ご依頼は?
「とっても美味しいわ。この紅茶。」
「ありがとうございます。」
…
…いつの間にか小さなお茶会が始まっていた。
マリーも久々の女性ということもありなんだか嬉しそうだ。
彼女が笑顔なのは私も嬉しい。
が…
「…ところでお嬢さん。ご依頼というのは?」
私の言葉にハッとした少女。
どうやら忘れていたらしい…
「ああ!そうでしたわ。紳士さんに奪われてしまった主人の形見を取り返して頂きたいの。」
「主人…というのは?」
失礼かもしれないが目の前の女性はどう見ても10代いくか行かないかの容姿をしていた。
「私の主人…つまり夫です。五年前に亡くなってしまったのですけれど…あら?こう見えて私もう百年も生きてますのよ?」
「百っ!?…失礼。」
「驚くのも当然ですわ。皆さん同じリアクションをしますもの。ああ!自己紹介が遅れましたわね。私…」
彼女の名前は
マーガレット・アムール
今年で108歳を迎えるらしい。
元研究者であり夫も同じ職場で出会ったそうだ。
新薬を無理に試してみたところ今の姿になってしまったらしい。
「…まあ、自業自得ですわね。」
そう言ってなんでもないかのように彼女はまたカップに口付けた。
「は、はあ…」
この世界には様々な人がいるものだ。
「それで形見と言うのはどのような?」
「眼鏡ですわ。」
「眼鏡…と。それは何か特別な仕様であるものとか?」
「…いえ、ごく普通のですわ。ただもしかしたら主人のことですから、何か仕掛けがあるのかも知れませんわね。」
困った人ですのよ。
そう微笑んだ彼女は優しく、強かな…女性の表情をしていた。
「わかりました。マーガレット夫人。貴女の望み、必ず、叶えて見せましょう。」
「ありがとうございます。闇夜の紳士さん。」
さて、先ずは情報収集だ。
彼女の証言によれば昨夜書斎の窓ガラスが割られていたらしい。
取られたものは眼鏡のみ。
…なかなか変わった犯人だ。
これは…「マリー、彼に連絡を。少々力を借りさせてもらおう。」