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閑話・親友が結婚しました

 俺にはとっても大切な親友が一人いる。


 親友の名前はディートルト・レヴェリー。国でも上位に位置する超名家のレヴェリー侯爵家の嫡男だ。とはいえ、ディートは子供の頃に両親を亡くしているから、成人を迎えてすぐに家督を継いでいる。その時はまだ前当主だったお祖父様も健在だったみたいだけど、お祖父様はディートが成人するまでの繋ぎとしてもう一度当主をしていただけだから早々にディートがレヴェリー侯爵家を継いだんだって。


 ディートは大貴族であるレヴェリー侯爵家の当主で凄腕外交官で見目も良くて(眼つきがメチャクチャ鋭くて怖いけど)、おまけに女遊びなんて全くしない真面目で誠実な男だ。この条件だけ見れば貴族のご令嬢たちにさぞ人気で縁談なんて引く手数多なのだろうと思うところだけど、残念な事にディートには縁談の気配なんて微塵もなかった。


 その理由は簡単だ。

 ディートにはそれはもうとんでもない噂がこれでもかというほど囁かれているのだから。






◆◆◆◆◆






 仕事の用事で町に出ていた時、偶然会ったダグラスさんが可愛い女の子を連れている現場に遭遇した。こんな可愛い親戚がいるなら紹介して欲しいんだけどな、とか考えながらダグラスさんに一緒にいる女の子の事を聞いてみれば、彼からとんでもない一言が告げられた。


「こちらの方は旦那様の奥様です」


 いやもう何が一番ビックリしたかって言えば、ディートがいつの間にか結婚してた事でもなく、相手があのリリア男爵家のご令嬢だった事でもなく、結婚した事を親友である俺に黙っていた事だ。


 そりゃあもうビックリしたよ。そして大いに凹んださ……。


 いや、ディートが結婚した事を隠したい気持ちは分かるんだよ。だってリリちゃんって物凄く可愛いんだもん。リリア男爵家の噂からは絶対想像できないような美少女なんだもん。噂のせいでディートに縁談話が全くない事は俺も知ってたから、ディートからしたら絶対に手放したくない相手だったと思うんだ。でもさ、リリちゃんに心変わりされたくなかったんだろうなっていうのは分かるんだけど、親友の俺には結婚した事教えようよ!?


 でもまあ、いい機会だからと思ってリリちゃんを誘って最近流行りのカフェでお茶をした。

 だって外見はとっても可愛いけど中身はとんでもない悪女だったら困るでしょ? ディートの家は国でも十指に入る程の名家だから、もしかしたら財産目当てで嫁いできたかもしれないし。ここは親友である俺がちゃんと確かめておかないといけないと思うんだ、うん。


 そんな風に内心では気合を入れていた訳だけれども、話してみたらリリちゃんはとっても良い子だった。

 リリちゃんはディートの噂の事も知っていて、尚且つディートの事を百戦錬磨の兵士の如き筋骨隆々で熊のように体の大きな男だと思ってたんだって。そんな男に嫁ごうと思ったなんてどれだけ胆が据わってる子なんだろうね。もうその話聞いただけでこの子は絶対大丈夫な子だと確信しちゃったよ。

 その後、何だかとんでもない方向に話が向かって行っちゃったけど、リリちゃんはディートのために頑張ろうとしてくれている事だけは分かったから、この子とならきっとディートは幸せになれるだろうと思えた。


 リリちゃんがとっても良い子だと分かったからには、心からの祝福をディートに伝えなければならない。何せ、女の影すら微塵もなかった親友の結婚だ。これが祝わずにいられるか。


 そんな事を考えながら、次の日の出仕で祝いの言葉を告げる時期を見計らっていたんだけど、いざそれを告げてみると何故かディートは落ち込んだような素振りを見せた。

 リリちゃんはディートの好みど真ん中の子だからてっきりお嫁さんに出来た事を喜んでいるモノと思ってたんだけど、何か俺の予想はちょっと外れてたみたい。


 ディートは自分に好き好んで嫁ごうと思う子はいないとか本気で思ってるみたいで、それを自分で言って落ち込んでいた。今までディートは自分の噂なんか全く気にしてないような感じだったから、正直ここまで噂を気にして臆病になっているとは思ってもみなかった。

 きっとそれだけリリちゃんの事を好きになってるんだと思う。だから嫌われたくなくて臆病になっちゃうんだろうね。普段の刺々しいディートを知っているだけに、この違いの落差にはさすがの俺でも困惑したけど……。まあディートもただの男だったんだと思えば、好きな子のために一喜一憂している姿は微笑ましいと思う。

 そんなディートを見ちゃったら、いつもは俺に対して傍若無人で、俺の事を無下に扱い、俺をボロ雑巾のようにこき使っていようとも、親友の遅咲きの恋を応援しない訳にはいかない。ここは俺が一肌脱ぐべきだろう。ディートの親友として!


 そんな訳で。まずは臆病になっているディートの背中を押してやろうと思ってリリちゃんはちゃんとディート自身を見てくれているという事を伝えようとしたんだけど、何かおかしな方向に話が進んでいってしまった。


 何で騎士団長さんみたいなゴリマッチョになりたいとかそういう話になるんだろう……。リリちゃんも体を鍛えたいとか言ってたし、もうこの夫婦訳が分からないよ……。


 似た者夫婦とは正にディートとリリちゃんの事を言うのだと、俺はこの時心底思った。






◆◆◆◆◆






 それからというもの、ディートは事あるごとに俺にリリちゃんとの事を相談してくるようになった。

 こういうのって何だか嬉しいね。ディートはいつも「友人ではない」とか何とか言ってるけど、大切な人についての相談なんてそれなりに信頼関係がないとできないと思うから、ディートはちゃんと俺の事を信頼してくれているんだと実感できて嬉しかった。


 でもさ、その相談内容ってのがディートらしいというか何と言うか……。


 話を聞く限り、どうして気付かないんだろうっていうものが多くて困る。今時子供でも分かりそうな事だとしてもディートはいちいち首を捻って考えている。真面目なのは知ってるけど、そういう事は心で感じるものだと思うな、俺は。

 首を捻っても分からない事は直接リリちゃんに聞けばいいのにとも思うけど、ディート本人は夫として妻の事は察するべきとか何とか小難しい事を考えているようで直接聞く事はしていないらしい。


 もうね、付き合い始めたばかりの恋人か!? って言ってやりたいけど、会ったその日に夫婦になった二人にとっては付き合い始めた恋人同士も同然なんだろうなとも思う。まだまだ二人にとっては手探りな状態なのだろうと思えば、ディートの悩みも当り前の事なのかもしれないね。手探り過ぎて間違った方向に向かっていく事も多々あるけどね……。


 まあ、そんな風に手探りながらも二人は二人なりの夫婦の形を見つければいい訳だし、これから二人の時間はたくさんあるんだからゆっくり愛でも何でも深めて行けばいいんじゃないかな。


 俺は二人の事ちゃんと応援してるからさ。

 だからしっかり幸せになってね、お二人さん。


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