません」

「大丈夫! リリちゃんが上目づかいでお願いすればアイツ絶対頷くから! むしろそうやってディートを引きずって来て! そうじゃないと俺の未来が大変な事になるから!」

「大変な事?」


 私たちが参加しなかったらとライル様はどうなってしまうというのでしょう。ライル様の青い顔と尋常じゃない程の焦りようを見ますと、よほどの事が起こってしまうと予想されます。


「ディートにだって関わる問題なんだよ」

「まあ、それは大変です!」


 一体何が起こるのかは分かりませんが、神妙な面持ちでライル様が言うのですから回避できるのならば回避した方がいいでしょう。


「夜会に参加するだけでいいのですか? 何か他にお手伝いする事があれば何でも言ってください。微力ながらご協力いたしますから」

「ありがとうリリちゃん!」


 ライル様は私の手を両手で掴むと、勢いよくその手を振りはじめました。

 少々腕が痛いです。


「着飾ってディートの隣にいてくれさえすればそれいいから! ホントそれだけでいいから! 絶対に来てね! 絶対だからね!」


 何度も念を押すライル様は、「参加者名簿に名前載せとくから!」と言い残して帰って行かれました。


 まだ正式な参加は決まっていないのですが、訂正した方が良かったでしょうか?






◆◆◆◆◆






「ライルが夜会の招待状を?」


 夜。ディー様に昼間ライル様がいらした事を話すと、何やら怪訝そうな顔をなさいました。


「どうかされたのですか?」

「いや、まさかリリに直接招待状を持ってくるとは思わなくてな。まあ最近やたらと避けてくるから俺には渡せなかったというのは分かるんだが」

「喧嘩でもなさったのですか?」


 もしかしたらディー様と仲直りするために夜会に招待して下さったのでしょうか。ディー様と二人きりだと気まずいから私にも参加の要請をしたとか。


「喧嘩ではないんだが、少々面倒な事になっていてな」

「そうなのですか」


 仲直りのためではないとすると、一体この夜会への参加がお二人にとってどのように重要になってくるのでしょうか。


「フロウ伯爵家の夜会か……」

「どうされますか? その、私は参加してみたいのですけれど」


 少し頑張って自分の気持ちを告げてみると、ディー様から淡い笑みが返って来ました。


「フロウ伯爵家の夜会なら参加者も厳選されているだろうし、丁度いいかもしれない」


 ディー様は持っている招待状に一度視線を落とすと、再び私に顔を向けてきました。


「早速仕立屋を手配しておこう。ドレスはリリの好きなように仕立ててもらうといい。俺のはリリに合わせて作らせる事にする」

「いいのですか?」

「ああ」


 ドレスを仕立ててもらうなど初めての事です。実家にいた頃は出来合いのものを購入して自分で好きなように改造していたので、私だけのために一から作ってもらえるというのはとても嬉しいです。


「あ、でもディー様が揃えてくださっていたドレスを手直しするだけでも私は構いませんよ?」


 私が侯爵家にやって来た当初、ディー様は私のために色々なものを用意してくださっていて、ドレスもその一つだったのです。ですがクローゼットに入っていたドレスは全て私には大きすぎるものばかりで、今現在は何着かのドレスの裾を直して着ているという状態なのです。


 ドレスのサイズが大きいものばかりだった理由は、屈強な女戦士のごとき逞しい女性が来ることを想定していたからでしょう。私がドレスにピッタリな筋肉質の体つきだったなら何も問題はなかったのです。そうしたら初めて顔を合わせた時、ディー様にガッカリされなかったでしょうに……。


 ああ、いけません。今は過去の出来事に落ち込んでいる場合ではありませんでした。


「しまった……すっかり忘れていた……」


 項垂れながら何事かを呟いていたディー様が気を取り直すように私の方に向き直りました。


「すまなかった。ドレスに関しては新しいものを用意しておくようにダグラスに頼んでおく。だから今あるものは処分してくれ」

「そんな! あのドレスは嫁いでくる私のためにディー様が用意して下さったドレスです。確かに私では着る事はできませんでしたが、それでも私にとってはとても大切なドレスなのです」

「リリ……」


 サイズの大きなドレスたちは、いわば目に見える目標でもあるのです。ドレスに見合った屈強な体の女性になるためにいつもドレスを眺めては気持ちを新たに筋力トレーニングに勤しんでいるのですから、処分など出来ません!


 何より、あのドレスたちはディー様が私のために用意してくださっていたものですから、たとえ着れなくても永久保存は決定事項です。


「そんな風に言ってもらえるのなら用意した甲斐もあったというものだ。だが、その、着られないサイズの物を用意してしまっていた事は申し訳ないと思う」

「そんな事はありません。着られないなら着られる様にすればいいだけの事ですから。私、頑張りますね!」


 いつかきっとドレスにぴったりな筋肉質な体になってみせますからご安心を!


「そういえば、リリは裁縫ができると言っていたな。そうういう事ならリリのいいようにしてくれて構わない。だがあまり無理はせず、侍女たちにも手伝ってもらうといい」

「え? はい……?」


 何故ここで裁縫の話になるのでしょうか? それに何を侍女の皆さんに手伝ってもらうえばいいのか……ハッ! まさか侯爵家の侍女の皆さんは裁縫をすることによって腕力を鍛える技術をお持ちなのでしょうか!?

 今まではがむしゃらに体を鍛えておりましたが、部分的に集中して鍛える事で徐々に体を逞しくしていくという方法もありですね!

 そうと決まれば、この後早速侍女の方々に話を伺ってみる事にいたしましょう。


「だが、やはり今回の夜会にはドレスを新調しよう。俺もリリと合わせた礼服が着たい」

「そ、そうですか?」


 お揃いの礼服が着たいと言ってもらえた事が嬉し過ぎて頬がとんでもなく緩んでしまいました。


「私もディー様とお揃いのドレスが着たいので、お言葉に甘えてドレスは新調させていただきます」

「ああ。楽しみにしている」


 そう言って微笑んでくれるディー様に、私も笑顔を返します。


「ディー様はどのようなドレスがお好みですか?」

「リリが着るものはどれも好みになると思う」

「それでは参考になりません」


 そうやってしばらく二人でどんなドレスにするかを話し合いながら楽しい時間を過ごしました。




 招待状を持って来られたライル様の様子は少々気にはなりますが、夫婦揃って参加する夜会に期待を膨らませながら、私はその日が来るのを楽しみに待つ事にしました。


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